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刻印

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 だがこの女は、一向にそういう素振りをみせない。堂々と真実を口にすることが、かえって自分の立場を悪くすると解っているようである。
 そういう馬鹿な手段にでないだろうという、そういう雰囲気の女ではあるから、不思議ではない。
 そんな馬鹿な事はせず、裏で着実に私の正体に対する疑念をまき散らしているのではないだろうか。
 それが一番困るのだ。
 私がうそつき野郎だという若干の疑いのもとに、私の行動や言動を見れば、それはもう、さぞかし疑う余地だらけなのだから。
 全ての笑顔が作り笑いに見えるだろう。
 それが事実だから。
 毎日毎日、疑いながら私を見ていれば、私がうそっぱちと気付くにはもう十分なのだ。
 そうやって疑念を浸透させておいて、最後の最後、何かひと押しで、私を殺すつもりなのではないか。
 この女はそう思っているに違いないと、私は感じるのだ。
 だから、できるだけ早い内にこの女が、私の正体に気づいているか、はっきりと確認したい。
 はじめのうちは、必要以上に馴れ馴れしく仲良くすることで苛つかせてやるつもりだった。それでこの女が私の正体を口にしてしまわないかと考えていたからだ。
 他人と馴れ馴れしくすることを好まないであろうこの女には、この作戦は有効だと思われた。
 しかし、全くこの女は動じなかった。たんに私が人と仲良くしたくて仕方なのない女子生徒として振る舞っただけだった。
 失敗。
 いつまで経ってもこの女の、私を見る目つきが変わらないところを見るに、私の作戦は一切の功を奏さなかったようだった。
 私に対する疑念を深めただけだったらしい。
 今のところ、現状を維持する他なさそうだった。
 何か手はないものだろうか。
 この問題、あまり先送りにはしたくない。
 この女がその気なら、タイムリミットは常に間近だろうことは明らかだった。
 どうにも難しい問題であるが。

作品名:刻印 作家名:咲会伶俐