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黒猫の狂愛は有罪のEnvy 01

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 黒猫の狂愛は有罪のEnvy 01

どう考えても不公平じゃないか。
 気付いたのは八月の騒がしい夏の日だった。
 味方がいない奴に生きる資格も意味も何もないってこと。
 でもなぁ。遅すぎたんだ。
 こんな世界になっちまったんだもん。
 目の前に人の影が。
 暗い闇に落ちる頃、俺は死んだ。

 1st Envy【黒ノ使魔】
 
 その夜は、いつもに増して月の明るい三日月だった。
 愛染蓮斗はボロボロ黒シャツにジーパン、腰のベルトには拳銃という“昔なら”怪しい格好で歩いている。
 俺が生きているのは栄えていた頃からかれこれ数十年たった地球だ。街は錆びたが相変わらずビルが建ち並ぶ都会のまま残されている。
 でもやはり寂しいのは、商店街の閉まったシャッターや、明かりの付いていない旧ネオン街、そして人通りもなく信号すらついていないスクランブル交差点。
 そうだ。ここは日本、東京。今はその外観だけが形を残す、Lost City【失われた街】でしかない。
 ふと、地面に巨大な穴があることに気づく。機械かなんだかしらないが、人間の仕業である事には変わりは無い。この様な跡は至る所に残されている。
 戦争の恐ろしさは再びやってきたのだ。二度あることは三度あると言うように。
 そして、この戦争が今までと違うのは大量の人の原因不明の死だ。それを調べにきたわけだが…
 「…ん、なんだろ?」
 俺はその壮絶な戦いから一度目を逸らし、たまたま見つけた路地裏へ足を進めた。


 路地裏は月明かりも遮られ真っ暗だった。ぶっ壊れかけの懐中電灯を取り出し、灯りをともした。
 古い物はこれだから使いにくい。振ったり叩いたりしてようやくつける事ができた。
 「はぁ…てか不気味すぎだろここ…」
 だがやはり人気はなく、路地裏ならではの怪しげな雰囲気がまた心臓の拍動を速める。
 自然に歩く歩調もゆっくり、静かになってしまう。誰かに気づかれないように歩いている、そんな風にみえる。
 しかし、
 ササッ…
 何かが蠢く音がした。
 人では無い、何かしら大きな存在が、そこにはいる。
 懐中電灯をで照らすが、そこにはただ暗闇。果て無く続いているだけのように見えた。
 俺は思わず息を呑む。懐中電灯を右に左に傾け様子を見る。
 …光った!
 瞬時に剣を抜き、懐中電灯を投げ捨て、その光る物に刃を向けて構えた。
 が、光る物は消えていた。しかし油断は禁物だ。
 …………。
 何も聴こえない、長き沈黙が訪れる。
 ………やはり思い過ごしか…?
 これ以上待つのは無意味と思われた。剣をそっと鞘にしまう。
 と、その時だった。
 にゃあー。
 間延びした声が路地を埋める。小さな足音を立てて、こちらへ向かってきているようだ。
 懐中電灯を持ち上げ、照らすとそこには黒猫がいた。
 「黒猫かぁ。まだこんな奴も生き残ってたんだな」
 首と頭を撫で回すとゴロゴロと甘えたような声を出す。見た目は本当に魔女の使いとも言われたように凛々しく見えるが、黒に琥珀色の目といい声もまた愛くるしい。
 「そういや、今日はあいつの誕生日だったか?」
 プレゼントにはならないだろうな、とは思いつつも、この黒猫を連れて帰る事にした。
 なんだか幸せだった。
 しかし、なにも気付いていなかったから…。


 …ありがとう。通りすがりの私の“ダーリン”♪
 不吉な声が夜を撫でた。


 「あっ、おかえり!蓮斗!」
 近代的なロックのキーを開けてすぐ聞こえてきたのは、聞き慣れた落ち着く声だ。
 「どうだった?何かわかったことはあった?」
 「ああ、凛果。重大なことが一つだけ判明したんだ」
 彼女の名前は藍染凛果。この戦争を生き残った少ない生存者の一人だ。名字があいぜんで同じだが漢字は違う。もちろん赤の他人。小学校の頃からの友人でわりと一緒にいた時間は多かった親友だ。
 「あれー?蓮斗君、そのネコちゃんな~に??」
 やはり、そこくらいついてきたか。
 「いやぁ、途中で拾ったんだ。珍しいだろ?」
 「すごいっ!すごい可愛い!」
 「ははっ、今日、凛果誕生日だろ?プレゼントにはならないかもしれないけど、今となっちゃ珍しいし、可愛いから連れてきちまったんだよ」
 という説明も聞かず強引に俺から黒猫を奪い去り、頭をモフモフしていた。
 とうの黒猫もにゃー。と力の抜けた声だ。
 「可愛いー。この子ね、名前コハクにするの!」
 …目の色が琥珀色だからか…。簡単につけやがって。と少し文句つけようかと思ったが、まあそう言っても仕方ない。コハクか。いい名前じゃん。となんとなく同意しておいた。
 そして、これから行動をともにするかもしれないので、
 「よろしくな、コハク」
 と、挨拶だけ軽くしておいた。
 言葉が通じたのか少し笑顔になったように見えた。
 遊んでいる凛果とコハクを見ると、なんだか眠くなる…。
 そもそもの目的、今日の調査結果はまだ言えていない。


 ん…?
 寝てしまっていたのだろうか。気づけば明け方になっていた。
 ってあれ。
 コハクと遊んでいたからだろうか。凛果は床にそのまま寝そべって寝ていた。きっちりした生活を心がける凛果からはあまり想像できないようなその光景を、物珍しいからといって写真に収めようとしたがやめた。そんなに悪趣味じゃない。
 しかし、だ。どう考えても不可解な点が一つあった。
 そう。どこにもコハクがいないんだ。
 部屋を見渡す。カギは閉まってないが家中の扉は閉まっている。コハクだけで開閉することはまず不可能なんだ…。
 寒気。得体のしれないものへの寒気だ。
 最悪期の事態も考えながら、ゆっくり、凛果に歩み寄る。
 「おーい、凛果。マジで風邪引くぞ。ベッドで寝てくれよー」
 声をかけ、体を少し揺する。
 彼女の肩からは温もりが感じられ、少しホッとした。
 しかしよほど眠たいのか起きる気配は無かった。
 この時間、蓮斗独りでは何もすることが無いので、居なくなったコハクを探すことにした。

 
 あははっ♪あなたはまだ気づかないのねっ…


 部屋をいくつか探したが、見つからない。昨日は寝てしまったので、唯一入っていないバスルームを見てみることにした。
 なんだか気持ち悪いな。
 まるで自分の家では無いような最悪な感覚に襲われながら、そっとバスルームのドアを開ける。
 …な、なんだよ…これ…。
 
 そこには黒い女子の制服が落ちていた。
 これは、間違いなく俺達の私物では無い。そして、何かしらの疑いが俺にかかるであろうから凛果にこの制服の事を伝えるわけにはいかない。
 考えられるのは、やはり…。
 「あの、クロネコ…」
 お気づきでしたか…?
 そう言うかのように、にゃあ。と小さく甘えた声を出した。


 「蓮斗君ー?ご飯できたよー!」
 あの後、俺は気分が少し悪くなり自分のベッドへと潜り込んだのである。最初は寝るつもりだったが、頭の中に不気味な猫の笑顔が流れて寝れなかった。
 やはり、コハクを手放した方が良いのではないか。
 「…わかった、今行く。」
 紛らわすように返事をしてリビングに出ると、やっぱりあの猫は当たり前のようにそこに居た。