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 たとえば文化祭というのは、一般生からすれば楽しいイベントなのだろう。しかしその裏で、全てのイベントの計画や準備、手引を生徒会が引き受けている。生徒の自主性を盾に、教師が全ての雑用を押し付ける、その先が生徒会なのだ。生徒会長は、その頂点、つまり雑用係の王様なのだ。長とは名ばかりの最底辺の存在だろう。
 高等学校の生徒会に、好んで入る人間など普通はいない。そこに一切のロマンはない。
 そういう明らかに得のない仕事であっても、引き受けてしまうのが、本当の善人なのだ。
 私は決して生徒会に入る気はないが、姉は入った。これが本物と偽物の違いだろう。
 条件こそ満たしているが、嘘っぱちだった。ほんとうに形だけ。
 とはいえ、私が生徒会に入っていないことから、私が外見だけ、いかにも愛される善人の様にしていると気付く生徒はいない筈だ。
 姉にしても、私よりも用心深くて、偽善のくせに生徒会長をやっていたのかも知れないのだ。家庭内でも、決して偽善の欠片など見せないようにしているだけなのかも知れない。
 いや、そこまでできるのだろうか。
 とりあえず、形式的な差は、些細な差でしかない。気のせいに過ぎないかも知れないわけで、答えを導き出す要因にはなりえない。
 今のところ私は大成功している。
 すこしもバレる余地のないよう、細心の注意で女子高生を演じている。
 はずなのだが。
 私が善人ぶった屑だと気付いている奴がいるように思うのだ。
 このクラスの生徒。詳細には、私の隣に座っている女。
 私の挨拶に無言。一度だって返事を返してきたことがない。
 そして、向ける眼差しが、他の奴らと違う。それは明らかに私を嫌っているという眼ではない。
 そうではないが。
 だが。どうだろう。
 この女、気付いているんじゃないかと、そう思う。
 冷めた眼というのだろうか。
作品名:刻印 作家名:咲会伶俐