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デンジャラス×プリンセス

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「……共犯者ですって? ふふ。なかなか面白いこと言うじゃない。でも、その推理には大きな穴があるわ。さっきアナタも言ったように、アタシたちが村を出てから帰ってくるまでの間、宝物庫にはあの警備兵が一日中張りついていたのよ? 彼自身も、宝物庫には誰も現れていないと証言してるじゃない。そもそも、その実行犯とやらは魔導キーを使用できないのに、どうやって宝物庫からティアラを盗むっていうの?」
 反論をぶつけることで、一連のやり取りを楽しんでいるのだろう。ここまでの間、エリナさんの表情や仕草には焦りひとつ浮かんでいない。。
「いいえ。ちゃんと現れてるわ。犯人も、共犯者も。どちらもね」
 同じく、気負いなく告げるサーシャに、エリナさんの表情が怪訝に曇りを帯びる。
「……アナタ、なに言ってるの? だったら、あの警備兵がウソをついてるっていうの?」
「いいえ。彼はウソなんかついていない。確かに、村長さんたちが村を出てから帰ってくるまでの間は誰も宝物庫には近づいていない。けれど、問題はそこじゃない。言ったでしょ? 犯行推定時刻は『村長さんたちが村を出た後』からじゃなく『鑑定士によるティアラの鑑定が終わった直後』からって」
 その言葉の意味するところを察したのだろう。エリナさんの唇に初めて動揺に似た感情が過る。
「そう。今回の事件は『鑑定士によってティアラの鑑定が終わった直後』。まさに、その瞬間に起こなわれたのよ」
 サーシャの指摘に、唇を引きつらせたように笑いながらエリナさんが反論。
「……あ、アナタ、自分がメチャクチャなこと言ってるの分かってる? あんなに大勢の人間がいるなかで、ティアラを盗むですって? そんなことできるはずないじゃない」
 嘲笑を交えて主張するが、しかしその声色には先ほどまでの余裕が見当たらない。
「可能よ。いえ、むしろその瞬間しかチャンスがないと言った方が正しいかしら。そもそも、今回の事件全体を通して宝物庫の封印が解除されたと確認されているのは、犯行前日のティアラの鑑定の際と、帰宅後の奥さんによる犯行発覚のときだけ。そしてそのとき以外、犯人がカギを使用する機会は一度もなかった。だったら、そのどちらかで犯行が起こなわれたと考える方が、よっぽど自然じゃない?」
 必要もないのにカギを開けようとするから疑われる。反対に、そこにはっきりした目的があれば怪しまれることはない。犯人は、その大義名分と心理を巧みに利用したのだ。
「理屈でいえばそうかもしれないわ。だけど、あんなに大勢の人間の目があるなかでティアラを盗むなんて、そんなことできるはずないでしょう」
 エリナさんが両手を広げて首を左右に振る。そんな仕草を見せる彼女も、当然、サーシャの言わんとしていることを理解しているはずだ。
 ややオーバー気味のリアクションを見せる彼女に対し、サーシャは淡々と続ける。
「確かに、みんながいるなかでティアラを盗むなんて、普通に考えたら有りえないことだわ。だけど犯人は、そんな心理すらも逆手に取った。【まさかこのタイミングで、ティアラを盗みにくるはずがないだろう】。そういう、みんなの心のスキをね」
 ティアラの鑑定は、多くの関係者が見守るなかで行われた。本物と鑑定された直後は、現場には安堵の空気すら漂っていたことだろう。逆に言えば、その瞬間こそが一番人々が油断するときでもある。それは、あの兄ちゃんですら例外ではないはずだ。
「しかも、鑑定は犯行予告の前日に行われている。犯人が現れるのは犯行予告日だとあの場にいた誰もが暗黙のうちに決めつけていたことも、危機レベルの欠如を生み出す要因の一つになっていたでしょう」
 数々の条件を複合的に組み合わせ、犯行を成立しやすい状況を巧みに作り上げる。犯人の、その手腕は見事と言っていいだろう。
「……アナタの言いたいことは分かったわ。でも、どうやって? あのとき宝物庫には、アタシたちも含めて十人以上もの人間がいたのよ。彼らに気づかれずに犯行を成立させるなんてこと、黒歴史時代の神だか悪魔だかじゃあるまいし、アタシたちのような普通の人間にできるはずがないわ」
 エリナさんの言い分は極めて正論だった。だからサーシャも素直にそれを認め、肯定する。 
「そう。アナタの言った通りよ。これは『人間には不可能な犯罪』。だから、代わりに盗ませたのよ。……あるモンスターに、ね」
 見据えた視線の先で、エリナさんの瞳が、じわじわと見開かれていく。食い入るようにサーシャを見据え、直後、その口元が、にやりと吊り上げられた。
「ここ最近、村に頻繁にモンスターが出現していたことは知ってる? そのモンスターなんだけど、どうやら主のいない家に侵入し、盗みを働いていくらしいの。で、よくよく話を聞いてみると、盗(も)っていかれちゃうのは、すべて高価なモノばかりらしいのよね」
 話を聞かせてくれたオバサンは、結婚指輪がなくなったって騒いでいたっけ。それが原因で夫婦ゲンカにもなったとか。
「そのときに、ピーンと来ちゃったのよ。もしかして犯人は、こいつを使ってティアラを盗んだんじゃないか、って」
 サーシャたちがミダス村へ向かう道中。とあるモンスターに遭遇したのを覚えているだろうか。そのモンスターの名前は『ダッシュキャット三世』。ネコ型の外見に幸せの黄色いボディカラーが特徴的な、滅多にお目にかかれないレアモンスターだ。
「そいつね。三度のご飯より高価なアイテムが大好きで、特にキラキラしたものを見つけてはコレクションとして巣に持ち帰る成り金くん的習性を持ってるのよ。しかも、そんな泥棒猫には、おあつらえ向きな特殊能力を持っててね。その名も『自己透明化(セルフ・トランスペアレント)』」
 当時の状況を苦々しさとともに思い返す。「お宝モンスターを捕まえるのよ〜」と色めきだって飛びついたサーシャの目の前で、するっと姿を消したんだっけ。おかげでサーシャは地面に顔面強打。去っていく間際の、あのドヤ顔は今思い出しても腹が立ってくるが、奇しくもあのときの出会いが今回の事件を解決する決め手となったのだ。
「モンスターに盗ませた? ……ふふ。アナタって、ホントに面白い発想してるわね。でも、はたしてそんなことが可能かしら? そもそも、あのモンスターの透過時間は、せいぜい一秒かそこらでしょ? そんな短時間で、うまくいくとは思えないけど」
 顎を上げ、エリナさんが、せせら笑う。しかし、その疑問にもすぐに反論がぶつけられるのは、すでに承知済みだろう。お望み通り、その問いに対する答えを返してやる。
「そうね。アナタの言う通り、通常だったら犯行は不可能だったでしょう。だけど当時は、その通常の状態ではなかった。そう。あの日だけは、唯一犯行が可能になる日だったのよ」
「……ふふ。まったく、もう。いいわ。その先は言わなくても分かってる。……紫月、でしょう?」
 さすがの彼女も、これには参ったとばかりに両手を広げる。 
「その通り。紫月については説明不要よね。犯人は、紫月でモンスターの魔力が増幅されることを利用し、犯行を成立させたのよ」
 具体的な手口は、こうだ。
作品名:デンジャラス×プリンセス 作家名:Mahiro