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デンジャラス×プリンセス

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「あ、アタシ、ロザリーって言います☆ どうぞ、よろしくなさってくださいね☆」
 うむうむ。ロザリーとな。かわゆい見た目にぴったりの、名前であるな。その小汚い服装とのギャップも相まって、余は激しく萌えるぞよ。ほっほっほ。
「旅商人のロザリー様ですか。なるほど。しかし、こんなに愛くるしい美少女が、お一人で旅をされているなんて。色々と、ご苦労も多いことでしょう……ん? 旅商人の……ロザリー……? 何でしょう。このフレーズ。どこかで……」
「おチビちゃん二号。それより、スゴいことって何だい?」
 と、横から口を挟んできたのは兄ちゃんだ。おチビちゃん二号って、じゃあ何か? 一号は、このサーシャお姫様だっていうのか? まあ、元、お姫様だけどさ、と内心でツッコながら、これ以上の不毛なやり取りを避けるべく、ここもじっと黙して耐えてやる。
「はい☆ 何でも、とーっても大事なモノが見つかったらしいですよー。村長さんたちは『これで犯人を特定できる』って喜んでましたー。えーっと、確か宝物庫を解錠する、魔導の……カギ、とかなんとか?」
 下顎に人差し指を当て、かくっと首を傾げるロザリーちゃん。
 そんな少女の頭の上で、サーシャたちは無言で視線を見交わしあう。
「魔導キーが、見つかった……?」
 
 村長さんからの使者がサーシャたちを捜しにきたのは、それからすぐのことだった。
 すぐさまサーシャたちは、ロザリーを除く三人で村長の家を訪れる。詳しい話を聞いてみると、確かにカギは正真正銘の本物であることが発覚した。
「カギを発見したのは私だ。初めは、まさかと驚いたがな。しかし、これで少なくとも犯人だけは証明することができた」
 三人掛けの質素なソファに座るサーシャたちを眺めまわし、勝ち誇った口ぶりで村長が告げる。そんな村長をしばらく無言で見つめ、それからサーシャは目の前のテーブルに意識を移した。そこには事件発覚から忽然と消えていたはずの魔導キーが、重厚な半透明の小箱に入れられ、保管されている。カギ自体が持つ極めて特異な形状と、輪郭を縁取るように薄く揺れるコバルト・ブルーの光の帯は、紛れもなく魔力の輝きそのものだ。じっと凝視するサーシャに反応するかのように、早朝の陽射しを浴びて、きらりとカギが虹色の光を煌めかせる。
 村長の話によると、カギが見つかったのは日付が変わった今日のこと。今からちょうど、三時間ほど前のことらしい。
 発見場所は、村の酒場にある廊下の一角。村長が着席したバーカウンター下のスペースに、人目を忍ぶようにして落ちていたとのことだ。
 そこまでに至った経緯を要約すると、こういうことらしい。村長は週に三度ほど、この村にある唯一の酒場に足を運ぶことを日課としていた。昨晩も連日の心労で疲れ切った頭を少しでも潤そうと、お決まりの席で一杯ひっかけていたようだ。そして酔いも大分深まってきた朝方、ふと村長は椅子の下で光るものを発見した。それが、このカギだったといわけだ。
 正直、突っ込みどころの多い話ではあるが、とりあえず今は追求するのをやめておこう。
 その後、首尾よく街から派遣された専門の魔力監査医によって、カギの成分を調べる検査が行われた。村の人々が固唾を飲んで見守るなか、大多数の人間の願いが届けられたかのように見事にツンデレの魔力反応が検知されたのだった。
「シャナンは、一度もこれを使用したことはないと言っていた。それにも関わらず、カギからはシャナンの魔紋が検出されている。もはや、これで言い逃れは出来まい」
 専門的な記号の並んだ成分表に目を通すサーシャを横目に、村長が優雅に椅子に腰かける。その背後には控え目な立ち姿を見せる奥さんの姿があった。その若く美しい面差しは影を帯びたように曇っている。最悪の結果に愕然としている──もしくは動揺を悟られないように必死に取り繕っている──どちらとも取れる微妙な表情だ。
「まだ、あと一日あるわ。それに、肝心のティアラも見つかってないしね」
 傍らに立つフェイルに成分表を預け、サーシャは奥さんから出された紅茶を手に取った。爽やかに立ち昇る芳醇な香りを口に含み、静かにグラスをコースターに戻す。
「ふっ。無駄なあがきを。こちらには、こうして動かぬ証拠があるというのに」
 軽く握られた拳を片方の手で撫でながら、村長がカギへ顎をしゃくる。
「……一つ教えておいてあげる。誰に何と言われようと、アタシの意思は揺るがない。自分が納得できないことだったら、例えそれが神様だろうと断固として立ち向かってやるわ。それじゃ、時間も残されてないことだし。そろそろ行くわ」
 ぐいっと残った紅茶を飲み干し、両手を合わせて「ごちそうさまでした」。ソファから身を起こすと、戸惑うような表情の奥さんに会釈し、踵を返す。
「……おい、一つだけ聞かせろ。いくら依頼があったとはいえ、赤の他人のお前が、なぜ奴をそこまで信じることができるんだ?」
 村長さんの問いに、サーシャは出口に向かう足を、ぴたりと止めた。数秒の間を置き、いつにも増して真剣な顔つきの村長さんへ、振り返る。
「別に、アタシはあいつを信じてるからやってるわけじゃないわ。ただ誰かが苦しんでいる姿を見て、ニヤニヤとほくそ笑んでる犯人に心底ムカついてるだけ。こう見えてアタシ、とっても執念深いオンナなのよ。オ・ジ・さ・ま」 
 挑発的に投げキッスを送り、サーシャはドアの向こうの陽だまりへと足を踏み出した。

「よろしかったのですか、姫様。あのようなことを、おっしゃって」
 カギの発見現場である酒場を目指し、ずんずんと前のめりに歩く道中。定位置の斜め後方より付き従うフェイルが、どこか呆れた調子で言った。
「うっさいわね。だって、ムカつくじゃない。あんな好き放題言われてさ」
 つい先ほどの村長宅で見せた余裕ありありの態度とは一変。がしがし頭を掻きむしりながら、サーシャはぞんざいに言葉を投げ返す。
「しかし、状況は芳しくありません。私も例の成分表を拝見させていただきましたが、特におかしな点は見当たりませんでした。それでも万が一のため、先ほど魔導ネットワークに照会をしてみましたが、担当監察医の氏名、ID、魔導鑑定協会印など、そのすべてにおいて正当性が確認されております。偽造の可能性は皆無です。国際裁判にかけても十分な証拠能力を有するでしょう」
「だー。うっさいっての! 少し静かに考えさせてよ!」
 やけになって叫ぶサーシャに、「これは失礼致しました」と、皮肉なほど従順な答えが返ってくる。そんなことは言われなくても、百も承知の承知。それなのに自棄になって怒鳴ることしかできない自分が本当に情けない。くわえて、現状を説明するこのメガネ(スペアメガネをすでに装着済み)の声に、どこか面白がるような含み笑いが見え隠れしているのもイライラを募らせるポイントだ。もっとも、それはサーシャが勝手にそう思い込んでいるだけなのかもしれないが、今はこの落ち着き払った声を聞くだけでも腹が立ってくる。
作品名:デンジャラス×プリンセス 作家名:Mahiro