虹が見たいの
暇を持て余すかのように 胸元からスマートフォンを取り出すと検索をしてみる。
「あるじゃん」思わず僕は、立ち上がり彼女に近づいた。
「ねえ、ナ、ナイトレインボーってあるじゃん。これってこれ?」
ボクのテンションは、尋常じゃない速さで ボクの意識を駆け上がっていった。
途端に僕は饒舌になった。
「満月みたいな月の光で見えるって。あ、雨降らないと駄目だよ。いや駄目なんかじゃないよね。キミが水撒いてるし。うん大丈夫さ。それに空はれてるしね。条件はいいはず。うん。あ、明日は満月だよ。キミ知ってたの?いやあ、暗闇に虹なんてさ。かっこいいとしかいえないね。えっと他にはぁ……見えるなら暗い場所かぁ……公園は暗いけど、周り電気消せばいいのにね。あ…… だぁ……」
しかし、僕のおしゃべりは突然止まった。見ていたスマートフォンの充電切れは、僕の口まで止めた。急に恥ずかしくなってきた僕だったが、彼女の様子がずっと同じだったことに助けられた。
「ねえ、どうしてキミは 夜の虹が見たいの?」
彼女は、何も答えず、虚ろな瞳は、ただ空に上がる水しぶきを見つめていた。
(やっぱり可笑しいよ、この子…)
「虹が見たいの。虹が見えたら きっと…… 逢えるから」
「誰に? 誰に逢えるの?」
彼女の顔にかかった水しぶきなのか それとも彼女の涙だろうか 頬を伝うように見えた。
「無理に答えなくてもいいけどさ。こうして付き合ってるよしみとしてはさ、知ってもいいかなってね。あ、ほんと 無理にじゃないから」
「パパ」
「パパ? お父さんってこと?」
「パパの所に行くの」
「おいおい、パパは空の上かよ」
彼女は、ホース先を摘む力を緩めると、僕を見た。どぼどぼと彼女の足の上に水がかかってしまっても気にしてなどいない。
「いやだぁ。パパ、死んでないよ」
彼女は、にっこり微笑んだ。なんて可愛い笑顔なんだと 僕は一瞬 見惚れてしまうほどだった。
「あ、そう。よかったぁ。ほんとびっくりしたよ」