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海竜王の宮 深雪  虐殺9

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 一連の世話をすると、小竜は眠ってしまう。長時間、起きていられる体力はない。ただし、仮死状態ではなく、睡眠状態だから、離れられない。寝台の側に座り、華梨は、小さな手を握り、小竜の髪を梳いている。長く待たせてしまった。寂しがり屋の背の君は、意識が戻ったものの、寂しくて眠って待っていた。本当に、本当に、ありがとう、と、心で強く感謝している。叔卿を助けたのは、紛れもなく深雪で、シユウの王とその一族を滅ぼしたのも、深雪だ。どれほどの力を使ったかわからないが、華梨の願いのために、命懸けでやってくれたのだ。もちろん、自身も無事に戻るつもりだったのだろうが、それだけは暴走して叶わなかったのだが。
「お茶をお持ちしました。」
 その様子を側で眺めていた静晰は、一息ついた華梨に、お茶を用意した。
「静晰姉上、お久しぶりにございます。このたびは、大変、ご迷惑をおかけいたします。簾からもお礼を申し上げて欲しいと、言付かってまいりました。」
 小竜の手を握りつつ、華梨も会釈する。本来なら、叩頭して口上を申し上げるべきなのだが、動けないので、このような格好で、申し訳ありません、と、詫びた。
「いいえ、お礼を申し上げるのは私くしのほうです。夫を助けてくださって、ありがとうございました。」
 殺されてもおかしくない状況から夫である白竜王を助け出したのは、この小竜で、それを依頼したのが、この義理の妹だ。詫びなど言われることはない。
「そのことですが・・・背の君は、覚えていらっしゃいません。ですから、お礼はおっしゃらないでください。・・・全ては、叔卿兄上がなされたこととして、水晶宮でも報告されておりますし、背の君は、そちらに居らっしゃらなかったことになっておりますので。」
 書状を作り、水晶宮にも報告させるが、まず、徹底すべきなのは、そのことだ。深雪は、途中で力尽きてしまって、叔卿が助け出したということにしておかなければならない。そうでないと、深雪の心が壊れてしまう。功績なんか、この際、どうでもいい。優先すべきは、深雪の心だ。このまま知らずに忘れていてくれれば、心の奥に沈むことはない。健やかに成長して、いずれ、もっと心が強くなってから真実は知ればいいと思っている。
「・・・・それでよろしいのですか? 華梨様。それでは、我が夫が、深雪様の功績を我が物にしたことになりますが? 」
「かまいません。そんなことは些細なことです。・・・・大切なのは、この方の、この綺麗で優しい心を壊さないことです。きっと、今、真実を知られたら、この方は壊れてしまいます。」
 老若男女、全てのシユウと、白竜王の従者、簾の配下の一部を葬り去ったと知れば、深雪の心は壊れてしまうだろう。ほとんどのものは、真実を知らない。だから、隠すことに決めた。両親も兄弟たちも同意してくれるはずだ。
「承知いたしました。・・・・それから、あなた様たちが不在の折は、私くしが、お世話をいたしますので、その旨、深雪様に伝えてください。私くしの言葉は届かないのです。」
「うふふふ・・わかりました。たぶん、静晰姉上の言葉が届かないのは難しいからですわ。」
「はい? 」
「背の君は、まだ小さいので、難しい言葉でお話されても意味がわからないのです。」
「ですが、蓮貴妃は・・・」
 大概、小難しい言葉を吐いている蓮貴妃の言葉は届いていた。それよりは、マシだろう、と、反論する。だが、華梨は、コロコロと鈴が鳴るように笑い、「蓮貴妃は、単語ですもの。『寝ろ。』『食べろ。』『泣くな。』って、心で叫んでいるのだそうですよ。」 と、説明を受けて納得した。そう言われれば、静晰は、内心でも、そのまま語っていたからだ。
「それに、蓮貴妃とは長く時間を共有しておりますので、背の君も容易く心が読めるそうです。初対面の静晰姉上では、なかなか読み取れないのだと思います。」
「そういうものなのですか? 」
「はい、そうお聞きしております。私の背の君は、人見知りの激しいお方ですので・・・・慣れないと読むどころではないのだそうです。・・・うふふ・・・お可愛い方でございましょ? 」
「ですが、乳母様と薬師様の言葉は届いておりましたよ? 」
「あの方たちは、何度も背の君の世話をして下さっておりますし、あの方たちの孫として愛してくださっておられますので。」
「え? 後見ではございませんでしたか? 」
「後見ですが、奇妙なご縁がございまして・・・静晰姉上、碧様のことは、ご存知ですか? 」
 そこで、ようやく、静晰も合点はいった。碧の養い子だとは聞いていたが、そういうことだから、崑崙も謡池も総出で顔を出していたのだ。静晰自身は面識はないが、よくよく考えれば、顔を出していたのは、その碧を養育していた面々だ。
「なるほど・・・碧様の養い子だから、孫なのですね? 」
「はい、そうです。すでに、次の世に移られましたので、碧様の魂は転生されておりますけど、正真正銘、背の君は碧様の養い子です。ですから、乳母様も薬師様も、背の君に関しては何をおいても駆けつけて助けてくださるのです。」
「孫バカの集団でしたか・・・承知しました。では、私くしも単純な言葉で接触は試みてることにいたします。」
「そうしてください。・・・・五日間、滞在させていただきます。それから、母上がいらっしゃいます。おそらく、その頃には乳母様と薬師様もいらっしゃるでしょう。」
 そういうことなら、実務面はお任せできる。離宮の管理だはしなければならないが、そういうことなら、静晰も気は楽だ。そろそろ厳戒態勢も解除されるだろう。そうなると、逆に公務は増える。外せない公務の時間は、誰にでもあるので、そこいらは調整するようにした。




 水晶宮では、娘から届けられた書状を主人夫婦が読んで、安堵していた。やはり、そうかと主人は頷く。
「覚えていないとは・・・」
「たぶん、深雪の心が耐えられないから隠したのだろう。それなら、それでいい。」
 主人夫婦も、そうではないかと思っていた。力の制御ができなくて暴走したのだとしたら、深雪の本性とは違う。これから、時間をかけて、制御は学ばせればいいことだ。
 その書状は、長夫婦にも渡されて、そちらでも安堵の息が吐かれた。深雪の養育に深く携わっているものからすれば、激昂しての虐殺など、らしくないどころではないからだ。
「やはり、そうでしたか。」
「記憶がないのは、有り難い。叔卿が救助したということで、兄弟間も話を統一しておこう。」
 事実を知っているのは、水晶宮の主人夫婦と竜王たち、それから簾と蓮貴妃だ。簾の配下は、すでに行方を眩ましているから問題ない。守り猫の桜が死んだことで気が動転して意識を失ったのだと説明しておけば、深雪も納得するはずだ。
「落着いたら、おまえ、白虎の長に手紙を書け。私が直談判してくる。」
「いや、叔卿が土下座してでも貰ってくると言ってたぞ、簾。」