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海竜王の宮 深雪  虐殺11

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「静晰、そろそろ放せ。おまえが寂しそうにするから、深雪も離れないんだ。」
「は? 」
 ものすごい寂しそうだぞ? と、夫に笑われて、静晰も気付いた。長いこと、世話していたので情は移っているらしい。腕の中の小竜に顔を向けると、こちらも心配そうな顔だ。
「私が寂しがっているから慰めているのですか? 深雪。」
「・・うん、俺も寂しいよ? だから、一緒に行こ? 三姉。」
「それはできません。私には私の仕事があるのです。・・・そうですか、ようやく、私の心も届くようになったのですね。」
 以前、蓮貴妃が罵詈雑言を小雪に吐いていたが、小竜は嬉しそうにしていた。たぶん、そういうことなのだろう。ようやく、慣れて静晰の心も読めるようになったらしい。
「うん、見えてる。帰れるのは嬉しいけど、三姉が寂しいって言うから、ちょっと困ってる。」
「一時のことです。気にしなくてよろしい。・・・さあ、華梨様、お返しいたします。」
 接触していると読める程度には回復しているらしい。それなら離せばいい。小竜を華梨に手渡して、叩頭する。本来なら、正式な口上を述べて送り出すのが静晰の役目だ。
「長らくお待たせして申し訳ありませんでした。どうぞ、良い空の旅を。」
「ありがとございます、静晰姉上。いずれ、お暇をみつけて、どうぞ水晶宮にも来訪してくださいませ。背の君がお待ちになっておりますので。」
「承知いたしました。いずれ、推参させていただきます。」
「ちゃんと来てよね? 三姉。俺、待ってるからっっ。」
「はいはい、深雪。黙りなさい。今、ご挨拶をしているのです。こういう時は、おまえは黙って聞きなさい。」
「無理を言うな、静晰。深雪に公式の儀礼なんて無理だぞ。・・・ほら、深雪、バイバイだ。ちゃんと静晰は遊びに行かせる。俺が約束するよ。」
「うん。バイバイ、三姉。」
 完全にわやくちゃにされて静晰は、きちんとできなくて残念だ。だが、それほど怒っていない。なんせ、小竜は小さいのだ。西海の宮の正門の前で、小竜は竜体に変化した。銀色に輝くような白い鱗だ。夫も同じように変化して、小竜を背に乗せる。それから、黄金色の竜が最後に現れて、後に続く。ゆっくりと海中を昇って行く。それを見送って、ちょっと静晰も泣いた。あんなふうに飛べるようになったのは、看病の成果だ。それに、逢いたい、と、言ってくれたことが嬉しかった。あまりにも生真面目に正論を吐く静晰は、端からすると煙たい存在になりがちだ。それが、おまえの持ち味だ、と、夫は認めて求婚してくれた。その時も、嬉しかったが、それと同じように、叱るばかりの言葉に嬉しそうにしてくれた小竜の態度も愛しかった。




 西海の宮から水晶宮は竜王たちが全速力で飛べば、半日とかからない距離だが、背中に小竜を負ぶって飛ぶとなると、半日と少しかかる。普段なら従者をつき従えているのだが、今回は華梨と叔卿だけだ。なるべく、小竜の姿を他のものに見られないため隠密に行動している。それでも、警護は必要だろう、と、朱雀が二羽、海中から飛び上がった段階から周囲に現れた。簾と蓮貴妃が護衛にやってきたのだ。この陣容なら、何に襲われても対応はできる。ついでとばかりに、麒麟たちの一団が、さらに、その外周に現れた。青、赤、黄、黒、白の麒麟が何十頭と飛ぶ様は滅多に見られるものではない。麒麟の長である青飛が命じた護衛だ。自身は、西王母の行列に並ばなければならないので、配下に命じた。麒麟が守るということは、西王母の命を受けているということだから、おいそれとは襲えないからだ。
 水晶宮の領域に入る寸前に、麒麟の一団は離れて行った。隠し扉に辿り着く前に、竜と朱雀は人型に変化する。もちろん、小竜も人型に戻したが、すでに疲れて眠っている。竜体を維持するだけの体力は、今のところ、深雪にはない。変化するだけで体力は尽きる。それをそっと上着のうちに隠して華梨が隠し扉を通り抜ける。
 そのまま、小竜の私宮に辿り着くと、そちらには両親が待っていた。ふたりして、華梨から小竜を預かり抱き締める。
「よく戻ったな、深雪。おかえり。」
 くーすかと寝ている小竜に微笑みかけて、寝所に入ると、そちらには長と紅竜王、黒竜王も待っていた。おかえり、と、声をかけると、こちらは顔を眺めて出て行く。どうせ眠っているのだから、顔さえ見られれば満足だったらしい。白竜王が蓮貴妃に、西海の宮で使っていた薬を渡す。薬師様が、今後の分として用意して行ったものだ。怪我のほうは完治できたが、体力的な問題があるから、そちらの用法のものだ。それは蓮貴妃が担当することになっている。
「小竜のほうは、私が看ておりますので、お引取りを。」
「そう追い出さないでくださいな、蓮貴妃。ようやく、夫は顔を拝めたのですからね。」
 白那は、西海の宮に深雪が運ばれてから一度も対面していなかった。妻と娘が深雪の許へ滞在する時間を捻出するため、ずっと水晶宮のほうに居座っていたからだ。寝台で眠る小竜は少し小さくなった感じだが、顔色は悪くない。早く戻れてよかった、と、その顔を眺めて頬を撫でている。
 次の間で、白竜王と華梨は、謡池と崑崙からの先触れの報告を受けていた。薬師様と乳母様は戻る前から手配させていたらしい。三日後に訪問する、とのことだ。それで水晶宮の幕閣たちも慌てている。当の小竜は西海の宮に引き篭もっていると思われているからだ。
「公式の訪問ではないから、儀礼を尽くす必要はないが、表からいらっしゃるのでな。」
 長が先触れについては対応した。公式ではないので、それほど大袈裟にしなくていい、とは命じてある。小竜は、すぐに連れ戻すことも約してあるので、今は、もてなしの準備をしている最中だ。こうなるから、あまり表立って薬師様も乳母様も現れない。表からとなると、宴をしてもてなさなければならないし、どちらも正装に近い衣装で挨拶しなければならない。どちらも面倒なだけだ。ただ、今回は小竜は水晶宮に戻っているということと後見人の二人が、とても小竜を可愛がっているということを印象付ける必要があって、そうなった。薬師様も乳母様も、東王父、西王母として小竜と対面するのは、正式には初めてのことになる。非公式には、とんでもなく世話されているし、顔も何度も合わせているのだが。
「深雪は三日で目は覚ますのか? 華梨。」
「たぶん、大丈夫だと思います。薬師様のクスリもございますし。」
「体調を整えさせておいてくれ。」
「わかりました。」
 準備は、水晶宮の幕僚たちの仕事だ。そちらは任せておけばいい。
後は来訪されるのを待つだけだ。



 三日後、さほど派手ではないが、輿に乗って西王母と東王父はやってきた。正式に来訪する場合は、こういうことになる。どちらも面倒がってやらない。だが、今回は従者を引き連れる必要があったので、このようなことになった。接見の間に案内されると、竜王と水晶宮の主人、次期たちが勢揃いしていた。
「ようこそ、おいでくださいました。この度は、深雪の様子をご覧になりたいとのこと。ゆっくりとご覧ください。」