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海竜王の宮 深雪  虐殺5

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 王も弓に気付いたのか、こちらに顔を向けていた。はい、と、顔を出そうと動いたところで、玉座に在った王の姿は、消えた。いや、消えたのではなく、その上半身がなくなり、さらに下半身も切り刻まれているところだった。

・・・なに?・・・・

 小竜の嘶きは、さらに大きくなり、そして、周囲を風が覆っている。白竜は風を操る。風の勢いで真空空間を作り出し、それで周囲を切り刻んでいるらしい。彰は、建物の柱の陰にいたから、それに刻まれていないが、その柱すら、少しずつ削られていく。
 ゆっくりと白竜は銀色の光を周囲に満たしていく。そこに入るものは、悉く切り刻まれて原形を留めていない状態だ。そして、一際、大きく嘶くと、今度は宮城自体が崩れていく。周囲の風が大きく波打ち
宮城を小竜を中心にして、細かく寸断しているのだ。これは、まずい、と、彰も逃げようと動いた。その動きと風の勢いで、彰自身も腹が一文字にすっぱりと切れ、宮城の外へ飛ばされた。

・・・しかし、綺麗な生き物だ・・・・

 腹から、どくどくと血が流れ、風で飛ばされつつ、彰は、そんなことを考えていた。これぐらいの傷なら、死ぬことはない。シユウの身体は頑強に出来ている。ただ、さすがに、あの小竜と向かうだけの力は、己にはないことは理解した。あれが、次代の水晶宮の主人となるのだ。これは、太刀打ちが出来ない相手だ。まだ、小竜だというのに、シユウの宮城を破壊している。それも、一匹で、だ。成長すれば、その力は、さらに増大する。何百というシユウを相手にしても、おそらく殲滅してしまうだろう。そう思うと、恐怖よりも楽しいと、彰は感じて微笑んだ。敵が強大であればあるほど、倒すのは楽しいからだ。正面からでは戦えなくても、方法はいろいろとある。それを考えるのは、ことほか楽しいだろう。

 砂漠に飛ばされて、そこへ落下したが、しばらくは動けなかった。その後、どうなったかが判ったのは、彰自身がシユウの本拠地に辿り着いてからのことだ。王の一族、それから付き従っていた兵士、官吏など、壊滅していた。もちろん、宮城も破壊の限りを尽くされ、何も残っていない状態だった。生き残ったのは、彰ただ一人だ。




 深雪が消えて、すぐに蓮貴妃が、周囲に配置した火薬に火を叩き込んで廻った。季廸たちは、簾の背後で待機している。まず、白竜王を救助しなければならないからだ。追っ手があれば、それを迎撃するのが、役目だ。
「簾、今のは・・・」
「おまえ、死にたくなければ黙ってろ、季廸。」
 季廸自身、あの小竜と対面するのも初めてなら、突然に掻き消える術を見たのも初めてだ。まあ、つまり、あれが次期様に選ばれた理由なのだろうと、おぼろげに理解して口を噤む。今は、暢気に会話している場合ではない。月明かりに、朱雀が飛ぶ様は、実に優雅だが、飛び去った後から爆発が起こる。火薬に着火しているからだ。派手な爆発だが、宮城より少し離れているから、被害を出すには至らない。
「季廸、残りの火薬も運んで叩き込め。」
「了解。」
 季廸たちは、オアシスに残していた火薬を素早く運び、宮城へ投げ込もうとした。ちょうど、宮城から質にされていた竜族の従者たちが飛び上がって来る。やれやれ、どうにか奪還できそうだ、と、思ったら、突然に、従者たちが風に巻かれて切り刻まれた。シユウは風を使うことはない。そして、季廸たちも、それに巻き込まれそうになって撤退した。
「季廸、下がりなさい。」
 上空を飛んでいた蓮貴妃も羽に傷を負っている。どうやら、あの風に巻きこまれたらしい。さらに、うわっという声と共に、同輩の麻馬の身体が風のうちに消えた。ポタポタと血が流れ、風と共に周囲に飛んでくる。これは、まずい、と、季廸たちも火薬を棄てて、そこから全速力で撤退する。風は、どんどん勢いを増して、攻撃する空間を増大させている。一体、何が起こっているんだ? と、季廸も混乱した頭で考えるが答えが見つからない。



 季廸たちに攻撃を命じた簾は、待っていた。何の予兆もなく、どさりと近くに、叔卿が転がった。大きな怪我は負っていない様子だが、慌てたように立ち上がり、簾を見定める。
「誰だ? 深雪を引きずり出したのはっっ。」
「深雪自身だ。私たちには、深雪は止められない。生きているな? 叔卿。」
「・・・・足はあるぞ、簾。」
 確かに、深雪が言い出したら、誰も止められない。それも心が読めるから隠し事も出来ない。そう暗に簾に言われれば、叔卿も黙るしかない。
 そして、離れた宮城の内が、かっと輝いて、大きな風の柱が吹き上がった。簾も叔卿も、それを確認すると立ち上がる。水晶宮の小竜が暴走している。
「まずいっっ。あれでは、深雪が力尽きる。」
「俺が止める。俺の風と相殺すれば・・・」
「待て、おまえは、まずオアシスへ戻れ。父上が待機している。今後の打ち合わせを。あれは、私がっっ。」
「簾では無理だっっ。おまえの焔で風は消せない。」
 風の力は、焔を煽るだけで止められない。それは、世界の理で決まっている。風には土か同じ風をぶつけるしか止められないのだ。
「だが、おまえの無事を。」
「そんなものは後回しだ。俺の力を全部使ってでも、深雪を止める。そうでないと、深雪がっっ。」
 全ての力を使い果たせば、深雪も無事ではいられない。そうなる前に、暴走を止めなければならない。そのためなら、叔卿は命を賭ける必要がある。深雪が、次代の要だからだ。
 叔卿が、すうっと息を吸い込むと、白竜へと変化する。その横で、簾も朱雀の姿に変化して飛び上がる。大急ぎで、シユウの宮城に向かう途中で、背後から白虎に変化した父も追いかけてきた。
「叔卿、風なら私が。」
「いえ、父上、二人同時に、ぶつけるしか止められない。・・・あいつ、あんな力を。」
 普段からは信じられない力だ。それに、深雪は、まだ小さくて、本来なら風の力など発揮できるはずもないのだ。それが暴走するほどとなれば、ふたりの力を合わせたほうが相殺できる可能性も高い。
 
 宮城に辿り着くと、片羽から血を流した蓮貴妃が待っていた。季廸たちも一緒だ。
「おまえたちは背後に退避しろ。」
「風なら、わしの力も使えるわいっっ。」
 白竜である季廸は、そう言って、白竜王たちの側に浮かび上がる。あの風の渦を消さなければ、誰も近寄れないのだ。
「同時に風をぶつけろ。他のものは退避しろ。巻き込まれたら死ぬ。」
 すでに、簾の配下が、数人、消えている。広がる渦に巻き込まれて刻まれてしまったのだ。それを見ていた季廸たちも慎重に距離はとっている。
「いくぞ、叔卿。」
「わかった。」
 ごぉっと力を高めて、それを渦巻く深雪の風にぶつける。すると、大きな衝撃と共に、風は消え去ったが、簾と蓮貴妃は、その風圧と衝撃で砂漠に叩きつけられた。