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刻印

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 そんなことを考えながら前方を見ていると。
 教師がこっちに背を向けている。
 そして、一人の男子生徒が、音も立てないで、席を立った。はじめから椅子に浅く腰掛けていたのだろうと思う。
 トイレにでも行くのだろうか。
 それは、その程度のことだ。
 そして音も立てないで床に置かれた半開きのスポーツバッグに手を伸ばす。これもチャックの開け閉めで音を当てないようにはじめから開けておいたのだろう。
 取り出した、塊。
 コンクリートブロックだろう。
 それを頭ぐらいの高さに掲げて、教師に突進した。
 え?
 ほんとに僅かな瞬間で。
 こちらに背を向けていた教師は背後からコンクリートブロックの一撃を食らって倒れこんだ。
 教卓の陰に倒れこんだ教師の足が、並んだ机の向こうに見える。
 その影になった教師の頭にコンクリートブロックの打撃を繰り返す男子生徒。
 山田って名前だったよな。
 目立たないからよく覚えてないよ。
 鈍い音が響いている気がする。
 音も視界もぼやけた気がした。
 突然で、前触れはなくて、分からない。
 たぶん数秒。
 他の男子生徒がコンクリートブロックを持った生徒を止めにかかった。
 こういう時に行動できる男子は凄い。
 感心してしまう。
 体力があるから、行動にためらいがない。
 反射神経もあるのだろう。
 たしか野球部の、誰か数名。
 でも何があったんだっけ。そんなに焦って。今は授業中なんだから、暴れまわったりしちゃいけない筈なんだけど。
 どうも教師が見当たらないから、自由にしてるようだ。
 悲鳴が聞こえる。
 死んでる。そう叫んだ声が聞こえた。
 コンクリートブロックを持っていた男子生徒の山田は、教室の隅でうずくまっている。そばにコンクリートブロックが落ちている。
 後ろのほうからがたがたと席を立つ音がする。
 コンクリートブロックがなんであるんだ。
 そのコンクリートブロックで。
 殺し。
 ああ、あいつ、殺しちゃったんだ。
 人を。
 思い出したよ。
 終始この目で見ていたんだから。
 忘れるほうがおかしい。ついさっきの出来事なのだし。
「一堂さん、大丈夫?」
 誰だよ。なんか苗字で呼ばれるとむかつくんだよ。私には名前があるんだから。名前で呼べよ。
「うん、大丈夫、だと思う。なんかびっくりしてよく分かんなくなっちゃただけ」
 九段寺だった。
 この女の表情は、心配そうな顔こそしているものの、いつも通りだった。
 余裕こいてんじゃねえよ。ムカつくんだよ。

作品名:刻印 作家名:咲会伶俐