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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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どうってことないさ・・ (2)

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俺は、開店間もない一軒の飲み屋に入った。

「あら~・・あんた、未だ生きてたの?」

少々お道化た表情で、
古株の女が近寄って来た。

互いにハグし合いながら、
「死んで堪るか。逝くのは、姉さんの墓参りの後だ・・」 と
俺は、呟く様に言った。

テーブルで、おっさんの思い出話をする。

マジェリータ・デル・ロザリオ
この界隈に来てからの俺を全て知っている女性。
俺は、
この女性を本当の姉の様に感じていた。

彼女も、
その事は充分察していたと思うが、
決してそれを口には出さなかった。

「あんた、どうしたの・・?」
「何が?」

こんな遣り取りから、俺は、チャイリンの旦那の一件を話し始めた。
そして、
「助けが欲しい・・。この店を、暫く休めないか?」
と。

彼女は、ジョッキに半分程残っていたビールを一気に飲み干した。
そして、立ち上がり、空のジョッキを持って奥へ入った。

15分足らずで戻って来た彼女は、
バッグを肩にかけ、スーパーのプラスチック袋を手に持ったまま席に座りもしないで、

「あんた、私の家(うち)に泊まりなさい。帰るよ・・」 と
「・・・(もう、話を着けたのかよ・・)」

座ったまま見上げる俺に笑い掛けながら、
彼女は、小さく頷いた。

行き交う人が、やっと擦れ違える小さな路地。
子供たちの笑う声、赤ん坊の泣き声、
酔っ払いの叫ぶ様な歌声を冷やかす女たちの甲高い声。

その横を、
店で見せるのとは全く別の顔で俺の前を歩く彼女。

ひしめき合う粗末な家の間をすり抜け、
勝手に流れ道が出来た様なドブを跨ぎして、
彼女の家に着いた。

「Japanese だって・・?」 と
彼女の両親が俺を怪訝そうに、マジマジと見つめる。

「気にしなくても良いの・・この人、私たちよりもフィリピン人みたいだから。・・喧嘩っ早いし・・・ね?」
と、俺を見ながら・・
何て紹介の仕方だ・・

「驚いたでしょ、酷い家で・・?」
「いや、驚きはしないさ。俺なんかもっと・・」
「もっと、何よ?」
「・・・いや・・失礼・・」
「・・そうよね。あんた、ストリート・チルドレンと寝てたんだものね。」
「・・・・まあ・・そうだけど・・」

大きなポリバケツに溜めた水で汗を流し、
夕食を食べた後、
俺たちは、おっさんの店で共に働いていた頃の話で盛り上がった。

ビールとラム酒を飲み過ぎた。
チャイリンの心配げな顔が脳裏を過る・・

彼女の旦那の事は、気がかりだが、
まず、クルクル回る頭を何とかしなければ・・

取り敢えず、部屋の隅っこを借りて、
ゆっくり寝て、
明日からの事にするか・・






   この国って、嫌だけど 何故か 好き(2)


「見ろ・・、よく見るんだぞ、ユウジ。」

大勢の人から離れ、
ポツンと立ち尽くしている俺を、よっちゃんのオヤジさんが見付けて近付いて来る。

「お前のばあちゃんが、煙になって天国へ上がっているんだ・・。ユウジ、これが最後だぞ・・しっかりと見ておくんだ・・」
と、
よっちゃんのオヤジさんは、大きな腕で俺をギュッと抱きしめて言った。

そんな俺たちを遠巻きに眺めながら、
近所のおばさん連中が話している。

極道の親父は、葬儀に戻って来なかった。
だから、いきなりオジキに喪主のお鉢が回って・・

「とんだ出費だ・・」 と

ばあちゃんの死を悼む前に、金の話だ。
おまけに、
あとに控えた、未だ生きてる俺の事も有る・・

何が哀しいというのではないが、
昔、
俺は、時々、
家の横に在る納屋の裏で、一人こっそりと泣いた。
特に、
西の空で、夕陽に照らされた濃い鼠色の、流れる様な細い雲を見ると、
心の中で、『ばあちゃーん!』と叫びながら・・

そして、これでもかというほど、涙をしっかりと拭いて、
また家の中に入る、『またメソメソしてたのか!』 と叱られない為に・・

だって、
俺が泣こうと笑おうと、
何時でも、ばあちゃんは笑いながら頷いてくれた、
『あんたは賢いね・・』 と言ってくれた。
そんな、ばあちゃんとの納屋の裏での秘密は、俺だけのものだから・・

だが今日は、
拭いても拭いても涙の跡が消えない・・
それを、
『このままじゃ駄目だよ、お兄ちゃん・・また、叔父さんに叱られるよ・・』 と
チャイリンが笑いながら拭いてくれている・・

「フフフ・・」
「へへへ・・」 という
子供の笑い声で、俺は、目覚めた。

(・・な~んだ、マージーの子供たちじゃないか・・)

俺があまりにも起きないので、
彼等が、俺の頬を突っついていたんだ。

子供たちは、俺の目覚めを母親に知らせる。
もう午前10時を過ぎている。

マージー(マジェリータ)は、
「あんた、覚えている?」 
と二人の女性を連れて来た。
「ああ、忘れるもんか・・、俺より短気なリンダ・・と、あんたの妹のガマリエラ・・」
「そう・・、三人で行くからね。あんたは、少し後から来れば良いよ。」

昨夜、マージーと話した。
チャイリンの旦那に絡んだ奴らが入り浸っている店で、
あの時の様子を出来るだけ詳しく聞き出そう。
そして、関わった奴等の名前を全て調べ・・、首謀者を特定する。

調べるまでも無く、首謀者は、分かっているが・・
まあ、念には念を入れて

一週間ほど後に、
三人は上手く奴等の出入りする飲み屋で働く様になった。

三人とも歳は喰っているが、
流石に長年マニラで働いていた強者だ。
たちまちのうちに、彼女らを目当てに客どもが・・

田舎町へ出かける前に、マージーが言った。

「三人とも、あんたの味方だよ。あんたは、私たちを一人の人間として付き合ってくれた。私の事を、心の底から『姉さん』と呼んで慕ってくれた・・。お陰で少しは真っ当に成れたよ。他の二人も同じだよ、物や道具としてじゃなく、人間として付き合ってくれたと、リンダも言ってたよ。あんたを助ける為なら、嫌で反吐が出そうな男とでも寝て遣るって・・」

なんだか俺は、ジーンと来た。
助けられたのは、俺なのに・・

よしっ! と勇気が出て来た。
俺は、もう少し此処で準備をして・・

今回は、あくまで正攻法だから・・






   この国って、嫌だけど 何故か 好き(3)


・・ああ、それは好きだったさ・・今でも、そうさ

俺が、初めて村に辿り着いて、
お前のPapaの漁を手伝う様になり、
少し仕事にも慣れて、
ふと気付けば、

俺とまだ14歳だったお前は、もう仲良しだったもんな・・

人の心って不思議だな

隣の奴とは、顔を見れば喧嘩の毎日だったり、
異国で言葉も碌に通じないのに、
出逢った途端に、お互い全て知り尽くしているかの様な気持ちになったり・・

今では、
間違いなく、俺たちは一番の理解者だろうな・・
・・そりゃ、男と女だもの、長い間には色々な感情も芽生えたさ・・、お前だってきっとそうだろう・・?

高架を走る車窓から外の景色を眺めながら、
俺は、一人、チャイリンと話しをしている。

「・・だが、俺たちは、お互いお兄ちゃんと妹という関係を選んだ・・。それで良かったんだ・・」

俺たちの選んだ道は、
二人、別れる事も無い。
喧嘩は、するだろうけど、すぐに仲直りするさ・・