小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

海竜王の宮 深雪  虐殺9

INDEX|2ページ/4ページ|

次のページ前のページ
 

 左目は、まだ再生途中なのか、包帯で厚く隠されている。最高の薬師が処方した薬を使っているから、左目は完治するという話だが、それだって時間がかかる。この姿では、水晶宮には戻せない。だが、両親や華梨を、ずっとここに居座らせることもできない。水晶宮では、小竜の不在が言の葉に乗り広がっている。周囲が騒がしく怖がったから、竜王の宮に滞在させている、と、一応、言い訳はしているが、軟弱モノだと謗られている。腹立たしいのだが、叱責するわけにもいかなくて、白竜王も内心で怒りを溜め込んでいた。そんな謗りを受けるのも、自分の落ち度故だ。
「あなた様、そこで殺気を漲らせてはいませんよ? 落着いてください。」
 冷静な妻は、夫にツッコミを入れつつ、軽く肩を叩く。燃えるような気配をさせては、いかな小竜といえ起きてしまうだろう。
「起きはしないさ、静晰。・・・けど、そうだな。殺気はマズイな。」
 白竜王も立ち上がり、小竜を抱き上げた。身体のほうは、再生されているらしく薄物の寝間着の内は白い肌が見えている。
「起きないのですか? 」
「ああ、起きない。華梨か母上が声をかけないと、深雪は意識を戻さないんだ。・・・・その気配がカギになっているらしくてな、俺が、どれだけ、ここで怒鳴ろうと起きる事はない。」
「はい? 」
「こいつは、竜族である前に、特殊な能力を有している。そちらの力は、こんな小竜だというのに使える。代謝機能を最低限にして眠っているんだ。起きて待つのは寂しいから、そういうことをするらしい。」
 何度か、その現場を見ている白竜王は抱き上げてあやしつつ苦笑する。力の使いすぎで眠っている場合を除くと、華梨が長く側に居ない場合に、こうなる。代謝機能を下げているから、傷の再生速度も落ちているはずだが、こればかりはしょうがない。
「起こしたほうがよろしいのですか? 」
「俺やおまえでは無理だ。まもなく、華梨が降りて来るだろう。それまでは、寝かせておけばいい。・・・・深雪、不出来な兄ですまん。おまえには、これから、どんなことでも俺は従うからな。」
 それだけ告げると、白竜王は寝台に小竜を寝かせ直して、部屋を出る。夫婦二人で年賀は受けなければならない。まずは、公務からだ。





 三日だけ、年賀を受けた白竜王は、また、水晶宮へ戻って行った。仮死状態に近いから、何もしなくても問題はない、と、説明は受けたが、静晰も心穏やかではない。簾からも説明は受けていたし、夫からも、その時の状況は聞いたが、信じられない。この小さな竜が、一人でシユウの宮城を破壊し、シユウの王の一族を虐殺したなんて、理解できないのだが、誰もが、そう言うのだから、信じるしかない。ついでに、母親や許婚が居なくて寂しいから仮死状態になっているという。信じられないことのオンパレードだ。

・・・・とりあえず、薬湯を飲ませて、薬を塗り替えるだけはしておきましょう。それぐらいしか、私にもできることはない・・・・


 最低限の世話となると、その程度だ。泣くこともないし、苦い薬湯にも唸らないから楽になったのだが、気分的には寂しい。
「そういうことなら、私が話し相手ぐらいはしてさしあげますが? 深雪様。」
 声をかけても反応はないのだが、一応、話しかけるぐらいはする。たまに、瞼が動くこともあるし、手が微かに動くこともある。だが、それだけだ。ほどなくして、華梨が降りてきて、「背の君、背の君、お目覚めください。」 と、何度か声をかけたら、ゆっくりと目が開いた。
「・・・三兄は? 」
「無事でございます。お疲れ様でございました、背の君。」
 華梨が抱き上げて抱き締めると、小竜は微笑んだ顔になった。幼いあどけない顔だ。しばらく、許婚の顔を見ていたが、くしゃりと顔が歪んだ。
「・・俺・・途中で寝て・・・三兄に・・迷惑をかけた・・・」
「え? 」
「・・・三兄たちの首輪・・・外して・・・三兄・・・飛ばして・・・桜が死んだとこまでしか・・・覚えてない・・・」
「・・・背の君? それは・・・」
「・・・・助けに来てくれた・・・はずだ・・・ごめん・・・みんなに・・・迷惑・・・」
 たどたどしく話している言葉に、華梨は顔色を変えた。桜が死んだところまでしか覚えていない、と、背の君は言っている。つまり、その後、無差別に竜族シユウ一族を殺したことは覚えていないのだ。華梨は、すぐに頭を切り替えた。ならば、それでよいのだ。
「・・・いいえ、背の君。あなた様が、叔卿兄上を飛ばしてくださったので、その後、簾と蓮貴妃が攻撃を仕掛けたのです。叔卿兄上が、あなた様の救助に戻られ、シユウの王を倒してまいりました。ですから、迷惑はかかっておりません。むしろ、あなた様の働きで、叔卿兄上は助かったんです。」
「・・・そうなの?・・・」
「はい。桜は、最後まで、あなた様を守り、そのまま消えましたが・・・他は無事に、みな、戻ってまいりましたよ? 」
 やはり、そうか、と、華梨も安堵した。キレて理性を手放した瞬間から、深雪は記憶がない。あれは暴走というもので、深雪の本性ではなかったのだ。そうではないか、と、華梨も思っていた。殺略を好むとは、とても深雪には似合わない本性だからだ。理性を無くして暴走したというなら、納得できる。当人の意思というよりは、制御が効かない状態であっただけだ。
「・・桜・・・逃げなさい・・って・・・」
「ええ、最後まで立派に守ってくれたそうです。」
「・・・桜・・・痛かった・・・」
「・・・背の君・・・」
「・・・でも・・・桜・・・普通に・・・逃げなさい・・って・・・もっと力があれば・・・」
「いいえ、いいえ、お嘆きにならないで。桜は、ちゃんとあなた様を守って、自分の責任は果したのです。誉めてやらなければなりませんよ? 背の君。」
 ポロポロと涙を零しながら、小竜が桜を偲んでいる。それを聴いている華梨も眦に涙を溜めている。大切にしていた桜を亡くした深雪の心が解るからだ。
「・・・桜・・・ありがと・・」
「ええ、それでよろしいのですよ。・・・背の君、お怪我が思いの外、酷いのです。それを治さねばなりません。私が、お世話をいたします。」
「・・うん・・・」
「たまに、公務で、お側を離れますが・・・お眠りにならず、お待ちくださいね? 母も簾も蓮貴妃も入れ替わりに参りますので・・・どうか、眠らずにお待ちくださいね? 」
「・・・うん・・・」
 仮死状態になられては、回復しない。回復させて治療させなければならないから、華梨も必死だ。とにかく、順次、誰かが深雪の側についているように考えている。今は、簾と蓮貴妃が、シユウの状況を探っているので降りてこられない。自分と母、それから、まもなく戻って来るだろう乳母様と薬師様で、なんとかするつもりだ。