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海竜王の宮 深雪  虐殺2

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 かなり遠い場所に、玉座と思しき場所があり、声は、そこから届いた。周囲の従者も目を開け始めて驚いている。
「あまりに呆気なく捕まったものだ。」
「なに? 」
「同族に謀られることなど考えになかったとみえる。・・・こやつらは、子を質に取られ、おまえを捕縛する役目を担ったのだ。愉快じゃな? 西海竜王、おまえが我の前に平伏するとは。神仙界最強と謳われる武人が、たかだかシユウのちっぽけな計略にやられるとは。」
 計略、と、言われて、はっと気付いた。そうだ。あの同族のものは、小さな白竜の身体を爆発させた。その煙を吸い込んだことまでは覚えている。
「白竜の身体の内部を抜き取り、そこに眠りクスリを詰め込ませた。それを、この竜たちが爆発させたのだ。そして、こやつらは、おまえを捕縛して戻り、質となった子供と供に、褒美に殺してやった。どうして、約定が果されると考えるのだろうな? 竜族は単純にできていることだ。」

 眼の前の大小のバラバラになった竜の身体は、そういうことであるらしい。竜族も本拠地や専用の領域に住むものばかりではないし、領域の裾のほうは、それほど警護も強固ではない。そこをシユウに急襲されれば、捕縛は簡単だ。どこかの竜族の散村が襲われたのだろう。

 


「このようなもので、我らを捕縛したとは笑止千万っっ。」
 従者の一人が、人型から竜体に変化しようとする。バリバリと鎖は、簡単に切れた。よし、と、そのまま大きく変化しようとしたが、首だけは外れない。勢いをつけていて、止められず、従者の首は、ばっさりと、その首輪で切られてしまった。ボトンと大きな音と共に、竜の首が転がり、周囲は血の雨が降る。
「ひとつ言い忘れたが、その首輪。ひとつの金剛石より削りだしたもの。いかな竜族といえど、容易く破壊できるものではない。竜体に転じて逃亡を図ろうとすれば、かのような結果となる。」
 西海竜王の首に、その首輪は嵌っている。人型の時は大きいから、じゃらじゃらと鎖が巻きつけられている。
 
 上空からの血の雨に濡れながら、西海竜王は、シユウの王を睨む。
「殺したいなら、まどろっこしいことをせず、一思いにやればいい。生かしておけば、いずれ、立場が反転するぞ。」
 こんな失態を犯しては、命乞いもない。それに、従者を質にして、何かしらの要求を受けても、従者共々助かる見込みはないだろう。竜王は代わりがないが、先代は、まだ存命している。だから、当代が消えても問題はない。
「まあ、そう慌てずとも、我らの歓待を受けろ、西海竜王。おまえの命と引き換えに、水晶宮の次期の顔を拝もうと思っているのだ。」
「バカなことを。俺と引き換えなど、有り得ないだろう。」
「引き換えではない。おまえの引き取りに、水晶宮の次期を指名するのだ。だが、それに応じねば、水晶宮の次期は臆病者だ。そう謗りをして笑うのも、また一興。なに、そう手間は取らせん。その首に使者の役目を担てもらおう。」
 配下のシユウが、転がった竜の首を持ち上げる。それに西海竜王は涼しい顔で微笑んだ。深雪を差し出すことはない。水晶宮の次期は、現役竜王よりも地位は高い。それに、次代の竜王を生み育ててもらうにも、深雪は必要な身体だ。当代の自分よりも生きている価値があるし、竜の理からしても、その選択はない。

・・・・俺の命運も、ここまでか・・・・

 まさか、竜の領域で謀に巻き込まれるとは、西海竜王も予想していなかった。これは、自身の驕りだ。ここで死ぬことは仕方がない。ただ、竜族の良からぬ噂が流れるのだけは、申し訳ないと内心で詫びた。





 彰は、この光景を宮城の、かなり離れた場所から観察していた。全ての手筈を整えて実行したのは、彰だが、妾腹の息子ということで本妻の息子たちが、同席を許さなかったからだ。竜を捕らえるのに、手勢を貸したのは我々だから、功績は我らのものだ、と、勝手に彰の手柄を横取りした。王のほうは、どうせ次期など定めるつもりもなかったのだろう。本妻の息子たちの言い分に首肯して、彰を下がらせた。今、この外れの宮城には、王の一族が介している。こんな楽しい見世物は、他のものには見せられない、と、王は自分の手勢だけで出張ってきた。
 シユウというのは、血縁だから、とか、兄弟だから、という理由で結束することも信頼関係を築くこともない。だから、彰は自身の力の無さを呪うつもりはない。それならそれでよかろう、という心持だ。どうせ、王が斃れれば、次期は戦いによって力づくで選ばれる。今、ここで次期と宣言されても、何の保証もない。
 ただ、万が一のことを考えて、控えていた。あの小竜がやってくる可能性があるからだ。まだ小さな竜だが、あの尋常でない力は、少し興味がある。もし、あの小竜が現れたら、どうなるのか、それを見ておきたいと思っていた。



 
 水晶宮は、それまでは平穏そのものだった。だが、大門の前に、幾人かのシユウが現れて、警戒態勢となった。さすがに、少人数で攻めて来る愚か者はいない。何かしらの威嚇だろうとは予想されている。一人が、大きな竜の首を、そこに投げ出した。そこに、書状がつけてられている。投げてしまうと、すぐにシユウの一団は踵を返した。




 黄魁元、字は季廸は、青海竜王の正妻の後宮で、のんびりと茶を啜っていた。今のところ、これといった役目もないから、出仕したものの手持ち無沙汰にしていたからだ。
「季廸、何か仕事を渡したほうが良いか? 」
「別に、無理に作るな、簾。」
 他のものと打ち合わせてきた自分の主人が戻って来た。ここは、一応、簾公主の後宮という名目になっているが、独立した簾公主自身の調査機関のような仕事が主になった場所だ。だから、竜族だけでなく、他種族のもの、年齢もバラバラなものが顔を出す。季廸の仕事も、その一環で、周囲の領域での探索や小競り合いへの参戦辺りだ。本来なら、どこかの宮の将軍にもなれる実力はあるのだが、宮仕えは性に合わないと、官吏登用の試験も受けなかった変わり者だ。その代わり、ふらふらと各地を流離っていたから、神仙界のかなりの場所を把握している。たまたま、簾と知り合って意気投合して、「とりあえず、手伝え。」 と、頼まれて、ここに出仕している。
「だが、暇にすると、おまえはいなくなるだろ? 」
「どうせ、適当に流離っているだけだ。情報は集めているのだから、それはそれで良いだろう。」
「まあ、そういうことだがな。しばらくは、これといって騒ぎも起きないようだから、好きにしていてもいい。」
「では、宮仕えの真似事は、しばらく休むぞ? 」
「いや、ふらふらするなら、神仙界の北の端へ行け。ここんところ、あそこらの情報が乏しい。」
「仕事を作るな、と、言っただろうが。わしの好きなようにさせろ。」
「ふらふらするんだから、ついでだろ? 」