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刻印

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 一つは、九段寺から見た私についての評価という問題だろう。
この女、ひょっとしたら、私のほうが上だと思っているかも知れないのだ。そうだとすれば、突き落としに来ても不思議ではない。その辺は、私が九段寺についてはっきりと確信を持てないのと同じで、私について正確には把握できてていないかも知れないのだ。
 もしくは、九段寺の性格の問題。
 たんにやりたいだけかも知れないのだ。
 たんに私の中身を外に引きずり出してやりたいと思っているだけかも知れないのだ。
 効率とか必要性とかは問題ではない。
 いじめたいから、いじめる。
 何故いじめるのか。
 いじめたいからだ。
 私だって誰かをいじめたことはある。もう誰をいじめたのか覚えていないのだけど。
 趣味という程でもないから、なんとなくやったという感じか。なんとなくというのも、ちょっと表現不足だろうか。
 人間の本来的な欲求だろうと思う。
 一言でいじめと言っても、中身は様々だろうし。軽いいじめから、飛び降り自殺一歩手間のいじめまで。色々ある。あんまり程度の低い、取るに足りないいじめは、恐らくいじめとして評価されない。
 ほとんど誰でも、うっすらとしたいじめなら行ったことがある筈なのだ。それでも人は、さも自分がいじめなど決して行わない善人のように、いじめを非難する。
 いじめが良いか悪いかなんてどうでもいいのだが、いじめを咎める者は勘違いをしているということは確かなのだ。自分の立場を間違えている奴の言葉なんてしらけるだけだ。
 そういうわけで。
 これは、九段寺だからやるとか、やらないとかではない。誰についてもいじめを行う可能性はある。その程度はひとまず置いておいて。
 九段寺が私の正体をあばいた時、それはいじめと言っていいだろう。
 だけどそれは、有り得ないだろうが正義感からしたことかも知れないわけで。
 そういう場合は、いじめではないと評価される。本人もそれを正しいと評価するだろう。
 性格の問題というのは、すなわち、どういう心構えでそれを行うかという話に過ぎないという意味。
 いじめたいからいじめるタイプは、積極的に動く可能性が高い。正義感も悪意も持ち合わせない人間に比べて、別に放っておけばいいようなことにまで首を突っ込む可能性が高いのだ。
 まあ。
 こんなこと、分かったからどうなのだ、という話だ。どうにもならない。
 ほんと在るがままというか、成るがままというか。
 潰してやるから。
 お前の弱みを見つけたら、躊躇なく潰しにかかるから。
 ここまで私の精神に負担をかけている時点で敵なのは確定しているのだ。
作品名:刻印 作家名:咲会伶俐