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「ただいま」
誰もいないとわかっている部屋に、それでも律儀に千春は帰宅を報告した。靴を脱いで部屋に入る。
「あった!」
どこかに落としてきたのではないかと冷や冷やしていたが、テーブルの上でおとなしくしている携帯電話を発見して胸を撫で下ろした。手を伸ばすと、充電ランプが緑色に点滅した。
新着メールが届いていた。
「秋桜さん?」
メールはお昼に届いていた。学校から帰宅した今はもう、夕方だ。
メールを開いてみる。

 今週中にもう一度会うと言っていたが、状況が変わった。俺は信親と一緒に、城崎邸の敷地の側の離れに監禁されている。
 鍵は繁親が持っていて、内側からは外に出られない。

千春は、首を傾げた。監禁、と口に出してみる。実感の湧かない言葉だ。自分と同じ家に暮らす人間に、監禁される。犯罪者と同居しているようなものじゃないかと千春は思う。
自分の通学鞄の中からノートを一冊取り出すと一番初めのページを開いた。城崎邸の見取り図がとても丁寧に描かれていた。最悪の場合、自分一人で突入する覚悟でいたのだ。情報は根こそぎかき集めた自信がある。
「離れ……」
城崎邸の庭の西側に、小屋のような建物があるのを千春は知っている。これ以外、まわりにそれらしい建物はない。建物の周りは警備員もおらず容易に立ち入れたため、一度入ったことがある。ここに行くのに、正門を突破する必要はない。隣の民家との隙間から、この雑草地帯に踏み入ることができる。確か鍵は、手でねじをひねるだけの簡素なものだった。外から近づけば、誰だって開けられる。
千春は、そのことをメールで返信する。
秋桜からの返信はすぐに来た。アドレスがパソコンのもので、件名に名前が書かれている。携帯電話から作成されたのではなく、自分でメールを作成して送ったのだろう。

 なぁ、やっぱり、のぶのこと誘拐してくれよ。
 俺も手伝うから。
 監禁したってのぶを傷つけるだけなんだよ。
 ちょっとあいつらに、痛い目見せてやりたいんだ。

千春は、頭を抱えた。城崎を引っ掻き回すつもりは、まだ、ないのだ。今はただ、欲しい情報だけを手に入れたい。誰も教えてくれない禁忌を解き明かさなければいけない。千春が何も知らないままで居続ければ、きっと何も手に入らない。何もかも、このままだ。城崎をどうこうするかは、その後で考えることのはずだった。

 おとなしくしてた方が、外に出られるんじゃないんですか。

運よく脱出できたとして、その後、警戒して、さらに拘束が厳しくなるかもしれない。千春自身もあまり悠長なことは言っていられないが、そう急く必要もないように思われた。しばらく待っていれば解放されるかもしれない。

 おとなしくしてても、外に出られる保証はないんだ。
今回はいつもとは様子が違う。
 ひと暴れしてやった方がいい刺激になるよ。

千春は、果たしてそういう物だろうか、と考える。城崎家の事情は分からない。なんといっても身内に監禁されるような家庭だ。どうしたって理解できそうにない。

 それに、あんたは俺らの身柄の代わりに、俺のデータを要求すればいい。
 ニュースにはならないようにすると思うぜ。
 俺のことは城崎にとってデリケートな話題だし、のぶを監禁していたってこともばれる。

結局こういう流れになっちゃうわけね。
千春はメールを読みながら、ため息をついた。
きっと秋桜もわかっていることではあろうが、こんなものは通信記録の裏付けをとることができればすぐに足がつく。本当に、事件を起こしたいだけなのだろう。現状を打破するきっかけを欲しているだけなのだ。城崎繁親を相手にして、うまく出し抜けるとは思えない。それでも、どうやらこのままでは千春の積年の計画も頓挫してしまうようである。

 あした、暗くなってから、迎えに行きます。

作品名:Delete 作家名:姫咲希乃