小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

王都バルムンク物語

INDEX|4ページ/7ページ|

次のページ前のページ
 

 青ざめ、硬直し、直立不動する王は、王妃を何とかなだめようと試み、あれこれ口説いていたのだが、外で騒がしくなり、王は窓から顔をのぞかせ、家臣の一人に尋ねた。
「どうした、何の騒ぎだね」
「陛下、あやしげな集団が町に入り込んだ様子です」
 その集団とは、周の兵隊であった。
 煬帝の兵力は、見る間にバルムンクの一部をことごとく破壊していった。
「や、やめぬか。うぬら、何が目的じゃ」
「目的?」
 馬上からヨハンネスに視線を向ける帝。
「そのようなものないわ」
「なに、ではいったい」
 煬帝の脇から、青いローブの老人が、酒のビンを片手に現れ下品に笑う。
「バルムンクはわれらの手に堕ちた」
「あなた」
 王妃は恐ろしくなったのか、王の胸もとへ突っ伏す。
「心配はない。い、いますぐ兵を退けよ、われらに戦う意思などない。お前たち、何をしている、剣を捨てよ!」
 バルムンクの兵士たちはざわつき、王の命令だからとしかたなく剣を捨てる。
「降伏宣言か。まあよかろう。では無傷で滅ぼしてやる!」
 老人は黄金色に輝く魔法の槍で、呪文を唱えると町全体を灰色の光で包み込んでしまい、次の瞬間、バルムンク王も、王妃も、兵隊たちも、城も・・・・・・すべてが石化してしまったのである。「これは壮絶な! いや、き、奇妙だ」
 老人はのどの奥で気味悪い嘲笑を繰り返した。
「さて、これで王子を捜せばいいだろう、そして捕らえ、従わぬ場合は・・・・・・わかっているな」
 すっかり老人の力に魅了されてしまった煬帝は、何度もうなずいてしまっていた。


 夜、みなが寝静まったグラーニャのロゼッタ家。
 こっそり水晶玉を覗いていたロゼッタは、顎に手を当て考え込んでいた。
「まずいわね」
 石化したバルムンクの城。
 これをバージルが知れば、狂うに決まっていた。
 同時に敵への感情は殺意しか芽生えないだろうと、不安を抱いてもいた。
「怒りまかせだけで勝てる相手じゃない。剣だけでも知識だけでも勝てないわ」
「両方必要なら、鍛えていくしかあるまい」
 ライムがロゼッタに毛糸で編んだ上着をかける。
「起きていたんだ」
「姉貴。お城に何かあったんだな。わかるよ、姉貴の不安がわかるんだ」
「双子って不思議よね」
 ロゼッタはため息をつく。
「隠し事もできやしない」
「そうだな。姉貴がロレンツォを好きということだって」
 ロゼッタはライムの口をつねった。
「いでででで!」
「ばかっ! そ、そんな言いがかりよして、お、お、おだまり、この口が言うか!」
「いひゃい、ははひへ(痛い、離して)・・・・・・」
「そんなことより」
 ロゼッタは肩で荒い呼吸を繰り返しつつ、ライムを鋭く見据える。
「わかってるわね?」
「へい」
 そのままベッドに突っ伏すライムが、翌日の朝バージルに晴れ上がった頬の理由を尋ねられ、返事に困ったのは言うまでもない・・・・・・。 



 ところが・・・・・・。
 聖地までおもむいたバージルたちを待ち受けていたのは、完全に枯渇した大地と大樹の姿、それに、血まみれになって倒れている聖職者たちの姿が、ところどころから見受けられた。
「これはいったい!」
 ロレンツォは仲間の聖職者や上司を起こして駆け回る。
「大司教様、なにがあったのです」
「ロレンツォ。おそかったようだ・・・・・・。す、すべては、神のご意思なのか・・・・・・」
 大司教とロレンツォが呼んだ男は、震える指先でユグドラシルを指し示した。
「ユグドラシルを、枯らしては、ならん!」
 と叫び、大司教はだらだらと鮮血を止め処なく垂れ流しながら、息を引き取った。
「だ・・・・・・大司教――!」
「ロレンツォ。おれたちはどうすれば」
 ライムはユグドラシルの枝を拾い、それから大樹を見上げた。
 すっかり枯れはて、みずみずしさを失ってしまっている。
「助けるとひとくちに言っても・・・・・・」
「女神を見つけて、そ、それから」
「それから?」
 ロレンツォは言いよどむ。
 ライムは彼の肩をおさえ、
「言ってくれ。こうなりゃ最後の生き残りかもしれない、あんたの指示を受ける」
「ライム殿」
 ロレンツォは唇をかみ締め、言いづらそうにこう告げた。
「隠すつもりはなかったのですが、三人の女神を、グラムで刺し貫き、その心臓をユグドラシルにささげれば、復活を遂げます。しかし自身がグラムの正当な所持者でなくてはならず、もしほかのものが手にしたとき、剣は砕け、剣を持つものを取り込んで死なせてしまうのです」
「そんなこと! あっ・・・・・」
 昨夜姉が言いよどんでいたことは、これであったかと、ライムは舌を打った。
「女神を殺すと」
「そうです。そうしなければ、あの大木は」
「俺はいやだよ、いくらなんでも剣のさびになんて」
 バージルは眉をひそめた。
「世界と女神の命を天秤にかける運命なんて、こんなのひどい」
「ひどくても、これが神のご意思によるものならば、逆らえません」
 ロレンツォの言葉に、ライムは肩をすくめ、
「やれやれなこった。かわいそうじゃねえか。美人のお姉ちゃんだったらよけいに殺せねえし」
「ライム、そんなことじゃない」
 バージルは目頭にたまった涙を指でぬぐいながら、
「エルダ先生から教わったのは、命を無駄にしてはならないということだった。父上からもそう教わってきた。そして俺たちが、神の運命を途絶えさせるなんて、あってはならない!」
「ああ、まあ、たしかになあ」
 ライムもそれ以上は、何も言わなくなり、ロレンツォは気を取り直し、大木の周囲を調べ始めた。
「何かわかったか」
 ライムの問いかけに、ロレンツォは頭を左右に振るばかり。
「いいえ、ただ、大木に傷がいくつかだけ。おそらく切り倒そうとがんばったのでしょう」
「グラムじゃなきゃ、切れねえのによ」
 ライムは見えない相手をあざ笑った。
「それにしても、いったいどこの軍隊だろうな、こんなことして」
 ロレンツォは答えなかった。
 というより、このときロレンツォが考えていたことは、ひとつであった。 


 北へ渡るには、船が要る。
 そこで、クレイルモンフェランという、バルムンクの町へと戻るバージルたち。
 しかしここで、ロレンツォもバージルもライムも、町の変わりように唖然としてしまったのだった。
「これはいったい、どうしたことだ」
 町全体に静寂が訪れ、人間も動物も、すべてが石化していたのである。
「み、みんな石になってるよ、ライム! どうしよう」
「どうしようって、どうしよう、なあ」
 ライムはロレンツォに助けを求めた。
「こんなことができるのは、あのものしかおりません」
 ロレンツォは石化した子供の頭をなでながら、ライムに答えた。
「あのもの?」
「老人、ハーヴィというものです」
「ハーヴィ? 何者だ」
 ロレンツォはベンチへ腰を下ろし、石と化した噴水をながめ、昔であった老人のことを聞かせてやる。
作品名:王都バルムンク物語 作家名:earl gray