海竜王の宮 深雪 虐殺5
「百年やそこらしたら、どっかで居着いて戻らないかもしれないぜ? 」
「とりあえず、あの宮城を完膚なきまでに破壊してくれるか? 火薬が残ってただろ? 」
「そうだな。生き残りが居ては厄介だ。そちらは任せろ。おまえも、早く、小竜を運べ。」
「蓮貴妃、まず燃やせ。そこから、あいつらに破壊させる。」
「承知いたしました。」
蓮貴妃も朱雀の姿に変化すると、宮城に飛び去り、周囲を焔に染める。それが終わったら、残りのものが火薬を投下して、さらに破壊した。あれで生きているものも死んだだろう。それを確認すると、簾は小竜の元へ戻る。
「叔卿、飛べるか? 」
「誰に言っている? ・・・・深雪のことは任せたぞ? 簾。」
「五月蝿いな。私が大切に大切に治療する。心配するな。」
行け、と、手を振り上げると、叔卿も竜体となって飛び上がる。それを目にして、季廸たちも後に続く。蓮貴妃だけが戻って来た。
「海の上まで護衛してくれ。それから、おまえは、これを届けてくれ。」
元々、用意していた書簡を蓮貴妃に手渡した。これで、解毒はできる手筈だ。そこに、蓮貴妃の怪我の治療も依頼してある。最初から、こういう場合も想定していた。片羽が傷ついているが、蓮貴妃なら問題はないだろう。
「謡池でございますね? 」
「ああ、そうだ。無理を強いるが聞き届けてくれ、蓮。おまえにしか頼めない。」
「承知しております。最速でお届けして、戻って参ります。どうぞ、ご無理なさいませんように、我が上。」
蓮貴妃も承知の上だ。シユウの毒を解毒するには、それが必要だからだ。他のものは気付いていないが、簾自身も怪我をしている。砂漠に叩きつけられた時に、蓮貴妃の下に入り込み衝撃から庇ってくれたからだ。おそらく、どこか骨が折れているだろう。だが、そ知らぬふりで通すつもりらしいから、蓮貴妃も言及しない。
「私は問題ない。問題なのは、このバカだ。・・・ったく、ここまでやるとは思わなかったぞ。」
「うふふふ・・・我が上の子供ですもの。やんちゃなのは、仕方ありません。」
くったりと丸くなっている小竜を朱雀に変化して持ち上げる。たぶん、眠り病も患っただろう。治療が終わるまで、簾も蓮貴妃も小竜の側を離れるつもりはない。それが、自身にとって危険なことも承知のことだ。だが、それ以上に、小竜を治すことが優先する。深雪が儚くなれば、華梨は殺される。それだけは絶対にさせられない。
作品名:海竜王の宮 深雪 虐殺5 作家名:篠義