デンジャラス×プリンセス
よって、彼女は容疑者から除外して問題ない。犯人は、村長、奥さん、ツンデレの三人のうちの誰かだ。もっと言えば、ここまでのサーシャの印象から、恐らくツンデレも、この事件の犯人ではない。
そうなると、村長か、奥さん。どちらかが、この事件の黒幕。『ジョーカー』だ。
「ふむ。大体、揃ってきたわね。あとは、二人のアリバイと、実際の犯行手口か……」
ティアラを盗んだ方法さえ暴けば、恐らく二人のアリバイも崩れるだろう。そうなれば、もうほとんどこの事件は解決したも同然だ。
「とにかく、短時間でよくやったわ。この情報を手に入れるのに、アンタも、それなりに苦労したんでしょ?」
「ええ。聞いてくださいますか、姫様」
途端に、フェイルの端正な表情がグニャッと歪められる。あ、なんか嫌な予感がしてきたぞ。
「……姫様と別れた後。首尾よく街に辿りついた私は早速カワイ子ちゃん……もとい、情報提供者を捜すため、調査を開始しました。すると、ほどなくして上から92・54・89ほどのナイスバディの美女を発見したのです……! これ幸いにと、すぐさま情熱的なアプローチを敢行。そして難なく、彼女を誘うことに成功したのです」
「ふっ。今回も楽勝ですね」と、内心で大きくガッツポーズ。しかし、そんな甘い考えでいたのが、そもそもの誤算でした……とダメガネが続ける。
「その後「もうすぐ誕生日が近いのーん」という彼女にせがまれ、高級マジックアクセサリー店で彼女に高級ネックレスをプレゼント。。続いて「美味しいご飯が食べたいのーん」と甘えてくる彼女に促され、これまた高級レストランで最上級のディナーを堪能」
「少々手痛い出費となってしまったが、この後の心願成就【もちろんベッド・イン!】を思えば、さしたる問題ではありません」と息巻くエロメガネ。そうこうしているうちに夜も深まっていき、「さあ。いよいよ、お楽しみの時間ですよ!」となった瞬間、まさかの事件が起こった。
「ねえねえ、次はどこに行く?【もちろんア・ソ・コでしょ?】」と切り出した途端。彼女の口から信じられない言葉が飛び出した。
『愛する亭主が待ってるから……おウチに、かえ(帰)りゅーっ♪』
……は? いやいや! ちょっと待ってくださいよー!(大道芸人口調)
「私は、すぐさま言い返しました。「今日くらい、遅くなったっていいじゃない」。粘って、粘って、粘りました。「夜景の綺麗な宿を知ってるんですよ」しかし、彼女はなかなか首を縦に振りません。それどころか「早く帰らないとダーリンが心配しちゃうのん☆」とか言う始末」
ここまできて釣った魚を逃がすわけにいかない。そこで焦ったフェイルは、こう言い放った。
『いーじゃん。どうせ旦那さんも今頃、浮気してるよ』
しかし、それが運の尽き。すかさず彼女から大型肉食モンスターばりの強烈な張り手をお見舞いされ、ジ・エンド。彼女は大きなお尻をこれみよがしにフリフリし、憤慨した様子で帰っていってしまいましたとさ。
「くっ! あんまりです! あれだけお金を使わせるだけ使わせておいて……! 何事もなく帰っていくなんてッ! あまりにも虫がよすぎる話だとは思いませかっ!? しかもですよ? 彼女は出会った当初、絶賛フリー中でーす的なノリで……うんたらかんたら」
サーシャは「ごちそうさま」とテーブルに両手を合わせると、熱っぽく語るフェイルに構わず、立ちあがった。あ、オバチャン。今日のご飯もおいしかったよん☆ ごちそうさまー。にこにこと食堂のオバちゃんに手を振るサーシャに気づく様子もなく、一人で熱弁をぶちまけるフェイルくん。どうやら完全に自分の世界に入り込んでしまったみたいです。
スタスタと出口の角を曲がろうとし、ちらりと戯れに背後を振り返ってみる。お。とうとう床に泣き崩れやがった。他のお客さんたち(主にオッサン)に、なぐさめられてるみたい。今日は朝までコースだな、こりゃ。
そんなダメダメ騎士に一ミリほどの同情ない「ご愁傷さま」ポーズを送り、サーシャは欠伸混じりに部屋へと戻るのだった。
LOP協会のお偉方が村に到着するまで、あと三日。
ぼちぼち事件の情報も集まってきたところで、ここで今回の事件のポイントを整理してみよう。
事件の発端は、大陸中を震撼させる正体不明の大悪党『ジョーカー』を名乗る予告状が村に届いたこと。
その内容は、黒歴史時代の遺物であるLOP(ロスト・オーパーツ)『運命のティアラ』を頂戴するといったものだった。
当初こそ懐疑的だった村長さんだったが、周囲の説得もあり、厳重な警備体制を敷いて万全を期すことに。しかしそんな彼らを嘲笑うように、宝物庫に収められていたはずのティアラが忽然と姿を消してしまった。。
さあ、大変! ティアラはLOP協会が管轄している超重要アイテム。これを消失してしまった暁には責任者への厳重な処罰に加え、さらにその村への制裁措置が執行されてしまう。すなわち、村は存続の危機に瀕しているのだ。
宝物庫のカギを開けるには、専用の魔導キーが絶対に必要。そのカギは村長以下、奥さん、エリナさん、ツンデレのみしか使用することができない。
しかし、犯行が行われた当日には、村長さんと奥さん、そしてエリナさんは所用のため、村にはいなかった。
そんなこんなで疑いの目は一人村に残ったツンデレくんに向けられる。元々、悪さばかりをしてきた少年と言うこともあり、村人たちは「『ジョーカー』の正体はツンデレだ!」と、ほぼ満場一致で断定。ティアラの消息を吐かせるべく、現在、彼は吊るし系に処せられている。
そんななか、エリナさんだけは違った。彼は犯人ではないと一心に信じ、サーシャたちにこの事件の調査の依頼をしてきたのだ。
そんなわけで、サーシャたちは調査を開始。現場の状況などから、これが本物の『ジョーカー』の仕業ではないことが分かり、ちょーっちガッカリしたが、のどかで平和なこの村と、何よりエリナさんのためにも真犯人を見つけることを固く約束。
その後、色々と情報を集めた結果、いくつかの重要な事実が発覚したのだった。
【てがかり・その一】 村長一家の家族構成は割と複雑である。村長とエリナさんだけが実の肉親であり、後妻である奥さんとエリナさんに血の繋がりはない。それは養子であるツンデレも同様である。。
【てがかり・その二】 ツンデレはともかく、エリナさんは彼に姉弟以上の特別な感情を抱いている。
【てがかり・その三】 この地域を収める領主さんと村長さんの間には、エリナさんを中心とした縁談話が持ち上がっており、ツンデレに対する娘の恋心は村長さんにとって頭が痛い問題だった。
【てがかり・その四】 村長さんの奥さんとツンデレが、街で密会をしていたという不穏な情報がある。
それらを踏まえ、これから解き明かしていくべき課題も明確にしておこう。
〈謎一〉 ティアラが保管されている宝物庫の前には、常に警備の兄ちゃんが目を光らせていた。それにも関らず、犯人はどうやって宝物庫の封印を解き、ティアラを盗んだのか?
〈謎二〉 ツンデレが犯人じゃないとすれば、真犯人はなぜ彼に罪を着せようとしているのか?
作品名:デンジャラス×プリンセス 作家名:Mahiro