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刻印

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 私が実は少しも、見た目通りではないということに気付いているからこそ、こういう態度なのではないかと、そう思うのだ。
 この女は、口数は少ないが無口という程でもない。私が話しかければ、普通に会話が成立する。他の奴らと、別に大した差はない。
 クラスの隅で影のように振る舞うわけでもない。
 友達もいる。いつも落ち着いた様子だから、馬鹿みたいに騒ぐ他の女とは違う。しかし友達との交流は普通にある。
 つまり、私と挨拶をかわさないのは、この女がコミュニケイションの能力に障害があるからではない。いじめられていて一切の会話を拒否しているからでもないのだ。
 会話はする。しかし挨拶はしない。
 そこに、何か明らかに意図があるのは明白だった。
 意図というか、気付きだろうか。
 このことに、他の奴らは気付いていないようだった。
 私が生徒会長をやっていないように、この女は私とだけ挨拶をかわさない。
 どちらもそれだけでは、その本質的な意味を表すには全然足りていない。
 そもそも、どちらも瑣末なことなのだ。一見すると、ほんとうにどうでもいいことだ。
 私と全く口をきかないのであれば、それは大きな問題だし、あからさまだ。誰でもその事実に気付くだろう。
 だが、あいさつをしないだけ。
 そんなことは、たんに朝は元気がでないだけだろうとか、そういう理由だろうと思ってしまえば、それでおしまいなのだ。
 そういう理由で十分説明できる。
 一般生徒では到底気付く余地がない。
 これは、つまり私からしてみても、この女の真意を真に確かめることはできない。
 何か意図があって挨拶を交わさないということは確かなのだが。
 私の本性に気付いているだけなら、別に勝手にすればいいのだ。
 だがこの女、私の正体を他の奴らにばらしてしまうのではないかと、そう感じる。
 今ここでなら。
 今この教室で、高らかに私が見た目だけ取り繕った屑だと宣言してくれるなら、それが一番いい。
 違うと言えば、それで済む。
 いきなり私が良い人のふりをしているだけの偽善者だと言ったところで、にわかには信じがたい。
 信じられない内に堂々と否定すれば、もはや信じる余地はない。人の印象というのは、そういうものだ。
 むしろそんなことを言い出した、この女の方がおかしいのではないかと、そう思われるはずだ。
作品名:刻印 作家名:咲会伶俐