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海竜王の宮 深雪  虐殺5

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 風の中心にいた小竜は、まだ銀色に輝いたままだ。父親が近付いて、「深雪。」 と、呼ぶが反応がない。遅れて簾がやってきて、その羽根で小竜を囲い、「深雪、もう終わったぞ。」 と、声をかけると、小竜の身体は輝きを止めて、ぐらりと朱雀に倒れ込んだ。すくに、簾は小竜の左目から生えている弓を引き抜いた。そこからは独特の匂いがする。やはりな、と、簾は予想していたから慌ててはいない。


 小竜が意識を失っただけだと確認して、白那も周囲に目を転じた。シユウの宮城は見事なまでに破壊されていた。肉片と化したものが、あっちこっちに落ちていて、血生臭い匂いを漂わせている。
「父上、まず、あなたは水晶宮にお戻りください。」
 その廃墟の確認をして、簾も、これからのことを考えた。深雪は、傷だらけではあるが生きている。そして、叔卿も、無事だ。そのことを報せてもらわなければならない。
「どうするつもりだ? 簾。」
「深雪は、このままでは戻せません。おそらく、シユウの毒にやられているでしょう。それを治療しなければなりません。・・・・筋書きは、まあ、お話しした通りでよろしいでしょう。叔卿が自力で脱出。従者は死亡したが、シユウの王は滅ぼした。これなら、さほど悪い筋書きではないし、あちらも、しばらくは大人しいはずだ。父上は、深雪を西海白竜王の宮に避難させて戻ったことにしてください。」
 シユウの王は、逃げられなかっただろう。王の姿は叔卿も確認している。あの騒ぎの合間に逃亡したとしたら、それはそれで恥ずかしいことだから、おいそれと抗議はしてこないはずだ。生存者が残っているかもしれないから、ここは完全に破壊する。まだ火薬もあるし、簾の力も残っている。
「叔卿、おまえは、そのまんま水晶宮に帰れ。シユウの王を滅ぼして自力で脱出した。」
「簾っっ。おまえ、俺に、そんな卑怯な真似をしろっ言うのかっっ。」
「卑怯でもなんでも、竜族の威信に関わることだ。竜族最強の武人が、無様に捕らえられて、末弟に救助してもらったなんて、口が裂けても言えんっっ。いずれ、深雪の意識が戻ったら、礼は言えよ? 叔卿。」
 竜族の存続のためには、真実など必要ではない。叔卿は、やはり最強の武人なのだ、と、評価をしてもらわなければ、神仙界での権威が失墜する。この際、深雪には我慢してもらうしかない。それに、深雪の力を隠すためにも、それは必要なことだ。小竜が、一人でシユウの宮城を殲滅した、などということは、知られないほうがいい。
「だが、深雪は、俺のために。」
「おまえのためではない。華梨が悲しむから、おまえを連れ戻しに来たんだ。だから、そんなに気にしなくていい。ああ、おまえの宮を借りるぞ? おまえの奥方もな。あそこなら、いろいろと都合がいい。西海の宮で、深雪の治療はさせてもらう。その旨、一筆書いてくれ。」
 叔卿の正妃は、静晰(チンシー)と言う。謡池の女官だったが、叔卿が見初めて、西王母から貰い受けた。だから、簾も元からの知り合いだ。いろいろと隠してやることもあるから、秘密は漏らさない相手のほうがいい。
「解毒か? 簾。」
「はい、父上。シユウの毒なら解毒できるものが、謡池にはあります。あれを貰ってくれば、どうにかなるでしょう。」
「だが、簾。おまえが危ないだろう? 」
「まあ、そこのところは、なんとかいたしますよ。適度に浮上して身体は休めます。・・・私と蓮貴妃のほうは、適当に宮に逼塞していることにしておいてください。叔卿、時間が惜しい。さっさと一筆書け。」
 簾は朱雀なので、長時間、水の中に居ると弱る。西海の宮で過ごすのは、かなり辛いはずだが、相手は、カラカラと笑って、そこはスルーしてくれ、と、言う。まずは、深雪の身体を治療しなければならない。あまり放置するわけには行かない。小竜の背中と左目からは、まだ血が流れている。おそらく毒にやられているだろうから、このまま血は流させておく。これぐらいなら失血死する心配はない。それぐらいは、簾でも経験で判断できる。
「無理はしてくれるな? 」
「承知しております。華梨に、私から謝罪を。深雪に怪我をさせたこと、謝っていたと伝えてください。戻ってから、その叱責は受けるつもりですから。・・・・深雪のほうはお任せください。父上、申し訳ありません。私が迂闊でした。」
 まさか、深雪自身が跳ぶとは考えていなかった。ちゃんと言い含めたつもりだったのだが、深雪を止めることはできなかった。それは、簾の失態だ。次期様に怪我をさせるなど、大罪と判じられても仕方がない。
「そんなことはお言いでないよ、簾。それを言ったら、私たち皆、止められなかったのだから同罪だ。・・・では、私は一足先に戻る。」
「はい、お願いいたします。」
 白那は白虎の姿に変化して、そのまま飛び去った。まずは一報を入れてもらい、そこからは長が判断する。まあ、一応、臨戦態勢で、しばらくは対応することになるだろう。シユウの王を滅したのだとしたら、報復の可能性はあるからだ。
 叔卿のほうは蓮貴妃から借りた筆で書を認め、それを手渡す。竜の領域ギリギリに、長の命じた一隊が待機している。そこまで、飛ばなければならない。
「護衛はいるか? 」
「バカ言うな。おまえのほうにこそ、だろ? 」
「私は、水中まで全速力で飛ぶ。まず追い駆けて来られるヤツはないはずだ。」
「・・・すまん、俺がバカだった。」
「まあ、しょうがない。そういうこともあるさ。どうせ、広に叱責は食らうんだろうから、私はナシにしといてやるよ、叔卿。無事で何よりだった。」
 生きて無事な姿であれば、簾も満足だ。死んでいるかもしれない、と、予想されていたから、それだけで十分なのだ。誰だって油断することはある。それも同族の白竜をエサにされては、簾でもしょうがないとは思う。深雪を見ていてくれ、と、頼んで、自分の配下が集まっているところへ足を進めた。もちろん、蓮貴妃も、同様についてくる。
「季廸、叔卿の護衛を頼む。それから、おまえら、今日のことは他言無用なんだが、どうする? 」
 残ったのは三名。半数が、深雪の暴走に巻き込まれて消えた。従者も始末する必要はなくなったものの、事実を知っているのが、ここに居る。相手も、その意図は理解しているから、ニヤリと笑う。
「おまえに斬られては元も子もないわ。領域近くまで護衛して、我らは、しばし姿を消す。万が一にでも、小竜や白竜王の噂が流れたら、その時は始末してくれていい。それでどうだ? 」
「噂が流れる前に消したほうが無難でございますよ? 我が上。」
 蓮貴妃は、すでに刀に手をかけている。命じられれば、その場のものを斬り殺すつもりだ。
「・・・・だそうだが? 」
「しばらく、一緒に行動しておく。万が一の場合は、互いに滅する。それでどうだ? 」
「まあ、それで異論はないな。簾、季廸のおっさんと、しばらくは耳のないところへ旅するさ。」
「とりあえず、蓮貴妃の刃にはかかりたくないな。」
 季廸と共に、珊と柏徳も応えた。簾が信頼している部下たちだ。漏らすことはないはずだが、此処で誓わせておく。
「深雪が成人するまでには顔を出せ。」
「相判った。」
「やれやれ、しばらくは宿無しか。」