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デンジャラス×プリンセス

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「てんめェ……。あれくらいで、どうにかなるヤローだとは思わなかったが。やっぱ生きてやがったのかァ」
 今まさに鍔迫り合いをしている相手──ゼノに、ジャムカが憎々しげな視線を浴びせかける。
「ぐぅうぅうぅうぅっ! うおおおおおおおおおおォォぉォ!」
 それに対し、ゼノが烈火のごとき眼差しで向かい打つ。愛刀の木刀に力を籠めるその姿は、あの穏やかな物腰の兄ちゃんとは、とても思えない。まるで鬼神のごときプレッシャーだ。
「ぐううううういッ! うァあァあァあァあァあァあァあァッッ!」
 固く噛みしめられた歯の隙間から獣めいた咆哮を唸らせ、兄ちゃんがジャムカのシミターを強引に押し込んでいく。そうはさせまいと、ジャムカも余裕の消え去った形相で応戦。互いの武器の接触部からバチバチとスパークが弾け飛び、霧の谷の闇が煌々と照らしだされる。どうやら兄ちゃんの木刀は通常のものとは違い、魔力を付与することによってパワーアップが図られているようだ。それを裏づけるように、木刀の表面から、うっすらと黒い輝きが立ち込めている。
 それにしても、兄ちゃんのこの変貌ぶりはどうしたことか。裂帛の気合を全身から放出し、目の前の相手を倒すことのみに専心している姿は、まるで別人としか思えない。
「てんめェ……。うぜェんだ……よぉおォおォおォっ!」
 途端、前方へ押し出す力を解除するや、ジャムカが強烈な前蹴りを撃ちだした。そのまま前のめりに体制を崩した兄ちゃんの鳩尾にクリーンヒット。苦痛に塗れた絶叫を撒きながら、兄ちゃんが背中から地面に倒れ伏す。
「……ぶはあっ! へっへっへ……! ゼノぼっちゃんよォ。猪突猛進型なのは相変わらずだなァ。おいいいいいぃ。それじゃあ、そこらへんのモブたちには勝てても、オレのようなプロの戦闘家には勝てないぜェい……ッ」
 不敵に片唇を釣り上げ、ジャムカが地面にツバを吐き捨てる。
「ぐううぅううぅうううう……」
「ふへっへっへえッ! そのザマ。その表情(かお)。思い出すなァ。へへッ! あの時のことをよおおおぉおォ!」
 下卑た高笑いを噴きだすジャムカの足元で、兄ちゃんが苦しげに呻く。地面に落とされた表情はサーシャの位置からでは窺い知れないが、その声はまるで泣いているかのように聞こえた。
 それにしても、とサーシャは、ジャムカとゼノに交互に視線をやった。ここまでの二人のやり取りから、サーシャの胸に当然の疑問が湧きあがる。
「……さっきから、なに? アンタら、もしかして知り合いなの?」
 ゼノに向けた問いだったが、その質問には代わりにジャムカが答えた。
「へっへェッ! そうだぜェ。こいつとオレはよォ! 同じA出身の幼なじみッ! つまるところ、マブダチなのさァッ!」
「え……? 兄ちゃんが……A出身……?」
 A──『アストラル・タウン』とは、確か犯罪者たちが身を寄せる、ろくでもない街ではなかったのか。その兄ちゃんがA出身? 困惑するサーシャを余所に、芝居がかった仕草でジャムカが両手を大きく広げると、凶暴な口元を剥きだしに嬉々と過去を語りだした。
「そうよぉ! オレとコイツはなァ。Aでも特に治安が悪いβ(ベータ)地区ってトコで共に育ったのさァ。A(あそこ)は犯罪者のための街とは銘打っているが、だからといって普通の街みてェに住民すべてが等しく保護されるわけではねェッ! 欲しいモノは力づくで奪うことが許される、まさに弱肉強食の世界なのさァ! そのなかでもβ地区ってのは、それはとにかくヒデェ場所でなァ! 暴力・殺し・盗み・レイプ……毎日どころか毎秒単位の頻度で争いが起こる、まさーに地獄のような場所だったぜェ! なァ! ゼーノちゃんよおォ!」
「ぐうぅうぅ……。うぅ……」
 夜の闇に高々と響きわたるジャムカの哄笑の下で、兄ちゃんの掠れた唸り声が儚く漏れる。自らの顔面を抑え、体全体をくねらせながらひとしきり爆笑すると、シミタ―使いの暗殺者が続きを口にした。
「そんな場所だァ! オレたちは互いに手を組み、協力することで日々をしのいでいたのさァ! こいつには五歳離れたカワイらっしー妹ちゃんがいてよぉ。その子を守るためだったら、お前は何でもやったよなァ? アレだ。確かお前が十三のとき、θ(シータ)地区に住んでた特権階級のオッサンを襲撃したことがあったよなァ。そのときに、ぶっ殺してやった警備の男が、お前の初殺しだったんだっけェ? ひゃはあッ! あの時の泣いて命乞いするヤツの姿は、マジで爆笑もんだったよなァッ! ひゃは! ひゃはひゃは……ひゃッはあァァあァッ!」
「ううう……。ぐうううううぅ……」
 肩で激しく喘ぎながら、土汚れに塗れた顔をゼノが上向ける。少年のようだった無邪気な表情は見る影もなく、まるで耐えがたい後悔と嫌悪に苛まれるかのように、その表情は激しく歪んでいる。
「そんな、ある日のことさァ。ふとした出来事から、オレらは仲違いしちまってなァ。結局、それが原因で二人ともAを追われることになっちまったんだぜェい。へっへっ。思い出すよなァ、あの時のことを……今でも鮮明によぉ!」 
 膂力の漲る肉体を愉快そうに揺らすジャムカを、ゼノが歯を食いしばりながら睨みあげる。その両指は激しく地面に食い込まれ、暗殺者を映す瞳には燃え盛る激怒の炎が迸っている。
「何が起きたのか。理由を教えてやろうかァ? へっへっ! ……それはなァ! このヤローの、愛しの愛しの妹ちゃーん! を、壊れた人形みてェーに、オレがぶっ壊しちまったからさァ!」
 両手を天に掲げ、最凶と呼称される暗殺者が、「ひゃはひゃは」とまるで天地を揺るがすような咆哮を衝き上げる。 
「こいつの妹はパティちゃん! って名前でよぉ! それはそれはカワイイらしー女の子でなァ! ある日、どーしても犯(ヤ)りたくなっちまってよぉ! だから、こいつに頼んだんだァ! 「あの女、一晩貸してくれ」ってなァ! そうしたら、こいつ何て言ったと思う? 親友であるオレに対して「ふざけるな!」だってよォ! おいおい、そりゃねェじゃねェかァ。ここまで誰のおかげで生きてこられたと思ってやがんだよォ」
「……くうッ。うぅ……」
 地面に這いつくばった状態のまま腕を伸ばし、ゼノが少しずつ、少しずつジャムカへと近づいていく。そんな彼を鼻笑いともに見下ろし、「やれやれ」といった具合にジャムカが首を左右に振る。
「それどころか「そんなことしたら許さないぞ!」だってさァ。はあ? なんだよ、それ? 正義の味方のつもりかよ。てめェも散々悪さしてきて、今さら善人ぶってんじゃねえってのッ! もうウゼェからこのバカ徹底的に痛めつけてやってよ。それで晴れてパティーちゃんを蹂躙してやろうとしたら、あのアマ、何しやがったと思う? 「お兄ちゃんに何するの」とかいって、ナイフ片手に襲いかかってきやがったんだよぉ!」
 当時を再現しているつもりか、大げさに震える両手でシミターを構えてみせる。その光景を兄ちゃんはどんな気持ちで見つめているのだろう。濡れるような喘ぎを吐き散らしながら、ただ前へ前へと、這い進んでいく。
作品名:デンジャラス×プリンセス 作家名:Mahiro