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黒猫の狂愛は有罪のEnvy 01

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 あれ…?こいつ、どれくらい居たんだ…?
 気持ち悪い。昨日来たばかりなのにもうずっとここに居るように感じる…。
 ドロドロと時間の流れもゆっくりしているようだ。
 「あれ、どうしたの?蓮斗君。顔色悪いけど、熱でもあるの?」
 突然、目の前に少女の顔がくる。
 額と額を合わせたようだ。
 「っちょっ…ちけぇよ。」
 顔が熱い。顔が赤くなってない事を祈る。さすがに幼なじみとはいえ凛果級の美少女の顔が来たら赤面する。
 「えへへっ。大丈夫みたいだね。さあ、ご飯食べよっ?」
 そうだな。とりあえず、この事は忘れて…。
 「ねーコハクちゃん。何食べるー?」
 ……凛果は気付かない。
 なぜ、こんなにもコハクを忌み嫌ってしまうのだろうか。
 制服といい、突然現れるところといい。
 …怖い、のか。
 少しコハクの顔を見る。
 美味しそうに凛果のあげた鯖缶を食べている。
 普通に見たら癒される光景だ。しかし、今はその揺れる黒い尻尾さえも不気味だ。何かへと誘っているかのように。
 白いご飯を一気に掻き込んで、今日の目的地に向けての準備をする。
 「あ、そうだ凛果。昨日言いたかった事なんだが…」
 そうだ。結果報告だよ。
 「ん?なになにー?」
 「昨日見つけたのはこの工場だ。」
 モニターの電源を入れると3Dで工場の図が二人の前に現れる。
 「大規模な工場だ。都会でよくある印刷業の会社だという記述があったんだけど、あまりにでかすぎるから内部まで調べてみたんだ。…そして、わかった事がある。これは本当にマズい事実だ」
 ゴクリ…凛果はなまつばをのんだ。
 これは最悪な発見かもしれなかったが…
 「これは人工生命体、ホムンクルスの生産工場だったんだ。ここでは、最終兵器、Language Program【言葉の具現化】を完成させている…!!」
 …言葉の具現化。つまり、言った事をそのまま現実で起こしてしまうという最悪の兵器。しかし、それには限度があるようで、例えば『地球なくなれ』と言う言葉は実現できないが、人一人に対して『燃えろ』などと言えばその人は炎上し燃えカスになってしまうのだ。
 誰も想像しなかった恐怖の装置。これによって第三次世界大戦は始まったと…。
 「そっか…。作られてしまっていたんだね。あの災悪の狂気が」

 
 あら。その兵器知ってるなら、私も動きやすいわ。


 「だから、俺がもう少し詰めてくる。んじゃ、ちょっといってくるよ」
 いってらっしゃいの声に見送られ、俺は工場へ向かう。


 工場はありえない熱気に包まれていた。
 「昨日は…暑くなかったはずだ。…誰か居るみたいだな」
 午前中に入るもんじゃ無かった。と後悔先に立たず。確実に危険性が高い。ジリジリくる蒸し暑い暑さに体力が奪われていく。はやくしねぇと…
 しかし大規模すぎる。こんな規模で建てる事ができるんだ。間違いなく相当デカい組織が動いているんだろう。
 とりあえず物陰を探し、身をひそめる。建物の一階。情報ではここが最終生産ラインのはずだ。こんな入ってすぐ生産ラインというのはどうかと思うが…。
 …ん?物音がする。耳を澄ますと、
 コツン…コツン…
 っ……。足音が聞こえる。
 ゆっくりと、こちらへ歩み寄って来ている…。
 大丈夫だ。落ち着いて隠れれば見つからない…。
 「来客か?」
 「うわぁぁぁ!!」
 突如後ろから声をかけられ、とっさに身を引き、剣を抜いた。
 「いやぁ悪い悪い。脅かす気は無かったんだけどねぇ。」
 そこに立っていたのは背の高い女だった。
 「あんた…誰だ?ここの関係者か!」
 いけねぇ。大声だしすぎた。
 「ん?あたしはここの管理職をやってる黒音幸って言うんだ。で、悪いけどあんたは一体何?」
 どうやら戦う気は無いようだ。
 「俺は、この戦争の生き残りとして災悪の工場を見に来たんだ。希望か、絶望か確かめにな。」
 「へぇー。意外とかっこいいこと言うんじゃないの。気に入ったわ。この工場、案内してあげるわ」
 そう言って彼女は工場の全てを見せてくれた。おかげで計画は超スムーズに進んだ。
 いや。スムーズに行きすぎなんだけどな…?


 工場内の生産方法まで俺は完全に知ってしまった。
 まさか…そんな風に作られているとは…。
 生命エネルギーを分割して寿命二年の人工生命体を大量生産しているときいた。その体は培養でできている。いつかに作られた代用可能な細胞によって…
 「最後はエネルギー室だ。これはブッとんでヤバいシステムだから騒ぐなよ、いいか?」
 こいつが言うと本気度が伝わらないが本当にマズいものなんだろう。
 俺の恐れの気持ちを知らず幸はいとも簡単にドアを開けた。
 プシューと空気の抜ける音がする。…そこには
 「なんだ……これは…?」
 巨大な青い蛍光色の水槽に一人の少女が浮かんでいた。
 目は閉じ、白い布のような服一枚だけを身にまとったかぼそい少女。
 と、突然幸は口を開いた。
 「こいつは神のプログラムに逆らった化物さ。何といっても猫の心臓を喰って喰って喰い続けて不死身を得たんだとよ。ま、ウソだと思うけど本当に不死身なんだよこいつ」
 …猫、か。
 猫だ。また猫だ。
 不死身より猫に食らいついてしまった。猫は良い思い出が無い…。
 やはり思い出すのは今朝のコハクだ。
 と、少女は突然目を開き、
 「ようこそ、愛染蓮斗。」
 っ!!!…
 地を這うような声だった。
 って言うかそもそも…なぜ俺の名前を知っている!!
 だめだだめだ。
 胃が痛む。
 心臓が跳ねる。
 なぜだろう。急がなければ。
 「やあホムンクルス…。……そうか…。ありがとう幸。俺はちょっと急がなくちゃいけない。帰らせてもらう」
 「あ、そうか、んじゃ、出口そっちね。バイバイ」
 はぁ?…めちゃくちゃあっさりで驚いた。しかしそんな事を言っている暇は無い。
 胸騒ぎがする。
 …凛果が危ないのではないか?


 あらーご名答ご主人様♡でも一歩遅かったわね♪
 計画は始まっているのよ?


 走った。今まで感じた事の無い速さでとにかく突っ走った。
 おもむろにケータイを取り出し、凛果に電話をかける。
 プルルル…プルルル…
 だめだっ…つながんねぇ!!なんだよっこれ!!
 途中で走りすぎで血をはいたが、こんなのは問題では無い。
 とにかく走った。
 そして、見慣れた道の上には…
 ガチャン!!
 「大丈夫かっ!!凛果!!」
 高速でドアを開け放ち、部屋を見る。
 そこには、一人の少女が…
 そう。凛果。

 …ではなかった。
 凛果だと思われる人間はその少女の足下に転がっていた。
 ロングヘアの一回り小さなあの黒い制服の少女。
 あのホムンクルスのような透明な肌。
 そして両手に付いた赤い黒い血糊……。
 「ふふっ…ようこそ。蓮斗♡愛しのダーリンっ♪」
 こいつが殺ったのか…。
 さぁっと、血の気が引いた。
 この聞き覚えのある声に。
 と、同時にこいつはやはり…コハクだってコトに気付く。
 「お、お前……東雲ハルナ…?」
 東雲ハルナは…死んでいる。
 そして、…俺の彼女だったこともある。
 こいつが死んだ原因は一緒に行ったバスツアー…。