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海竜王の宮 深雪  虐殺4

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 まっすぐに是稀を見て、深雪は頷く。どうあっても止めてくれるつもりはない。確かに、止められないなら最高の支援をしてやるほうが得策だ。とうとう、是稀も折れた。そして、それを眺めていた白那も、長に向かって無言で頷いた。



 主人夫婦と次期たちは、そのまま公宮に残し、長夫婦は、詳細な打ち合わせをするために、長の私宮に戻った。人払いをして、ふたりだけで、まず、手筈を整える。
「おまえの信頼の置ける配下を三百ばかり貸してくれ。そちらに、陽動のほうは担当させる。宮城の近くで騒ぎを起こせば、自ずと、そちらに意識は集中する。その間に、私と蓮で小竜を宮城近くまで誘導して叔卿を跳ばして貰う。ただし、おまえの配下には、一切、説明はしないで欲しい。ただ、シユウの領域で騒ぎを起こせ、と、命じてくれ。」
 いくら東海青竜王の信頼のおける配下とはいえ、なるべく事実は報せないにこしたことはない。シユウの領域に侵入して、騒ぎを起こしてもらえば、それでいい。ある程度、シユウの一族を引きつけくれたら、そこからは速やかに撤退してくれればいい、と、簾が夫に説明する。簾の頭には、最初から、その計画は描かれていた。
「それは、つまり・・・叔卿だけ、救助するということか? おまえ、曲がりなりにも長の正妃なんだがな。」
 その戦術に、伯卿のほうも、簾が考えていることに気付いた。隠密裏に西海白竜王だけを奪還する、ということだ。他の従者まで助けるつもりはない。
「だからこそだ。私と蓮なら、それぐらいの数は、なんとかなるだろう。叔卿を救い出したら、そこいらは叔卿と相談して決める。」
「深雪には、なんと? 」
「そこは強引に進める。深雪が、従者も取り戻したとしたら、おそらく、そこで力が尽きる。そこからは、私の独壇場だ。」
 どのような方法かまでは判らないが、西海白竜王がシユウに捕縛されたという事実は、なるべく広めたくない。どのような方法だったとしても、騒ぎに乗じて脱出してきた、という体にしておきたいのだ。それには、事実を知っている従者は邪魔になる。それに、竜王を守れなかった罰は受けてもらわなければならない。
 伯卿も、それは考えていたことだ。竜族最強の武人が囚われて脱出もできなかったとは、西海白竜王にとっても不名誉になる。その事実を知るものは極力少ないほうがいい。
「すまないが、やってくれるか? 」
「当たり前だ。私がやらんで誰がやるんだ。とにかく、明朝までに、そちらは出立させてくれ。こちらも、深雪を連れて夜陰に紛れて出立する。」
 シユウの領域まで丸一日かかる。先に出なければ、間に合わない。深雪に自力で飛ばさせるつもりはない。簾が本来の朱雀に戻り、背に乗せて運ぶ。だから、最高速を出せないから先行する。とりあえず、メシ食って行くか、と、女官を呼んで食事することにした。一応、簾は気鬱の病で後宮に引き込んでいることになっているから、伯卿が、それを命じる。その間に、蓮貴妃も呼び出した。
「参るぞ? 蓮貴妃。」
 きちんと旅装束でやってきた蓮貴妃に、簾も笑いかける。蓮貴妃も、予想はしているのだろう。ニヤリと笑って、叩頭する。寝所で、蓮貴妃とも打ち合わせをする。ちょっと驚いたものの、蓮貴妃は諫言などするつもりもない。自分の主人がやるというなら従うまでだ。
「では、朱雀の姿のほうがよろしいですね? 我が上。焼き尽くして再生できない状態まで持ち込まなければ。」
「あいつらが人型だったら、別に、こちらも人型でいいだろう。まあ、首は刎ねておこう。それで生き返るなら、それは違うものになっている。」
「小竜を背になさるのでしたら、紐で結わえますか? 」
「いや、落とさないように気をつける。おまえが背後から確認しつつ続いてくれ。」
 なるべく体力を温存させたいから、深雪は背に乗せて運ぶ。小竜だから、朱雀の背に易々と乗る大きさだ。打ち合わせが終わると、簾は、そこで一通の書簡をしたためた。それを蓮貴妃に預ける。
「私が命じたら、それを命じた場所に届けてくれ。・・・もしかしたら必要になる。」
「承知いたしました。」
 それが終わる頃に、伯卿が寝所へ、食事の用意が出来たとやってきた。また人払いをしているから、次の間は誰も居ない。
「こちらは、とりあえず追撃の可能性を考えて、領域ギリギリに兵士を配置させておく。それから、仲卿と季卿も呼び戻して態勢を整えておくぞ? 簾。」
「合い判った、広。」
 長も、ただ待っているわけではない。叔卿の行方不明は公けにして、ある程度は探索も命じなければならない。大きな騒ぎにするつもりはなくても、最低限の準備はしておかなければ、辻褄が合わない。すでに他の竜王を招聘した。こういうことに頭が働く仲卿の意見を聞いて、そこいらは考える。
「筋書きとしては、捕縛されたが、こちらの起こした騒ぎに乗じて自力で脱出してきた。ただ、従者は自分を守るために死んだ。というところか? 簾。」
「まあ、そんなところだろうな。」
「ふむ、ということは、シユウに捕縛されたことは知られてしまうわけだな。」
「そこはしょうがないだろう。だから、信頼のおける配下でないとマズイと言ったんだ。そいつらから、どうせ噂は流れる。」
 簾の配下だけでやっても、西海白竜王捕縛の事実は知られることになるだろう。どうしても、隠しきれるものではない。だから、自力脱出してきた、ということにしなければならないのだ。それならば、失態を犯したが挽回はした、と、いえる。または、最悪の場合は、そのまま白竜王はシユウの王と戦って相討ちしたという筋書きになるだろう。自分の女房の顔を眺めて、伯卿は一度、瞑目してから命じる。
「・・・最悪、深雪だけは戻せ。」
「承知している。最悪の場合、私と叔卿でシユウの王を道連れにしておいてやる。逆鱗なんかわからないほどに燃やし尽くしておくさ。・・・・蓮貴妃、深雪を頼んだぞ? それが終わったら追い駆けて来い。」
 簾のほうも、それは承知の上だ。白竜王が死んでいるなら、その筋書きで名誉は守らなくてはならない。シユウの王を殺すとなると、簾も命懸けだ。自分の炎の力を極限まで高めて、周囲を焼き尽くすしか方法がない。それは、簾自身も力尽きることだ。周囲だけではない。その焔は、自身をも焼き尽くすものだからだ。だから、深雪だけを水晶宮に届けたら、蓮貴妃も後を追いかけて冥界に来い、と、命じた。
「有り難き幸せにございます。深雪を水晶宮に届けましたら、直ちにお伺いいたします。」
 蓮貴妃に否やはない。簾がいるところが、蓮貴妃の居場所だ。それが、どこであっても構わない。一緒に燃え尽きられないのは残念だが、簾から授かった小竜だけは保護しなければならない。それを果したら冥界へ飛び込むことは、蓮貴妃にとっては当たり前のことだ。おまえだけは、けっして離さない、と、簾は言っているのだから。
「さあ、さっさと食事して出立する。広、おまえも付き合え。」
 これが今生の別れになるかもしれない。みな、その覚悟は出来ている。
「そうだな。おまえが飲み過ぎないように見張らねばなるまい。」
「そこまで飲むものか。腹に詰められるだけ詰める。長丁場だからな。蓮、酌をしろ。」