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デンジャラス×プリンセス

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〈謎三〉 重要証拠である魔導キーと、持ち出されたティアラは一体どこに消えてしまったのか?
 
 こんなところだろうか。
 この事件のキーアイテムは、何と言っても宝物庫を解錠する魔導キーだ。
 カギを使用できるのは、村長一家の四人だけ。これは揺るぎない事実。そして、その魔導キーも現場から消えている。
 カギが見つかれば、それを使用した痕跡──魔紋──を調べることが可能となる。
 魔紋は主にマジックアイテムなどを使用した際に残される魔力痕のことで、形状や成分などを含め、同じ型(タイプ)はこの世に二つと存在しない。
 これまで、ツンデレはカギを使用したことがないと主張している。よって、専門家によってカギを鑑定してもらい、ツンデレの魔紋が付着していないことが証明されれば晴れて彼の身の潔癖が証明できるのだが、そう現実はうまくいかないようだ。裏を返せば、カギを調べられると都合が悪い人間がいるということ。だから、カギが現場から消えている。そしてそれは、カギを持ち出した人物がティアラを盗んだ犯人、あるいはその関係者であるという揺るぎない証拠でもある。カギだけ持ち出して、ティアラ消失の件とは無関係なんて、普通に考えてありえないからだ。
 また、あの警備の兄ちゃんに見つからずに、どうやってティアラを盗み出したかという謎も依然として残されている。あの兄ちゃん、頭の方が少々残念っぽいので、一応、魔力ネットワーク上から彼の所属ギルドも含めて情報を照会してみたのだが、これが意外や意外。彼の所属ギルドも含め、とても評価が高かったのだ。
 この国のすべてのギルドを統括管理している『ギルド協会』が、兄ちゃん自身に与えたギルド称号(ランク)は『R(ランク)・ブルゾス(青銅)』。
 ギルド称号とは各ギルド内での実績や評価及び昇格試験の結果に応じて協会から授与されるもので、十二段階中『R(ランク)・ブルゾス(青銅)』は、上から数えて四番目の称号になる。ギルド称号は変動しやすく、油断しているとすぐに落位してしまうため、上位を維持するのは容易なことではない。つまるところ、彼はかなり優秀な人物だと思ってもらって結構だ。職務への怠慢はなかったと見て問題ないだろう。 
 そんな兄ちゃんを欺いた犯人による一連の犯行手口。また、今回の事件は動機も重要な要因(ファクター)の一つになってくるだろう。
 ツンデレが犯人ではないと仮定した場合、動機の面から考えても、容疑者は村長か奥さんに絞られる。よくあるトラブルか、逆恨みか、口封じかは定かではないが、何らかの理由でツンデレが邪魔になり、彼に罪を着せたのだ。その場合、単独犯なのか、それとも協力者がいるのか。いや、この際二人が共犯だという可能性も否定できない。それくらい、今回の事件を完璧に達成するには困難が伴うのだ。
 謎は、いまだ多く残されている。だからといって悠長に捜査をしている時間も残されていない。このままでは村長一家は事件の責任を問われることになり、警備の兄ちゃんも契約違反で厳罰に処せられてしまう。ツンデレは重罪人として国際法廷で裁かれ、この美しい村はLOP協会によって接収の憂き目に遭うことになるのだ。
 何より、エリナさんの悲しむ顔なんて見たくない。
 こんな哀しい結末を望んでいる人なんて、誰一人いないはずだ。恐らく、真犯人を除いては。どういう理由があるにせよ、みんなを不幸に陥れようとする犯人を絶対に許せない。
 犯人の思い通りにさせてたまるもんか。見てなさい。この事件、アタシが絶対に解決してみせるから。
『トラブル・シューター』の名に賭けて。
 元お姫様をナメんなよぉ。

 それからさらに一日が経過し、調査団が到着するまで、あと二日。
 頭上に君臨する太陽は、早朝にも関わらずエネルギッシュに燃えている。今日も暑くなりそうだ。
 天然酵母のパンとミルクの朝食を美味しくいただいたサーシャは、先日に警備の兄ちゃんから聞いた謎の人影のことを調べるべく、情報収集がてら村を巡回することにした。
「怪しい人影、かー」
 下顎に手を添えた探偵風ポーズを取りながら、兄ちゃんとの会話を反芻する。あのとき、兄ちゃんはサーシャの質問に対して視線を外しながら真剣に記憶を辿っていた。もし彼がウソをついているのだったら、そんな仕草はしないはず。人は隠し事をするとき、多くの場合、ウソの答えをあらかじめ用意しておく。それを発言する際、相手の反応が気になってしまい、無意識に相手の様子を確認してしまうのだ。
 そのことからも、警備の兄ちゃんの言葉は信用に値すると言っていい。そうなると、いきなり目の前から人影が消えたという話も真実なのだろう。
 宝物庫からティアラを奪取する手段において、サーシャの脳裏にまず浮かんだのは魔導の存在だった。実際、大方の人間がまず疑うのは、何か『特別な魔導の類でも使ったのではないか』ということだろう。
 しかし、いくら魔導が創造性に富んだ素晴らしいものでも、すべてを無条件に実現してくれるというわけでは、もちろんない。お目当ての魔導を操るには、それ相応の時間と努力と才能が必要になる。
 魔導とは、先人たちの知恵と知識と技術の結晶が詰まった魔道書を読破し、世界を構成する様々な要素や法則などを正しく理解し、訓練に訓練を重ねて、ようやくそれらしい結果を生み出すことが可能となるのだ。もちろん、自身の能力の限界を超えた魔導を使用することなど不可能。
 そういう意味では、世間一般で言う職人さんたちと何ら変わりはない。魔導は、とっても地道かつクリエイティブな作業なのだ。
 一説には、どこぞの国家機関が保管しているLOPの魔導書に、人知を超えるような大魔導のメソッドが収められているとのことだが、それも正直疑わしい。空を飛んだり、透明人間になったりと、そんな夢のような魔導は現時点では残念ながら存在しない。国の最高峰の魔導師たちが集まる王宮で育ったサーシャですら、そんなミラクルな魔導を使用できる人物に、いまだかつてお目にかかったことはないのだから。
「……仮に、その人影が犯人だったとして。何のために犯人は犯行予告日前に現れたの? 現場の下見に来たってコト……?」
 呟きながら、小さく首を捻る。姿を晒すリスクを背負ってまで、果たして犯行前に現場を訪れるだろうか。ただでさえ『ジョーカー』を模した予告のおかげで、宝物庫の警戒レベルは上がってしまっているのだ。
 犯行前に現場の確認をしたかったなら、犯行予告をする前の方がよっぽど安全なのは誰の目にも明らか。それとも、犯人はあの段階で宝物庫に行かなければならない、何か特別な理由でもあったのだろうか……。
 あらゆる可能性を想定するにも、やはり何か根本的なことを見落としている感が否めない。とことこと悩ましく愛用のブーツの底を鳴らすサーシャの視界に、ふと一人の人物の姿が映った。
 陽光に映える薄桃色の髪の可愛らしい女の子だ。身長百五十センチ弱ほどのサーシャよりも、さらに一回りほど小さいミニチュア・ボディ。耳の後ろで作られたポニーテールを結ぶ鮮やかな紅色のリボンが印象的で、使い古された絹の服が彼女のワイルドな生活ぶりを感じさせる。  
作品名:デンジャラス×プリンセス 作家名:Mahiro