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海竜王の宮 深雪  虐殺2

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そのようなことは可能なのか? と、王は尋ねる。もちろん、可能にございます、と、彰も叩頭したまま答える。
「ならば、最強の武人たる西海竜王を捕らえてみよ。」
「承知いたしました、王。さらに、あの次期も取引の道具として引き摺り出し、殺しておければ重畳かと。」
「・・・それは少々、無謀だろう。竜王の身柄と引き換えとは申せ、水晶宮の次期など差し出しはすまい。」
「確かに。ですが、それに応じぬ弱き次期という噂は広がりましょう。我らにとっては良い酒肴かと存じます。」
「では、捕らえてみよ。それができたら、おまえを次期としてくれようぞ。」
「有り難き幸せ。」
 シユウは血脈による支配ではない。その時、強いものが王となる。ただ、強いものの血を受け継いだものが、やはり強いのは事実で、シユウの王の座に近いのは、やはり王の血縁ということにはなる。彰は、今の王の妾腹の息子だ。だから、次期となる資格は十分に持ち合わせていた。自分の母が、薬師の一族だったので、その知識も身につけているから、ただ力の優劣だけでない知識もあった。そちらを使えば、力だけで戦うシユウ独特の戦法ではない方法がある。

 シユウの一族と竜族は、同等の力を有した種族だが、天宮の覚えがいいのは竜族のほうで、シユウのほうは、そういう意味では格が下がる。野蛮で好戦的な一族というのが、神仙界での評価だ。そのシユウの一族が、竜族の最強の武人を捕らえて殺したとなれば、評価は変わる。その思惑があって、彰は、この戦術を考えた。ついでに、あの変わった力を使う水晶宮の次期も潰しておけば、と考えている。さすがに、竜族も西海竜王との交換など認めるはずもないが、何かしらの反応はあるだろう。彰は、一度、その顔を拝んでいる。水晶宮の結界の綻びから侵入して、次期を殺そうとしたことがあったからだ。その時は、次期の力に驚いて退散してしまったが、あれが成人すれば、シユウにとっての脅威になることは理解している。新しい芽を摘むならば、早いほうが良い。どう転んでも、竜王の一人か、水晶宮の次期は殺せるのだ。




 西海竜王が、側付きの者を従えて、水晶宮から西海の宮への帰途についていた。竜王は、何かと多忙だ。自身の宮と本営、それから天宮と行事や仕事で行き来することが多い。最強の武人と呼ばれる西海竜王ともなれば、供のものは少ない。自身で、どのようにでも戦えると自負しているからだ。
 西海の海に下りてきて、少し向うに白いものが浮かんでいるのが視界に入った。何か、と、供のものが調べに走ったが、竜王自身も近寄った。視界にはっきりと捉えたのは、白竜の子供が折り重なるように倒れて海に浮かんでいるものだった。
「どういうことだ? 」
 白竜ばかり数匹が、波間を漂っている。子供の竜が、こんなところへ単独で出てくることは珍しい。基本的に、小竜というのは変化も神通力も使えないからだ。それに白竜だけというのも気になる。水晶宮の末弟も白竜だ。あれほどの輝きはなくても、その姿が思い出された。そこへ、今度は成人した竜たちが飛んで現れた。
「あれは親だろうか? 」
 数匹の竜が、慌てたようにやってくるから探しに来たのかと、西海竜王と従者たちは、そのまま待っていた。三本爪の竜など、あの程度の数なら襲われても問題はないから、のんびりとしたものだ。
 飛んできた竜たちは、波間に浮かぶ小竜たちの側に降りて来て、「申し訳ありません。」 と、言うが早いか、小竜の身体を何かで破裂させた。そして、その竜たちは水面下へ潜る。残っていた竜王たちは驚いて、そのまま破裂させられた煙を吸い込んで、バタバタと水面に落ちていった。海風が、その煙を洗い流すと、再び、竜たちは水面に顔を出し、倒れた竜王たちを担ぎ、どこかへと飛び去った。






 守猫の桜は、すっかりと成人して大きくなった。普段は、深雪が抱いて連れて行けるほどの大きさに変化しているが、本来の大きさは、深雪を乗せて走れるほどになっている。基本的に守猫というのは、保護対象の身体に溶け込むことができて、何かの折には、保護対象の身体全体を防衛できるのだ。桜の主人である水晶宮の小竜は、桜が目にできないと寂しがるので、普段は小振りの猫として傍らに存在している。
「桜、あそこまで競争。」
 私宮の側にある大きな湖の周りを、小竜が走り出す。よちよち歩きだった主人は、どうにか走ることができるようになった。とはいうものの、桜にとっては競争にはならない速度でしかない。てってと前を走っている主人の後から、のんびりと飛び跳ねている状態だ。桜にとって残念なのは、ここが竜族の領域で、本来の白虎の力を使えないことだ。それが使えたなら、もっと主人を楽しませてやれるし、主人に敵対するものを攻撃も出来る。守猫は、白虎の一族の子供を守護するのが仕事だ。本来の領域でない場所で働くことになってしまったから、思うように動けないのが桜にも残念ではある。
 きゃっと声がして、前を行く主人が転けそうになった。慌てて桜が追いついて、背後から衣服を掴んで転けないように支える。この主人、走れるようにはなったが、どうも足元が危うい。毎日、よく転けるので、桜も気をつけている。
「ありがと、桜。」
「にゃう。」
「うん、ちゃんと足元は見てるよ? 」
「にゅうーにゃー。」
「ごめん。ほら、あそこに綺麗な花があるんだ。あれは触ってもいい? 」
「にゃーにゃー。」
 他のものには伝わらないが、桜の言葉は主人には伝わる。だから、桜が注意すれば、主人は謝るし、初めての草花に触れるのも許可を求める。それは大丈夫、と、教えれば、すぐに手折った。桃色の花だ。それを何本か手折ると束ねて、桜の頭に飾ってくれる。
「おまえは白いから、よく似合うね? 華梨にも持っていこう。」
 真っ白で鼻だけが桃色の桜には、桃色の花はよく似合う。桜のために、と、主人は毎日のように花を探して頭に飾ってくれる。なんとも心優しい主人だ。
「深雪、そろそろ書の練習の時間です。戻りなさい。」
 私宮から蓮貴妃が飛んできた。一日の何時間かは、蓮貴妃が書を教えている。適当に遊ばせて適当に勉強させて、武術も教えているので、ほとんど付きっきりの状態だ。
「蓮貴妃、はい。」
「まあ、小竜。私には花など必要ありません。」
「綺麗だよ? いい匂いもするよ? はい。」
 小竜の差し出す小さな花束を蓮貴妃も受け取る。小竜は、こうやって花を摘むのが好きだ。それも、自分のためではなく、誰かのために摘んでいる。蓮貴妃に渡すと、次に華梨のためのものを摘んでいる。それを眺めている蓮貴妃も頬を緩めて、待っている。三十年近く、この小竜の世話をしているので、すでに気分的には母親の気分だ。大切に、ただ幸せに、と、それは蓮貴妃も願っている。





 大きな断末魔の声に、西海竜王の意識が戻った。はっと目を開けて飛び起きて、自分の姿に驚いた。身体中を鎖で拘束されていたからだ。そして、眼の前には竜の死体が、バラバラと落ちている。大きいものと小さいものが入り混じっている。何事だ、と、見回して愕然とした。周囲に従者も同じような状態で転がされているし、それを遠巻きにしているのがシユウたちだったからだ。
「目が覚めたか? 西海竜王。」