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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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どうってことないさ・・ (2)

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また 振り出し・・


山の朝は、
何だか、日本の夜明けと同じ雰囲気がして、

このところの仕事はきついけど・・もう、毎晩クタクタだけど、
俺に、新しい元気を与えてくれる。

初めて此処に来た時は、
ほんの僅かの水田と、草や灌木を払った貧相な畑しか無かったが、
今は、
水田の数も増えて、
山の学び舎で暮らす子供も、徐々に多くなってきた。

俺は、その学び舎で、
時々算数を教える様になった。

変われば、変わるもんだ・・
日本で、かつて問題児だった俺が、
此処ではセンセだもの・・
だが、

「今日から、新しい水路を造るぞ。」 と
太っちょが話している時、
ハイ・スクールの用務員のおっさんが、息を切らして駆けて来た。
そして、

「明け方、チャイリンの旦那が、警官にしょっ引かれた・・」
と・・

太っちょも俺も、
一瞬、言葉を失った。

「どうして・・?」 と
太っちょが、訳を聞き始めたが、
俺は、
話なんか聞く前に、もう村に向かって走り出していた。

後ろで誰かが、何か叫んでいるが、
俺の頭は、
もう真っ白になって・・

あの野郎・・ 俺の・・

俺の・・チャイリンを・・
あれほど約束したのに、

俺のチャイリンを・・泣かせやがって・・

山を下る間中、
俺は、ずっとその言葉を繰り返して・・
そして、

教会の前で、
オロオロしているチャイリンを見付けたら、
もう、何にも要らない!
兎に角、
奴をぶっ殺す為の少しだけの時間をくれ! と

教会の中を睨み付けながら、神さんに叫んでいた・・

「落ち着きなさいよ!」

ドン先生と、数人の男たちが、
とっくに普通じゃ無くなっている俺を必死になって止めた。

・・

・・少し落ち着いた俺は、
奴が連れて行かれた訳を聞き、
それまで荒れていた自分が、恥ずかしくなった。

奴は、悪くなんかない。

数か月前、奴がチャイリンと里帰りした時、
村の家族と、
街の祭を見物に・・

其処で、
たまたま飲んで騒いでいるグループに絡まれた。
彼は、
「冗談は、止せよ。」 と
笑いながら言った。

その落ち着きぶりと、
彼から出る、ある種の不気味さに、
一旦、グループは、
何も無かったかの様に、背を向けて飲み始めた。
だが、

運命の悪戯か、神さんのほんの遊び心か・・

そのグループの一人が、チャイリンを覚えていた。

奴等は、再び・・
かつて、チャイリンが船具屋の息子に辱められた事を持ちだして・・
だが、からかわれても、彼は怒らなかった。
それを良い事に、

腕に自慢のある奴が、彼に殴りかかって来た。
彼は、それを軽くかわした。
そのうち、
かわされた反動で、
殴りかかった奴の拳が、店先の柱を掠め、
奴は、転んでしまった。

「それで勝手に手を怪我したくせに・・、今朝早く、障害で訴えられていると・・。」
「一体、何か月前の事を、今頃持ち出すんだい・・」

・・それが、この国さ。
きっと、その時の事が船具屋の耳に入り、
面白いから・・、あの時の仕返しにとばかりに考えて、
小金を使って訴えたんだろう。

話を聞き終えた俺は、
再び教会の方に向かい、頭を下げた。

「なかなか殊勝じゃないか、神様にお詫びするなんて・・」
と、
ドン先生は、言ったけど、

そうじゃない。

俺は、
再び煮えたぎる様にむかついて来た。
そして、

今度こそ、本気だ。
命なんか要らない。
だから・・暫くで良いから、
俺の チャイリンが、幸せを取り戻すまで・・

一人部屋に戻り、
そのまま眠った  ふりをした。
チャイリンが、様子を窺いに来たが、
俺は返事をしなかった。
そして、

その夜、
着替えを詰めて、
黙って町まで行き、知り合いのトライシクル・ドライバーを起こした。

「マニラまでだって? ・・朝まで走っても着かないぞ。」

「構うもんか。黙ってすぐに連れて行け!」






怖くて 来る 震え


暫く走った海岸線を逸れ、
トライシクル(サイドカー付バイク)は、くねくねと曲がる山道へ・・

最初は、遠すぎると二の足を踏んでいたドライバーだが、
俺の提示した運賃の所為か、
元よりの職業魂からかは知らないが、

大きなエンジン音で聞こえもしないのに、
口笛を吹きながら、
堅いシートに座って、ガンガン振動を受けている俺の事なんかお構いなしでスピードを上げる。

チャイリンの旦那を救おうと、
ただその一心で、村を出たけれど、

救う手立てなど考えてはいないから・・

マニラに向かう道々考えるさ 
どうせ一日や二日では、どうなるものでもないからと・・
だが、

このバイクの激しい振動と、
バリバリという、けたたましい騒音の中では、
舌を噛まない様に、歯を食い縛っているのがやっとだ・・

朝八時半、俺は、マニラのロートンに着いた。
そして、朝食を取りながら、
いかれ野郎を想った・・、こんな時、彼ならどうするかと・・

彼は、 俺が知る限り
万端の準備が出来るまでは、絶対に動き始めない。
そして、
全てが整ったと見るや否や、
まるで機械の様に休まず動く。
例え、それが数日かかろうと、不眠不休で結果が出るまで
動き続ける。

俺には、彼の様な人脈はまったく無いに等しい。
だから、
少々時間を要しても、
今回だけは、正攻法で・・と、それだけは決めていた。

怖い・・

闇討ちでもして、一気に片付く様な事なら簡単だが・・
一連の、俺なりの筋書きを考えて、
いざ・・と、そのおさらいをするほどに

兎に角、怖い・・

上手く行かない時どうするんだ・・?
現実は、殆ど思い通りに行った験しは無いぞ・・
と、
もう一人の俺が、不安を増長させる。

いかれ野郎の言葉が、
『怖くて、怖くて仕方がない・・』 という言葉が・・
だが、
暫くじっと耐えていると、
今度は、
『だから、後ろは見ない。只々良い結果を思い描いて、前だけ見て突っ走るんだ・・』 ともいう言葉が・・

俺は、思った。
これが・・命を惜しむ、という事かも知れない・・
自分は、良い結果を求めて精一杯遣って見るだけ。
後の事は、どうなろうと知った事じゃない。
失敗すれば、
逃げ足速く姿を消して、
また新しい考えを絞り出せば良いだけさ・・
障害罪くらいじゃ、死刑になどなりはしないさ・・

俺は、朝食を取った飯屋を出ようとした。
と、
後ろから、俺を呼ぶ者が居た。

「お兄さん・・」
「・・・?」
「勘定が未だなんですけど・・」

いかんいかん・・こんなんじゃ、成るものも成らないぞ・・

俺は、苦笑しながら支払いを済ませ、
モニュメントのやや北方に在る、古い飲み屋へ行く為に、手を挙げてタクシーを停めた。






この国って、嫌だけど 何故か 好き(1)


モニュメントを眺めながら、暫し足を停める。
今は亡き、
おっさんの顔が、何故か浮かんでくる。

「人生を見ろ。」 ・・って、何時もの彼の口癖が聞こえて来る。

「ああ、言われるまでもないさ・・」

俺は、声を出しておっさんに応えた。
そして、
おっさんに拾われて以来、それこそ嫌という程、
あらゆる哀しい人生を見せつけられた、昔と変わらない街並みに足を入れる。

夕方、