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刻印

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 安全は評価であって、事実とは限らない。
 人を襲わないように調教された虎と同じ檻に入ることができるだろうか。
 襲わないというのは、あくまで評価であって、実際はどうか知れたものではない。
 事実は露見してからでないと知りえないし、露見すればそれまでなのだ。
 覆水盆に返らず。
 特にこの九段寺、私の秘密にも気付いているかもしれないのだ。危険きわまりない。
 一見すると大人しそうで、悪意の欠片も見当たらないが、それは私を含めて他人の評価にすぎない。
 見た目通りとは限らない。
 大人しそうなんて評価は、事実とは似ても似つかないかもしれないのだ。
 現に私という、評価と事実が完璧なコントラストを成している人間がいるではないか。
 手の内を晒している人間のほうが少ないと思ったほうがいいだろう。
 はっきり言えることだが、この女が嫌いなのだ。
 同族嫌悪なのかもしれない。
 外観によって自己を騙る人間だから。
 もちろん、それさえも評価にすぎないが。
 たんに私よりも優れていることが許しがたいだけかもしれない。
 知らない生徒も多いようだが、この女、私よりも成績がいいのだ。
 ちなみにここは進学校といっても、地区トップというわけではない。二番だ。
 二番の学校に通っている理由は簡単だ。
 一番の学校に入学できる成績の生徒が二番の学校に行けば、学力においてトップは約束されているからに他ならない。
 一番の学校に惜しくも合格できる成績になれず諦めた負け組ではない。
 この学校の大半は負け組だ。
 せっかく愉悦感に浸っているというのに。
 この女ときたら。
 すまし顔で私より良い成績を取っている。
 認めたくないが、完全に私が負けている。
 ただ、これは好都合かもしれない。
 負けたくないのは事実だが、私が負けている以上、この女は私よりも事実上、上に立っている。
 優位に立つ者は、下位の者に興味などないことが多い。
 私が、私よりも下の、この屑みたいなクラスメイトに興味がないように。
 九段寺も同じように考えているなら、私の秘密をばらしたりはしないかも知れないわけだ。
 実際どうなのかは知れたものではないが。
作品名:刻印 作家名:咲会伶俐