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海竜王の宮 深雪  虐殺4

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 だが、何も言わない。三人が席に着くと、賑やかに酒を酌み交わし食事をした。




 水晶宮の主人の私宮でも、同様に小竜に食事をさせていた。真夜中には出立します、と、簾から言われている。それまでに、小竜に少しでも食事させておかなければならない。体力を温存させるにしても、その体力の素となるものが必要だ。母親の腕の中で食事させられている小竜を横目に、こちらも白那と華梨が打ち合わせをしている。
「途中まで、私が。」 
「いや、おまえは、こちらにいなさい。私が見送りに行こう。なんなら、あちらの領域まで付き合ってもいい。私は白虎だ。竜族の気配を感じさせなくて動ける。」
 今回は、なるべく竜族の気配はさせないほうが得策だ。華梨では波動が強すぎて、シユウに気付かれる。その点、現主人の白那は白虎だ。白虎は風の属性を持ち、砂漠にも対応できる種族だ。奪還に手を貸すなら、白那のほうが動き易いし、その風で深雪の気配も隠せる。黄龍の力は強大だ。ゆえに、こういう隠密裏に事を運ぶ場合は、それがネックになる。強大な力ゆえに、どこに居ても、黄龍が居ることは把握されてしまうからだ。
「わかりました。母上と共に、水晶宮の警護に当たります。」
「そうしておくれ。・・・さあ、深雪の相手をしておやり。」
 はい、と、娘が、そちらに移動したので、ふうと白那も息を吐き出した。娘は気付いていないが、最悪の場合、簾は犠牲になるつもりだ。叔卿が死んでいる場合、シユウの王を殺して、あちらも混乱でもさせないと、竜族の名誉は酷く貶められることになる。そうなると、簾は自身の力を爆発でもさせるつもりだろう。

・・・・伯卿は、良い嫁を貰ったものだ・・・・

 全て承知の上で、簾は奪還作戦を指揮する。それが、主人夫婦にも理解できているから、気分は複雑だ。だが、それでも何もしないわけにはいかない。放置すれば、竜族最強の武人の屍は晒されて、その名誉も傷つけられる。それだけはさせられない。計画通りにことが進まなければ、簾も無事には済まない。

 食事を終えてから、白那は深雪を抱き上げた。そして、妻と娘からも少し離れる。窓から空へと飛び出した。
「深雪、ひとつだけ私の言うことをききなさい。」
 真剣に父親が、小竜を睨むと、相手も、「うん。」 と、首を縦に振った。
「ここからは、誰の心も読んではいけない。それは、できるかね?」
「どうして? 」
「みな、それぞれに考えて、この奪還を遂行する。それには、いろいろな想定がなされている。ひとつひとつ、予想されていることを、一々読み取って騒いでいては、奪還はできないからだ。・・・・おまえの役目は、叔卿を跳ばして、簾の許へ戻すこと。それだけだ。それだけを考えていればいい。他のことには、口を出してはいけない。みな、おまえのことなど構っていられる余裕はないのだ。それぐらい危ないことをやるのだよ? わかったか? 深雪。」
 簾も伯卿も、おそらく蓮貴妃も、これからの最悪の事態まで想定しているだろう。それらを読んで騒いでもらっては、奪還すらままならない。最悪の場合、他のものにも役目がある。だから、それは戒める。
「うん。」
「何があろうと、おまえは水晶宮に戻ってこなければならない。簾も蓮貴妃も、おまえを運べないこともあるかもしれない。その場合は、おまえが自力で戻って来るのだ。よいか? 」
「うん。」
「そのためには、少し力は残しておく事。」
「うん。」
 だから、白那は、かなり後方で待機しているつもりだ。簾と蓮貴妃が存分に力を使えるように、深雪を確保して戻るために、それは必要なことだ。少しぐらい、白那の姿が水晶宮になくても、言い訳はたつ。深雪が、物々しい周囲を怖がったから、他の竜王の宮に連れて行ったとでも言えばいい。それなら、深雪と白那だけが戻っても、問題はない。そうならないように願っているが、どうなるか、誰にもわからないのだ。最悪の場合を想定して、夫婦で、まず、そこは考えた。誰を犠牲にしても、深雪だけは残さなければならない。
「お父さん、桜は置いていきたい。」
「それは、おまえの身体の一部になっている。引き剥がすのは無理だ。それに、おまえを守るのが、桜の役目だ。」
「でも、桜が怪我したら可哀想だ。」
 白虎の守猫は、主人となるものの身体に溶け込んでいる。放してしまったら、それは死ぬ。それに、桜は深雪を守るために、そこにいるのだ。
「桜に守られたくなければ、おまえが守ってやるのだ。怪我をさせたら、痛いのだろ?」
「うん。」
 小竜にとって、桜は年の近い友人のようなものだ。だから、守られていることより、守れ、と、命じる。桜を守るということは、深雪自身の無茶もできないということになる。




 深夜を過ぎた頃、隠し扉から、数人が水晶宮の外へゆっくりと出かけた。水晶宮の領域から少し離れると、ふわりと毛布に包まれていた深雪の身体が変化して小さな竜に変わる。それを、朱雀に変化した簾の背中に乗せ、しがみつくように命じると、蓮貴妃も朱雀に、白那も白虎の本来の姿に変化する。当初、三人だけで、と、簾は断ったのだが、私には私の役割があるので、放置しろ、と、言われて簾も諦めた。まあ、つまり、簾だけで足りなければ、蓮貴妃の力も爆発させて、シユウの王を殺してくれ、ということだ、と、理解しているから、それ以上に言い募らなかった。それはそれで有り難いと、簾も感謝する。さすがに、一人の力でシユウの王を滅せられるか、と、言われたら五分五分ではあったからだ。蓮貴妃も加わってくれれば、確実に宮城ごと燃やせる算段が出来る。誰もが最悪の事態は考えている。

 そのまま、丸一日と少し、移動して、どうにか拠点になっている砂漠のオアシスまで辿り着いた。途中、小竜は朱雀の背で、うつらうつらと寝ている具合だったから、体力は温存できている。
「明朝に、陽動部隊は到着する。準備して、夜半に騒ぎを起こしてくれる算段だ。」
 簾の配下に、そこいらの説明をして、みな、準備に取りかかる。小竜の相手は、白那がしてくれるから、こちらは、こちらで手筈の確認だ。いくら夜半とはいえ、あの小竜の鱗は目立つ。それをいかにして隠すかという算段もしなければならない。
「というかだな、簾。・・・・おまえ、なんちゅーもんを連れて来たんだ。」
 火薬を用意して運んで来た季廸は、呆れを通り越して文句を吐いた。どこの世界に水晶宮の当代と次期を、こんなところへ連れて来るバカがいる? と、ツッコミはしておく。
「深雪がやると言ったんだ。私では、あいつを止められん。・・・それに、深雪の力を借りれば、叔卿は簡単に取り戻せるぞ? 季廸。」
「だからって、どうして当代まで。」
「それも最悪の場合には必要になるからだ。・・・私と蓮貴妃と季廸で深雪を連れて行く。おまえたちは、所定の位置まで火薬を運んだらオアシスで待機だ。」
「はあ? バカを申せ。」
「それこそ、無謀だろ? 簾。」
 待機と言われた面子は、口々に了承しかねると意見を吐く。このシユウの宮城近くで、そんな少人数では、見つかったら逃げるのも難しい。それを心配しているのだが、簾は無視する。