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デンジャラス×プリンセス

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「恐縮です、隊長殿。不肖ながら、このフェイル。女性との濃厚なカラミを実現するためなら、我が生涯のすべてを任務に捧げる所存でございます。てへぺろー!」
 スパァン!
 もはやキャラ崩壊のアホメガネ(くどいようだが、メガネなし)の顔面に、サーシャの放ったブーツの踵が炸裂。下顎骨を強打する甲高い衝撃音が弾け飛ぶ。
「てへぺろーじゃ、ないわよっ! こっちが真剣に考えてれば、くだらないコトを、ごちゃごちゃと! アンタらいいかげんにしないと、このお肉みたいに、こんがり焼いて食べちゃうわよッ!」
 びしっと焚火を指差すサーシャに、被弾した顎を押さえながらフェイルが悲痛に訴える。
「ひ、姫様。私たちを食べようなんて、そんな……。味付けはソルト&ペッパーでお願いしますね?」
「んなこと知るかァ! ぼけェ!」
 なおもボケ倒すチャラ男を屠る、魂のドロップキック発動。悲鳴とともに地面に仰向けにひっくり返った元騎士を目がけ、続けてバク転しざまのムーンサルト・プレスの洗礼。上空からの強襲に「ほんぎゃあァ!」と盛大に胃液をぶちまけるフェイルを逃がさず、今度は、げしげしと足先で虐げる。
「や、やややややめてください姫様ァァァァァ!」
「ほらほら。こうでしょ! こうしてほしいんでしょ! だったら、お望み通りにしてあげるわよぉ!」
 容赦なく痛めつけるサーシャの足元で、情けなく喘ぐフェイル。 
 普段通りの光景に、兄ちゃんの澄んだ笑い声が響いていた。

 お腹も満たしたところで移動を再開し、その後、無事に村へと帰還したサーシャたち。
 ちょこっとどころか大分寄り道してしまったが、ここでようやく本題に戻ったわけだ。
 魔力を消耗し尽したうえに夜を徹しての移動だったため、正直とーっても眠たいが、もちろんそんなことは言ってられない。
 珠のほっぺたを両手で叩いて気合を注入。少し間も空いてしまったことだし、思考のリハビリがてら、ここでこれまでに明らかになったことを振り返ってみよう。

 まず何といっても、エリナさんには政略結婚の話が挙がっているこという事実だ。事件の動機として、恋愛がらみのものは非常に多い。今回もその線で考えていくと、ツンデレを犯人に仕立てあげようとする犯人の意思や思惑など様々な可能性が膨らんでくる。
 エリナさんの婚約相手は、この辺りを取り仕切る領主の息子(そいつが史上最強のキモメン(兄ちゃん談)らしい)。領主さんと、この村の村長さんの家系は先祖代々の古い付き合いらしく、さらに村にとっては重要なビジネスパートナーでもある。村長さんの立場的には、持ちかけられた縁談を断るのは非常によろしくない。
 だからといって、大人しくエリナさんが首を縦に振るかというのは、また別の話だ。誰だって一生を共にする伴侶を他人に勝手に決められたくはない。それが政略結婚なら尚更だろう。
 エリナさんはツンデレを愛している。それを理解している村長にとって、ツンデレの存在は明らかな障害だった。そのツンデレがいなくなれば、駄々をこねる娘も諦めてお嫁に行ってくれるかもしれない。その結果、村長はティアラを盗んだ罪人としてツンデレを排除することに決めた……という図式は単純すぎるだろうか。
 政治的な思惑が絡んだ犯行の可能性。実際、これが今のところ一番ありそうな動機ではある。
 また、奥さんとツンデレの密会現場が目撃されたという点も気になるところだ。それが文字通り二人の秘密の逢引なのだとしたら、話はさらにややこしくなってくる。
 その事実が事件に関係している場合、二人の間に何らかの障害が生じたと見るべきだろう。痴情のもつれか、はたまた一方の裏切りかは定かではないが、恐らく奥さんにとってもツンデレの存在が邪魔になったわけだ。
 動機の面では、村長、奥さん、両名に可能性があることが確認された。もちろん、ツンデレ自身が犯人である可能性も十分残されている。しかし、その可能性は限りなく低いだろうというのがサーシャの考えだ。
 彼の態度、振舞い、そして何より、あの透き通った蒼い両瞳。あの目は罪を犯した人間のものでは決してない。気高いほどなのだ。
 そうなると、やはり犯人は、村長か奥さんか、二人のうちのどちらかになる。
 それと、宝物庫で妙な人影を見たというゼノの証言も忘れてはならないだろう。仮にそれがもし犯人だったとしたら、なぜ犯行前という神経質な時期に、わざわざそのようなことをしたのだろうか。
 そして記憶に新しい暗殺者ジャムカの存在。『ジョーカー』の姿を模し、エリナさん襲撃をした張本人だ。事件発生から逃亡までの一連の奴の行動・くわえてビジネスといった口ぶりから何者かに依頼されてやったのは間違いないが、問題はそれが誰なのかということ。真犯人なのか、それともツンデレの無実を晴らそうとするサーシャたちを目障りに思った人物なのか。いずれにしろ、真の目的はエリナさんではなく、サーシャであったと推測されるが、果たしてその真意は。
 唯一の手掛かりであったジャムカは、兄ちゃんとの決闘の際に姿をくらましている。個人的には、兄ちゃんとの完全決着の行方も気になるところだが、それはまた別の話。
 問題は、まだ続く。そのドタバタに乗じるように今度はツンデレが逃亡してしまったのだ。これでツンデレは自分の立場を更に悪化させることとなってしまった。今回の一件で、村人は完全にツンデレを犯人だと思い込んでしまっていることだろう。
 このままでは、本当にツンデレは犯人として裁かれかねない。
 事件の最重要アイテムであるティアラと、犯行に使用された魔導キーは、いまだ行方知らず。犯行手口に至っては未解明のまま。
 解決の糸口すら見つからない。おまけに時間も、あとわずか。かなりピンチな状況。
 だけど、まだまだこれからだ。勝負は何が起こるかわからない。
 大切なのは、諦めないこと。揺るぎない信念と意思で、この試練を必ず乗り越えてやる!
 
 第四幕 タイムリミット
  
「んー? あれれー? お姉さんじゃないですかぁ。今までドコに行ってたんですかー☆」
 村に戻ったサーシャたちを出迎えた第一声は、そんなキュートなボイスだった。
「やっほー。旅商人のお嬢ちゃん。元気してたー?」 
「はい! あたしは、げんき、げんきですっ☆ あ、それより、お姉さんたち聞きましたあ? 村長たちが、何やらスゴーいモノを見つけたらしいですよー?」
 取れたての果実のような弾ける笑みを覗かせるのは、ツンデレにアリバイがあることを教えてくれた、あの旅商人の女の子だ。トレードマークの大きなリボンを、ぴょこぴょこ揺らし、サーシャたちに小走りで歩み寄ってくる。
「む! ……姫様。こちらの将来有望な美少女は、どなた様でしょうか?」
 きらっとフェイルが瞳を光らせる。こいつは。ちょっと可愛らしい女の子を見ると、すぐこれだ。そもそも美少女なら、いつもお前の近くにいるだろ。ほら。すぐ、そ・こ・に!
 前のめりに少女をガン見する軽薄男に苛立ちを覚えながらも、心は努めて冷静に。持ち前の大人力を発揮し、サーシャよりもさらに頭一つ分、背丈の低い少女に片手を差し出す。
「この辺りを転々としてる旅商人の子よ。えっと、名前は……」
作品名:デンジャラス×プリンセス 作家名:Mahiro