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デンジャラス×プリンセス

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 その風貌と道端に座り込んだ様子から、この村の人間ではないことは一目瞭然だ。それを裏付けるように、大樹の枝葉が作った大きな影の下には様々な種類の品物が並んでいる。
 どうやら彼女は、街から街を移動する、いわゆる旅商人らしい。
「やっほー。景気は、どーですかー」
 性質の悪い盗賊やらモンスターやらが雨後の竹の子のごとく跋扈する昨今、こんなに可愛らしい旅商人が、しかも一人でいるのは珍しい。興味深々にサーシャが歩み寄ると、少女は愛らしい小顔を振り向かせ、にっこりと微笑んだ。
「あ、こんにちはー☆」
 商品の前に屈みこんだサーシャを、少女がいかにも女の子らしい萌え系ボイスで出迎える。うー。お肌ぷるぷる。かーいらしーのー。
「お姉さん。よかったら見ていってくださいな☆」
 少女が、目の前の商品に向かって小さな両手を広げる。「ほーい」とサーシャは片手を上げて応えると、それらの商品を端から順番に目をやっていった。
 売り物は主に雑貨類が中心で、女の子向きのキュートな装飾品や、どこか異国を思わせる独特な形状の置物などがレモンイエローの布の上に所狭しと並んでいた。なかには、魔導道具と思しき商品も、ちらほら目につく。
 全体的に商品のラインナップにやや統一感が欠けるものの、総じて旅商人とはこんなものだ。この地域では珍しい代物ばかりなので、興味本位で手に取る人も多くいることだろう。
「ふーん。結構、おもろいモノ揃ってるじゃん。お嬢ちゃんって一人でお店やってるの?」
「あ、はい。一応、一人でやらせてもらってますー☆」
 先端にダークレッドの翅がついたエキゾチックな首飾りを手に取るサーシャに、少女が屈託なく答える。ぷにぷにの唇から真っ白な歯を覗かせ、続けて少女が問いかけてきた。
「お客さんはドコから来たんですか? 見たところ、この村の人じゃないようですけど☆」 
「あは。やっぱ? わかるー? わかっちゃうー? 都会の洗練された空気感出まくっちゃってるー? あはー。参ったなー。そーゆーの、あえて消してるのにさー。やっぱアレかなー。生まれながらの気品っていうか、オーラっていうかー。そういうのって隠そうとしても、自然に出ちゃうのかなー」
「いやーん」と頭を掻きながら、でへへと口元を緩ませる。権力者の椅子を蹴り飛ばしたとはいえ、どうやらこの生まれ持ったプリンセス・オーラというものは、そう簡単に消し去ってしまうことはできないらしい。もー。そーーゆーのバレちゃいけない立場なのにー。元お姫様は辛いのら〜。
「はい! 『土とホコリに塗れた田舎娘オーラ』がハイパー出まくっちゃってます☆」
 ズドーンとサーシャは豪快に地面にずっこけた。
「みゅ? どうしたんですかー?」
「……な。ないでもないれすぅ……」
 不思議そうに首を傾げる少女に「あはは……」と間の抜けた笑いで返答。……おいおい。よりにもよって田舎娘オーラて……。片頬をヒクつかせながら、ニコニコと無邪気に微笑む少女を薄目に映す。いやいや、落ち着けアタシ。別にこの子も悪気があって言ったわけじゃないんだ。うん、そうだ。この子は、あくまでも純真なんだ。正直なんだ。嘘がつけないだけなんだ……って、ダメじゃんっ!
「そ、それにしても、お嬢ちゃんみたいな子が一人で商売なんて大変じゃない? 近頃はモンスターとか盗賊さんとか無限増殖してるし。旅をするのも楽じゃないでしょ」 
 気を取り直して尋ねると、まるで草原を渡る春風のような少女が元気よく答えた。
「そんなことないですよー☆ 迷宮(ダンジョン)に潜ってお宝を探したり、ゲットしたアイテムを売るために色々な街を回ったり、毎日が新しい発見ばかりで、とっても、とっても楽しいですっ☆ あ! それで思い出したんですけどー」
 ぽんと小さな両手を合わせ、少女が心持ち声を潜めて続ける。
「今、この村で何か大変な事件が起きているそうですね? さっき、お店に来てくれたお客様が言ってました」
「え。あ、うん。どうやらそうみたいねー」
 実はその事件の調査をしているのだが、LOP絡みの事件という性質上、部外者にはあまり余計なことは話さない方がいいだろう。
「聞くところによると、広場で吊るされてる方が犯人さんなんですよね? 何でも、村の皆さんが、とっても大事にしているものを盗んだとか」
 くりくりした両瞳に好奇心を宿し、少女が小さく膨らんだ胸の前で腕組みをする。
「アタシもトレージャーハンターの端くれですから、そのお気持ちはよく分かりますー。でもでも、いくら欲しくてしょうがなかったとしても、人のモノを勝手に盗むのはいけませんよね。そのお客様も、とーっても怒ってましたよー。「あいつのせいで、この村がなくなっちゃうかもしれない」って。そんな大事なものだなんて、一体何を盗んだんでしょうかねー」
「う、うん。そうねー。気になるわよねー」
 可愛らしく小首を傾ける少女に、苦笑混じりに相槌を打つ。それにしても、こんな重大事件を軽々しく外部の人間に漏らしてしまうなんて。サーシャに情報提供してくれたオバサンを始め、どこの世界にもおしゃべり好きな人間というものは存在するらしい。とにもかくにも、これ以上、少女が事件に興味を持つ前に話題を反らした方がよさそうだ。 
「んー。でも、あの方が犯人だなんて、ちょこっとだけ意外ですー」
「うん。そうよねー。アタシも、そう思うわー。……あ、コレ、可愛いー。ねね。コレってどこで手に入れ……」
 早口で話題を切り替えようとした次の瞬間、少女の口から意外な言葉が飛び出した。
「つい先日のことなんですけどね? とある街の近くで、あの人のことを見かけたんですよー。ココ最近、野生モンスターによる公共被害が増えてきてるじゃないですかー? その修繕作業の一環として、壊されちゃった街道の補修工事のお仕事をしてたみたいなんですよねー。その日はとーっても暑い日で、皆さんがダウンするなか、一人汗だくになりながら一生懸命に働いてたんですよー☆ あのときは、とてもそんなことするような人には思えなかったんですけどねー」
「え? ……ツンデレ……じゃなくて、あの人が?」
 両目をぱちくりさせるサーシャに、こくんと少女が首肯する。
「はい。えっと、今から一週間くらい前だったかな? ここから馬車で半日ほどの距離に大きな街があるんですけど、その近くの街道で働いてたんです。翌日の朝に通りかかったときもまだ働いてたんで、えらいなーって感心してたんですよ☆」
「一週間前……っ? ちょっと、それマジ? あのさ、正確な日にちって覚えてる?」
 がばっと両肩に飛びつくサーシャに戸惑いつつも、少女が視線を斜めに上向け、記憶を辿る。
「え、えっと……。そうですね。正確な日付は……いつだったかなー……。あ、でもあの日は、ちょうど『パーピュア・ムーン』だったことは覚えてますー。しかも、次の日は四年に一度の『紫天月下』の祭日でした☆」
『紫天月下』の祭日といえば『ジョーカー』の犯行予告日じゃないか。その前日から朝にかけてツンデレは街で働いていた? それって、つまり──。
「あいつ……事件当日は、村にいなかったってこと……?」
作品名:デンジャラス×プリンセス 作家名:Mahiro