ふれる手…ダレ?
ぱぱが、言った。
それは、今日の空のように のっぺらぼうの青空の日のことだった。
のっぺらぼうの青空とは 雲が見当たらない、どこまでも澄み渡る空のことだ。
僕は、ずっとこの言い方が好きだ。
青い大きな紙に自由に絵も 夢も 未来も描けるようなそんな気がするんだ。
僕は、もうおとうさんのことを『ぱぱ』とは呼ばない。
でも、まだ僕が、大きな背中を見ている頃。おとうさんをぱぱと言っていた頃のことだ。
ぱぱが、言った。
「圭、起きてるかぁ。のっぺらぼうの空だぞ。出かけるか」
僕は、土曜の朝が好きだった。ぱぱが 家に居るからだ。
日曜日は、急な仕事で、ごめんなと僕の頭を撫でで 出かけることもあった。
でも今日は、ぱぱは 僕の友だちだ。
「まま。まま。服どれ?」
僕は、ひとりでできるようになったパジャマのボタンを外し、半袖のTシャツと横にラインの入ったジャージの長ズボンを着て ぱぱのところに駆けていった。
「圭、おはよう」
「ぱぱ おはよう」
僕は、卵がけごはん。ぱぱは、ふたつの目玉焼きの朝食を食べた。
食べている間も、ボクの宙に浮いた脚は、テーブルの下でぶらぶらと揺れていた。
お行儀が悪いっていうことなどわからない。ただ僕は、ぱぱとのお出かけが楽しみでしかたがなかっただけだった。
早くお出かけしたかったけれど、食後の歯磨きも お出かけ前の用足しもちゃんとした。
いつだって僕は ぱぱの真似がしたかった。
「じゃあ まま 行ってくる」
ぱぱは、玄関でつばの長い帽子を被り、僕の頭には、麦わら帽子を被せ、顎紐を締めた。そういえば、ぱぱの帽子は憧れたなぁ。居ない時に被って鏡で見たけど、目が隠れてしまうほど 僕にはぶかぶかだった。