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デンジャラス×プリンセス

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「それには、このオレ様もまったく予想外でよォ。反射的に殺(や)っちまったのさァ。ったく! オレとしたことがよォ! ま、あのアマの逝き顔を拝めただけでも、ヨシとするかって感じだよなァ。くっくっくっ……。あっはっはァッ! にしても、まったく……。あの表情(ツラ)を思い出しただけで、おっ勃っちまうじゃねェかァあァアァアッ!」
 獣のように長い舌を突きだし、ジャムカが歓喜の雄叫びを炸裂させる。狂っている。人間のクズとはまさにこの男のためにあるような言葉だ。一連の様子をつぶさに眺め、ナイフを握るサーシャの手にも自然と力が籠る。ぎりぎりと噛みしめる歯の音が、自分のものとは思えないほど大きく聞こえてくるようだ。
「じゃむ……かァ……!」
 肉親である兄ちゃんの怒りと悲しみはサーシャの比ではないだろう。なおも前進を続ける兄ちゃんを面白そうに一瞥し、ジャムカが傲然と唇を剥いた。
「へッへッ! 問題は、その後だ。一体こいつ、どうしたと思う? 逆上してオレに襲い掛かってきやがったのさァ! あれだけオレにボコられてんのによォ! ぎゃははッ! しかし、あんときは楽しかったよなァッ! いつもの、てめェとは違う。文字通り、命を投げ出したバトルってやつだったもんなァ!」
 当時を思い出しているのか、興奮した面持ちでジャムカが語尾を強める。
「だがよぉ。それも長くは続かなかったんだ。行政観察官とか、ほざく奴らがいきなり踏み込んできやがってよォ! パティ(あのアマ)は、Aの人間じゃねェってことが発覚しやがったんだ。A(あそこ)で生まれた人間は、A出身の証として魔導記号と生体登録が強制される。捨て子だろうと何だろうとな。だがパティ(あのアマ)は、どういうわけか登録がされてなかった。おかげで、オレはA以外(カタギ)を殺っちまった罪で奴らに追われるることになっちまったのさァ! ったく! 先に仕掛けてきたのは、あのアマだってのによォ! てめェらも所詮は犯罪者のくせに、掟(ルール)違反だのと甘ェこと言いやがってェ!」
 がしがしと、ジャムカが子供のように地面を蹴り飛ばす。そんな暗殺者を乾いた瞳で見つめ、サーシャは吐き捨てるように言った。
「アンタ……。ホント、どうしようもないクズヤローね」
「ひゃはあっ! 最高のホメ言葉! どうもサンキューでェーすっ! ……さてっと。おしゃべりの時間は、そろそろ終わりにしようや。オレも一応プロなんでな。受けた依頼は、きーっちりと、こなさせてもらうぜェい。んー。オレってストイックゥー!」
 軽薄に口笛を鳴らしながら、ひゅっとジャムカが右手のシミタ―を頭上に放り投げた。空中で放物線を描いて落下してくるそれを横から鋭くキャッチし、闇に不穏に光る切っ先を真っ直ぐサーシャに突きつける。
「はん! アンタみたいなゴキブリヤローに殺されてたまるもんか。アタシにケンカを売ったことを後悔させてやるわ! でも、安心しなさい。命までは取らないから。フルボッコにした後、アンタの依頼主について洗いざらい吐いてもらうわよ」
 この非道な暗殺者にエリナさん襲撃を依頼した人物が、今回の事件と少なからず関係があることは間違いないだろう。エリナさんを標的にした理由は不明だが、ツンデレ逃亡と時間軸が重なっていることを見ても、犯人が事件に対して何らかのアクションを起こした可能性が非常に高い。
 こいつをここで倒すことは、事件を一気に解決する絶好のチャンスでもあるのだ。
「へえァっ! 見た目に似合わず、相変わらずの強気だなァ。でもオレァ、そういうの嫌いじゃないぜェ……? その気高い瞳の奥にある確固たる信念と、真冬の雨のなかで震える捨て猫のような儚さと心細さ……。へへ。オレには、ちゃーんと見えてるんだよぉ……」
 ゆっくりと唇の輪郭を舌でなぞりながら、ジャムカが凶暴に頬を歪める。
「オレァ、嬢ちゃんみたいなオンナが大好物だぜェ……。そのなけなしの勇気と決意でこさえた心の鎧……。それをメチャクチャくにぶち壊し、その先にある処女のような清純で神聖な部分を、ま〜っ黒く蹂躙してやるよォ……。イイ喘ぎ(コエ)で鳴きそうだなァ。嬢ちゃんはよォ……っ」
 だらだらと粘ついた涎を垂れ流しながら、ジャムカが一歩を踏み出そうとし──その足もとを、がっしりと一人の男が掴んだ。
「……なんだァ? お前、まーだ、いたのかよぉ……? いいトコなのに……邪ァ魔すんじゃねェェえェえェええェッ!」
 ジャムカの絶叫一閃。地面に這いつくばるゼノの顔面に、三日月を描く蹴りがぶち込まれた。潰れた悲鳴を迸らせ、ゼノがひっくり返って今度は仰向けに倒れこむ。
「兄ちゃんッ!」
 すぐさま駆け寄ろうとし、突然、サーシャの目の前が暗転した。ぐわんぐわんと、まるで脳がシェイクされるような不快な感覚に支配され、抗いようもなくその場に片膝をつく。どうやら想像以上に魔力の消耗が激しいらしい。ちょっと意識を強めただけで、この有様なんて……。
 ぼやけた視界で懸命に立ち上がろうとするサーシャを余所に、ジャムカが黄ばんだ歯の隙間から低い笑声を押し漏らす。
「ひっひっひっ……。ゼノよおおおぉ。てめェは相変わらずだなァ? 昔からそうだったよ。何をやらせてもオレには絶対に敵わねェ。今回も、そうさァ。お前はそうやって、惨めで、みっともなくオレを仰ぎ見ることしかできねェのさァ!」
 ひゅんひゅんと長い舌を前後に出し入れしながら、上体を起こしかけたゼノの頭を上から踏みつける。
「うううぅうぅ……。じゃ、む……かァ……っ!」
 苦痛に塗れた兄ちゃんの吐息が霧の谷の闇に揺れる。強く噛みしめられた唇からは、まるで紅い涙がこぼれるかのように鮮やかな血が滴り落ちている。
 シミタ―を器用に手の中で弄び、ジャムカが溜め息混じりに告げた。
「おい。ゼノぉ。いいかァ。よーく聞けよォ? 妹が死んだのは他でもねェ。てめェ自身のせいなんだぜェ……?」
 囁くように告げた瞬間、まるで小針で眼球を突かれでもしたようにジャムカの表情が瞬間的に歪んだ。さすがの高額賞金首ランカー・ジャムカと言えども、やはり『第七天』を喰らった代償は小さくなかったようだ。それでもすぐにその凶悪な顔にふてぶてしい笑みを引き戻し、兄ちゃんを挑発するように今度は絶叫を撒き散らす。
「いいかァ、ぜのぉ……? この世はなァ! 力こそが、すべてなんだよォ! 強盗、脅迫、強姦、殺人んんッ! どうしようもねェ悪ですらも、力があれば、すべてまかり通っちまうっ! 犠牲者はいつまで経っても減ることはねェっ! 正義は勝つ? はっ。じゃあ、何でこの世から悪はなくならねェんだァ? 答えは簡単んんんっ! この世界がオレらみたいな巨大な悪を求めてるからさァ!」
 天高く拳を突き上げ、続いて斬り裂くようにその手を大きく払い動かす。
「いつだってそうだァッ! 正しいのは、いつも他者を屈服させる完膚なきまでの力なのさァっ!」
 暗雲によって席巻された夜空へ叫び、ジャムカがシミタ―の先端を狂ったように何度も地面に突き立てる。人を傷つけるためだけに作られた刃の先端が、大地を突き、孔を穿いていく音響が光なき上空に残酷に呑み込まれていく。
作品名:デンジャラス×プリンセス 作家名:Mahiro