裸族の女
裸族の女
午前0時を過ぎたコンビニの店内は人もまばらだった。修平は残り少なくなった弁当を選んでるのだが、入荷前なのだろう、どれも食欲をそそらない弁当しか並んでないのを見ると舌打ちした。サービス残業を強いられ、おまけに仕事はスムーズに進んでないこともあって、弁当の少なさに苛立ちを抑え切れなかった。
「ちっ、これだけかよ」
他のコンビニにも行こうかと考えたが疲れてる。修平は仕方なくどれでもいいかと客に見放された最後の幕の内弁当を買った。もう、どれでもいいのだ。食べたいというより仕方ないという感じで手に取った。
「はぁ~疲れちまったし、おもしろいことはなんもない・・・」
修平はビール1本と弁当、それにカウンターの向こうに並ぶメンソールのタバコを一箱買った。
「Tポイントカードはお持ちでしょうか?」マニュアルなのか、いつも聞く質問も今日は苛立ちを覚える。いちいち聞いて欲しくないのだが素直に『ありません』と答える自分にも、なんだか嫌な気分になる。
修平は今の会社に勤めて10年、大学を卒業してすぐの就職だからもう年齢も32歳、同じ歳で課長代理になった奴もいるが修平はまだ役職無しのいわゆる普通の会社員だった。エリートコースなんて程遠い、使いまわしのサラリーマンをこなしていた。
貯金なんてないし結婚だって考えられない。その前に彼女も今はいなかった。会社と1DKのマンションの往復で人生が削られてゆく。
『夢を持て 志を高くせよ』会社のスローガンが毎日うっとおしい。
「ありがとうございました」と機械的に見送られ、修平は手にビニール袋をひとつ提げてコンビニを出てきた。8月の午前0時は、まだ昼間の熱気を帯びて、熱帯夜と呼ばれる温度をかなり超えてるようだった。
駐車場には修平の車が1台だけで、いくつかのマンションが駐車場を囲んでいる。コンビニ回りはしんと静まりかえっていた。『深夜のアイドリング音はお控えください』と住宅地に気を使った張り紙がいくつか見えた。
修平は自分の車に歩み寄ると、電気が灯ったマンションの3階のベランダから何か呼んでる声に気がついた。女性のようだ。洗濯物でも干しているのかと見ると女は手を振り「こっちに来て」みたいなことを言っていた。
『俺?』修平は後ろを見たが誰もいない。自分に手を振っているんだろうか。気になり近づいて行くと女は裸だった。夜とはいえ、コンビニの駐車場の灯りや街灯で裸だとわかる。
「なんだあいつ?」それでも好奇心が湧き、女のマンションの下に歩み寄った。若い女の裸に目を背ける男なんていやしない。
修平は裸の女が立つマンションの下に来ると言った。
「俺に用か?」
「うん、あんた。あんたを呼んだの」
「なんで裸なんだ。素っ裸で恥ずかしくないのか?」
女は二十歳ぐらいだろうか、修平よりずいぶん若い。自分が裸なのも一向に気にしてない様子だ。平然と友達を呼ぶかのように声をかけてきた。
「そこにさ~、私のブラジャー落ちたんだけど、拾ってくれる?」
指を指された方に修平は目を向けた。コンビニの駐車場のフェンスの向こうに白い物が見えた。
「ごめ~ん、持ってきて来んない?」
「自分で取りに来たらいいじゃん」修平はそっけなく言った。
「裸だし行けないよ~」
「服着て来りゃいいじゃん」
「お願い、持ってきて~」女の拝む姿に修平はフェンスを乗り越えた。
「これか。でっかいブラジャーだな」修平は自分の体に当てて見た。
「304号室ね。入口は向こうだから」
修平は女が指差す方向に歩いて行き、しょうがないと届けることにした。心のどこかで実は違うことも期待していた。
午前0時を過ぎたコンビニの店内は人もまばらだった。修平は残り少なくなった弁当を選んでるのだが、入荷前なのだろう、どれも食欲をそそらない弁当しか並んでないのを見ると舌打ちした。サービス残業を強いられ、おまけに仕事はスムーズに進んでないこともあって、弁当の少なさに苛立ちを抑え切れなかった。
「ちっ、これだけかよ」
他のコンビニにも行こうかと考えたが疲れてる。修平は仕方なくどれでもいいかと客に見放された最後の幕の内弁当を買った。もう、どれでもいいのだ。食べたいというより仕方ないという感じで手に取った。
「はぁ~疲れちまったし、おもしろいことはなんもない・・・」
修平はビール1本と弁当、それにカウンターの向こうに並ぶメンソールのタバコを一箱買った。
「Tポイントカードはお持ちでしょうか?」マニュアルなのか、いつも聞く質問も今日は苛立ちを覚える。いちいち聞いて欲しくないのだが素直に『ありません』と答える自分にも、なんだか嫌な気分になる。
修平は今の会社に勤めて10年、大学を卒業してすぐの就職だからもう年齢も32歳、同じ歳で課長代理になった奴もいるが修平はまだ役職無しのいわゆる普通の会社員だった。エリートコースなんて程遠い、使いまわしのサラリーマンをこなしていた。
貯金なんてないし結婚だって考えられない。その前に彼女も今はいなかった。会社と1DKのマンションの往復で人生が削られてゆく。
『夢を持て 志を高くせよ』会社のスローガンが毎日うっとおしい。
「ありがとうございました」と機械的に見送られ、修平は手にビニール袋をひとつ提げてコンビニを出てきた。8月の午前0時は、まだ昼間の熱気を帯びて、熱帯夜と呼ばれる温度をかなり超えてるようだった。
駐車場には修平の車が1台だけで、いくつかのマンションが駐車場を囲んでいる。コンビニ回りはしんと静まりかえっていた。『深夜のアイドリング音はお控えください』と住宅地に気を使った張り紙がいくつか見えた。
修平は自分の車に歩み寄ると、電気が灯ったマンションの3階のベランダから何か呼んでる声に気がついた。女性のようだ。洗濯物でも干しているのかと見ると女は手を振り「こっちに来て」みたいなことを言っていた。
『俺?』修平は後ろを見たが誰もいない。自分に手を振っているんだろうか。気になり近づいて行くと女は裸だった。夜とはいえ、コンビニの駐車場の灯りや街灯で裸だとわかる。
「なんだあいつ?」それでも好奇心が湧き、女のマンションの下に歩み寄った。若い女の裸に目を背ける男なんていやしない。
修平は裸の女が立つマンションの下に来ると言った。
「俺に用か?」
「うん、あんた。あんたを呼んだの」
「なんで裸なんだ。素っ裸で恥ずかしくないのか?」
女は二十歳ぐらいだろうか、修平よりずいぶん若い。自分が裸なのも一向に気にしてない様子だ。平然と友達を呼ぶかのように声をかけてきた。
「そこにさ~、私のブラジャー落ちたんだけど、拾ってくれる?」
指を指された方に修平は目を向けた。コンビニの駐車場のフェンスの向こうに白い物が見えた。
「ごめ~ん、持ってきて来んない?」
「自分で取りに来たらいいじゃん」修平はそっけなく言った。
「裸だし行けないよ~」
「服着て来りゃいいじゃん」
「お願い、持ってきて~」女の拝む姿に修平はフェンスを乗り越えた。
「これか。でっかいブラジャーだな」修平は自分の体に当てて見た。
「304号室ね。入口は向こうだから」
修平は女が指差す方向に歩いて行き、しょうがないと届けることにした。心のどこかで実は違うことも期待していた。