海竜王の宮 深雪 虐殺5
砂漠の遥か遠くが明るくなった。そちらで、青竜王の配下が騒ぎを起こしている証拠だ。それを確認すると、簾たちも動き出す。火薬の樽を抱えて、ゆっくりと季廸たちが飛翔する。とはいっても、低空で砂漠の上を滑るように飛ぶ。そして、その背後から、蓮貴妃が上から小竜を掴んで、こちらも低空飛行で砂漠を進む。小竜は、白竜王の意識が、はっきりと判ったら合図してくる手筈だ。最後に、簾が白那に挨拶して、こちらは人型で砂漠の地面すれすれを走るように移動していった。残った白那は、そのまま、そこで待機する。万が一の場合は、最前線まで走り、小竜を掴んで走り去るつもりだから、気は抜けない。
宮城の建物が、遥か向うに確認できる位置で、小竜は、一声鳴いた。ゆっくりと、その地点で、蓮が小竜を地面に下ろす。
「もう少しギリギリで火薬は設置してくれ。」
配下に、それを命じて簾も近寄ってくる。ここでいいのか? と、尋ねると、「うん。」 と、小竜の声が頭に直接、聞こえてくる。
「いいか? 深雪。伯卿だ。まず、あいつを跳ばしてくれ。他は、余力があったらで構わない。」
わかった、と、応える筈の小竜は、こちらに頭を向けた。そして、静かに簾を見て、言葉を伝えると姿を消した。
・・・・一姉ちゃん、ここからだと三兄しか跳ばせない。だから、宮城に俺が跳んで、あそこから、ここへ三兄を跳ばすから待ってて。他のものは、そのまま逃げてもらって、俺も跳んで戻るから・・・・・
はっと気付いた時には、すでに小竜の姿はない。目標とするから動かないで、と、伝えられていたから動けない。
「蓮、深雪が跳んだっっ。火薬を爆破しろっっ。こちらも騒ぎにする。」
大きな羽で隠していた蓮貴妃に、そう伝えると、すぐに、その場から朱雀は飛び立つ。叔卿が戻ったら、背後に控えている季廸たちに、その身体は運ばせて自分が宮城へ飛び込むつもりだ。
・・・・おまえ、私の心を読んでいたのか、深雪・・・・・
残りは見捨てるつもりであること。それを知っていたから、この暴挙なのだろう。だが、そんなことをしても無駄だ。従者たちは、ここに戻ったら殺すことは変わりないのだ。
実のところ、深雪は父親の言うことをきいて、誰の心も覗いていなかった。自分の能力と、人数から考えて、妥当だと思う方法を選択したまでのことだ。三兄だけを跳ばすことは可能だが、距離があれば、それだけ力は必要になる。対象物に触れて、目的地へ跳ばすほうが力は使わない。他のものは自力で逃げてもらえば、深雪自身を宮城の外へ跳ばすぐらいの力は残る予定だったのだ。
一瞬で、眼の前に人型の集団が縛られている場所に着いた。眼の前には、三兄が茫然としている。そして、周囲が騒がしくなってくる。周辺には、異形の大きな牛の顔をしたものが、たくさん並んでいた。さすがに、いきなり、白竜が、その場に出現したので慌てている。
「おまえっっ。」
「それ、外せないの? 三兄。」
「外れないんだ。」
「わかった。」
全員の首に鎖で絡ませてある首輪がある。それを意識して、首から跳ばす。カランと乾いた音がして、全員の首輪が地面に転がった。それを確認すると、三兄は拘束されていた縄を、ふんっと力を入れて切った。それから立ち上がり、深雪の前にやってくる。
「早く跳べっっ。俺たちは、勝手に脱出する。」
「三兄、一姉から頼まれてるから。」
眼の前の三兄に意識を集中する。そして、今まで居た一姉の場所を確認すると、そこへ、その身体を跳ばす。それから、周囲にいる竜族と思しきものたちに、「脱出。急いでっっ。」 と、声をかける。こちらも、いきなり出現した白竜に驚いているが、頭に突き刺さるような言葉に、あたふたと竜体に変化して飛び上がる。そこへ、外から爆発の激しい音だ。周囲に、蓮貴妃の意識があるから、攻撃を始めたのだろうと、深雪も気付く。大急ぎで、竜たちが空へ駆け上がるのを確認すると、深雪も意識を集中する。まず、宮城の外へ跳べばいい。そこからなら、なんとか飛んで逃げられるはずだ。
・・・・これで、終わり・・・・
そう深雪が、考えた瞬間に、ドスッッと背中に熱い衝撃が起こる。ぎゃあっっという叫び声に、自分の背後を覗くと、桜が自分の背中で悶えていた。半分、桜の身体は深雪の身体に埋まったままだが、そこから弓が生えて血が噴出している。
「桜っっ。」
桜の身体は、深雪を守るために深雪の身体に溶け込んでいる。おそらく、桜が弓の直撃から守ってくれたのだろう。桜の身体は、すっと消えた。そして、今度は、自分の目の前に現れる。
「桜っっ、逃げてっっ。」
そう叫んで、深雪も身体を反転させようとした。しかし、すぐに、桜の身体を真っ二つにして、深雪の大きな漆黒の瞳に弓が突き刺さる。桜の身体が直撃を避けてくれたので、脳にまで弓は達していないが、それでも眼球は完全に破壊された。そして、それから庇ってくれた桜は、ぼとりとバラバラになって深雪の身体から外れて落ちた。
・・・・逃げなさい、わが主・・・・
最後の言葉は、ほとんど消えそうな心の声だった。それを聞いた途端に、深雪は眼の前が真っ赤になった。そこからの記憶はない。
近くの砂漠の騒ぎが陽動であることなど、彰には歴然だった。だから、王たちのように、そちらへの鑑賞などに参加せず、中庭の見える場所に弓を携えて隠れていた。あれが陽動であるなら、本隊は、こちらを急襲する。その場で、他の竜族を葬って白竜王を捕縛したままにすれば、さすがの王も認めないわけにはいかない。
突然に、中庭に銀色に輝く鱗の小竜が出現する。ゆっくりと、白竜王に近寄り、その拘束していた金剛石の首輪を外すと、そこから白竜王の姿は掻き消えた。どういうわけか、この小竜、特別な力を携えている。その片鱗は、彰も拝んでいたが、まだまだあるらしい。兵士に報告を受けた王が急いで、玉座にやってきた。銀色の鱗の小竜に驚いたものの、まず、捕らえるために兵士を集めようと指示している。そんなことをしていれば、小竜も消えてなくなる。
だから、彰は躊躇いもなく、小竜の心臓があると思われる場所を強弓で射った。背中からでは、心臓には届かないが、それでも動きは止められるだろうと予測してのことだ。だが、刺さったものの、深くはなかった。そこから現れたのは、白い大きな猫の姿だ。小竜の身を守るために溶け込んでいるらしい。
他の竜族の従者が飛び上がるのを、シユウの兵士たちか追いかけている。そんなものは無視だ。あの大きな猫は、あれで動けないはずだから、次は急所の目を狙う。
こちらに気付いていない小竜の瞳に吸い込まれるように強弓が刺さる瞬間に、また大きな白い猫が弓の前に出現した。半身はないが、上半身だけで、弓に向かってきた。
猫は二つに裂けて、その場で崩れ落ちた。そして、その弓は勢いを減らしたものの、小竜の左の瞳に突き刺さった。あれには、毒が塗ってある。すぐに動けなくなる。一瞬、沈黙してから大きく嘶いた小竜は、竜体をくねらせている。
「ようやった。彰か? 」
宮城の建物が、遥か向うに確認できる位置で、小竜は、一声鳴いた。ゆっくりと、その地点で、蓮が小竜を地面に下ろす。
「もう少しギリギリで火薬は設置してくれ。」
配下に、それを命じて簾も近寄ってくる。ここでいいのか? と、尋ねると、「うん。」 と、小竜の声が頭に直接、聞こえてくる。
「いいか? 深雪。伯卿だ。まず、あいつを跳ばしてくれ。他は、余力があったらで構わない。」
わかった、と、応える筈の小竜は、こちらに頭を向けた。そして、静かに簾を見て、言葉を伝えると姿を消した。
・・・・一姉ちゃん、ここからだと三兄しか跳ばせない。だから、宮城に俺が跳んで、あそこから、ここへ三兄を跳ばすから待ってて。他のものは、そのまま逃げてもらって、俺も跳んで戻るから・・・・・
はっと気付いた時には、すでに小竜の姿はない。目標とするから動かないで、と、伝えられていたから動けない。
「蓮、深雪が跳んだっっ。火薬を爆破しろっっ。こちらも騒ぎにする。」
大きな羽で隠していた蓮貴妃に、そう伝えると、すぐに、その場から朱雀は飛び立つ。叔卿が戻ったら、背後に控えている季廸たちに、その身体は運ばせて自分が宮城へ飛び込むつもりだ。
・・・・おまえ、私の心を読んでいたのか、深雪・・・・・
残りは見捨てるつもりであること。それを知っていたから、この暴挙なのだろう。だが、そんなことをしても無駄だ。従者たちは、ここに戻ったら殺すことは変わりないのだ。
実のところ、深雪は父親の言うことをきいて、誰の心も覗いていなかった。自分の能力と、人数から考えて、妥当だと思う方法を選択したまでのことだ。三兄だけを跳ばすことは可能だが、距離があれば、それだけ力は必要になる。対象物に触れて、目的地へ跳ばすほうが力は使わない。他のものは自力で逃げてもらえば、深雪自身を宮城の外へ跳ばすぐらいの力は残る予定だったのだ。
一瞬で、眼の前に人型の集団が縛られている場所に着いた。眼の前には、三兄が茫然としている。そして、周囲が騒がしくなってくる。周辺には、異形の大きな牛の顔をしたものが、たくさん並んでいた。さすがに、いきなり、白竜が、その場に出現したので慌てている。
「おまえっっ。」
「それ、外せないの? 三兄。」
「外れないんだ。」
「わかった。」
全員の首に鎖で絡ませてある首輪がある。それを意識して、首から跳ばす。カランと乾いた音がして、全員の首輪が地面に転がった。それを確認すると、三兄は拘束されていた縄を、ふんっと力を入れて切った。それから立ち上がり、深雪の前にやってくる。
「早く跳べっっ。俺たちは、勝手に脱出する。」
「三兄、一姉から頼まれてるから。」
眼の前の三兄に意識を集中する。そして、今まで居た一姉の場所を確認すると、そこへ、その身体を跳ばす。それから、周囲にいる竜族と思しきものたちに、「脱出。急いでっっ。」 と、声をかける。こちらも、いきなり出現した白竜に驚いているが、頭に突き刺さるような言葉に、あたふたと竜体に変化して飛び上がる。そこへ、外から爆発の激しい音だ。周囲に、蓮貴妃の意識があるから、攻撃を始めたのだろうと、深雪も気付く。大急ぎで、竜たちが空へ駆け上がるのを確認すると、深雪も意識を集中する。まず、宮城の外へ跳べばいい。そこからなら、なんとか飛んで逃げられるはずだ。
・・・・これで、終わり・・・・
そう深雪が、考えた瞬間に、ドスッッと背中に熱い衝撃が起こる。ぎゃあっっという叫び声に、自分の背後を覗くと、桜が自分の背中で悶えていた。半分、桜の身体は深雪の身体に埋まったままだが、そこから弓が生えて血が噴出している。
「桜っっ。」
桜の身体は、深雪を守るために深雪の身体に溶け込んでいる。おそらく、桜が弓の直撃から守ってくれたのだろう。桜の身体は、すっと消えた。そして、今度は、自分の目の前に現れる。
「桜っっ、逃げてっっ。」
そう叫んで、深雪も身体を反転させようとした。しかし、すぐに、桜の身体を真っ二つにして、深雪の大きな漆黒の瞳に弓が突き刺さる。桜の身体が直撃を避けてくれたので、脳にまで弓は達していないが、それでも眼球は完全に破壊された。そして、それから庇ってくれた桜は、ぼとりとバラバラになって深雪の身体から外れて落ちた。
・・・・逃げなさい、わが主・・・・
最後の言葉は、ほとんど消えそうな心の声だった。それを聞いた途端に、深雪は眼の前が真っ赤になった。そこからの記憶はない。
近くの砂漠の騒ぎが陽動であることなど、彰には歴然だった。だから、王たちのように、そちらへの鑑賞などに参加せず、中庭の見える場所に弓を携えて隠れていた。あれが陽動であるなら、本隊は、こちらを急襲する。その場で、他の竜族を葬って白竜王を捕縛したままにすれば、さすがの王も認めないわけにはいかない。
突然に、中庭に銀色に輝く鱗の小竜が出現する。ゆっくりと、白竜王に近寄り、その拘束していた金剛石の首輪を外すと、そこから白竜王の姿は掻き消えた。どういうわけか、この小竜、特別な力を携えている。その片鱗は、彰も拝んでいたが、まだまだあるらしい。兵士に報告を受けた王が急いで、玉座にやってきた。銀色の鱗の小竜に驚いたものの、まず、捕らえるために兵士を集めようと指示している。そんなことをしていれば、小竜も消えてなくなる。
だから、彰は躊躇いもなく、小竜の心臓があると思われる場所を強弓で射った。背中からでは、心臓には届かないが、それでも動きは止められるだろうと予測してのことだ。だが、刺さったものの、深くはなかった。そこから現れたのは、白い大きな猫の姿だ。小竜の身を守るために溶け込んでいるらしい。
他の竜族の従者が飛び上がるのを、シユウの兵士たちか追いかけている。そんなものは無視だ。あの大きな猫は、あれで動けないはずだから、次は急所の目を狙う。
こちらに気付いていない小竜の瞳に吸い込まれるように強弓が刺さる瞬間に、また大きな白い猫が弓の前に出現した。半身はないが、上半身だけで、弓に向かってきた。
猫は二つに裂けて、その場で崩れ落ちた。そして、その弓は勢いを減らしたものの、小竜の左の瞳に突き刺さった。あれには、毒が塗ってある。すぐに動けなくなる。一瞬、沈黙してから大きく嘶いた小竜は、竜体をくねらせている。
「ようやった。彰か? 」
作品名:海竜王の宮 深雪 虐殺5 作家名:篠義