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デンジャラス×プリンセス

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「しかも相手方のご子息は、街始まって以来のダメンズと、人々の間でまことしやかに囁かれているそうです。女遊びに、ギャンブルはもちろん。昼間から酒を飲んでは自堕落な生活を送る典型的なダメ坊ちゃま。挙句の果てには超がつくほどの不細工フェイスとのことです。嗚呼。エリナ様のような可憐な美女が、そのような人物に、あんなことや、こんなことをして弄ばれるなんて……。おいたわしや」
 胸の前で十字を切り、フェイルが嘆きのポーズを形作る。
「ちょっと。冗談でも、そんな不吉なこと言わないでよね」
 床に手をついて項垂れるフェイルを睨みつける。そういえば、それに類する話を、あの警備の兄ちゃんから聞いたっけ。村長さんたちが帰宅した際、一緒に宝物庫に現れたという例のキモメンこそが、その領主の息子なのだろう。 
「なるほどねー。村長のエリナさんに対する態度の裏には、そういう意味があったのかー」
 先日の食堂での一幕を思い返す。村長さんの気後れにも似た心理行動の裏には、恐らくエリナさんに対して、ある種の罪悪感のようなものがあったのだろう。
 それと同時に、事件に対する村長さんの動機も発覚。
 エリナさんがツンデレに兄妹以上の感情を抱いているのは、部外者のサーシャたちから見ても一目瞭然のことだ。そんなエリナさんの想いに、家族である村長さんが気づいていないはずがない。しかし、一方でエリナさんにはこれから村の運命を決めるといっても過言ではない大切な縁談が控えていた。娘の淡い恋心は、いかにも邪魔なものだったろう。
 もしかしたら、エリナさんも結婚に対して少なからず抵抗を見せていたのかもしれない。それによって家族間でトラブルを抱えていたということも十分考えられることだ。食堂でのエリナさんが感情を爆発させたのも、そのような背景があってのことだと思えば納得できる。いずれにしろ、幼いころに自分が拾ってきたとはいえ、ツンデレが娘の手の届かないところにいってくれるなら村長にとってはこれほど嬉しいことはない。
「それから、もう一つ不穏な情報が。こちらは真偽のほどは定かではないのですが」
 思考を練っているサーシャの横で、歯切れ悪くフェイルが告げる。こいつが、こんなに躊躇った様子を見せるのは珍しいことだ。
「今更もったいぶって、なに? いいから早く言いなさい」
「はい。……実は、奥さまのことなのですが」
「ん? 奥さんが、どしたの?」
「つい先日のことなのですが、例の街にてツンデレさんとの密会現場を目撃したとの証言を入手しました」
「み、密会ぃ!? ちょ、ちょっと、何それ。なんかの間違いでしょ?」
 思わず素っ頓狂な声を放ってしまったサーシャに対し、フェイルが極めて冷静に声を継ぐ。
「当初は、私も姫様と同じように考えました。しかし、その後の調査の結果、残念ながら真実であることが発覚したのです。事実、二人が人目もはばからずに熱い抱擁をする現場を、複数の方々が目撃しています。証言によると、どうやら奥さんの方が熱烈に彼を求めているような雰囲気だったらしく、それに対してツンデレさんも特に抵抗を見せる様子はなかったそうです」
 うぉいうぉい。ちょっと待ちなさいな。それって、いわゆる……。
「はい。お昼のドロドロした関係ではないかと」
 ココに衝撃の事実が発覚! 村長一家のイケメン息子と麗しき義母は、ただならぬ関係にあった! 
 ……とは言われても、実はサーシャには、そこまでの驚きはなかった。なぜなら、昨日に奥さんに会った際、彼女がツンデレに対して何か言い知れない感情を抱いている雰囲気を少なからず感じとっていたからだ。特にコレという明確な根拠があるわけではないが、それにしても、わずか数年の浅い付き合いにしては奴を擁護する様子には熱が籠りすぎていた。
「これらの事実により、各容疑者の間で様々な動機の可能性が発生すると思われます。例えば、村長さま。件のエリナ様の結婚話でツンデレさんが邪魔だったのはもちろん、さらには奥様との不倫関係の事実も知ってしまい、制裁を与えるためツンデレさんを犯人に仕立て上げた。
 続いて、奥様。ツンデレさんとの関係を継続するにあたって何か不都合な事態が生じてしまい、関係を清算するために彼を事件の犯人に祭り上げた、など」
 凛と背を張ったフェイルが冷静に分析する。血の繋がっていない親子同士のアブない関係。事件の動機としては確かに十分だ。村長さんはともかく、あの美人奥さんが犯人だった場合、先ほどのフェイルの指摘にもあったように二人の間に何らかのトラブルが発生してしまった線が濃厚か? それで、仕方なく今回のような強硬手段に打って出てしまった。うーん。ありそうな話ではあるが……。
 しかし、そこには拭いきれない疑念が残るのも事実だ。果たして、その程度の理由でLOP絡みの重大犯罪に手を染めるだろうか? この事件が公になってしまえば、それだけで村全体の存続にも関わってしまうというのに。男女の愛憎は、すべてを盲目にしてしまうと言われてしまえば、それまでなのだが……。
「よろしければ、姫様に一つお伺いしたいことがあるのですが」
 眉根を寄せて首を捻っていると、フェイルがどこか控えめな調子で言った。
「んー。構わぬぞー。申してみよー」
「……姫様は、エリナさんの犯人の可能性については、どう考えておられますか?」
 ぴたりと体の動きを止め、それからゆっくりとサーシャは顔を上向けた。じっとこちらを見つめてくる切れ長の瞳に、逆に問い返す。
「アンタは、どう思ってんのよ」
「私の見解では、彼女はシロです。まず、エリナ様には動機がありません。これまでの経緯、そして現場の状況から察するに、この事件は恐らくツンデレさんに容疑がかかるよう犯人によって仕組まれていると思われます。仮に政略結婚が事件の引き金になっていたとしても、村長さんに恨みを抱くならともかく、ツンデレさんをターゲットにするのは、いかにもおかしい。彼女はツンデレさんを心から愛しております。そんなエリナ様には、彼を犯人に仕立て上げる理由が存在しないのです」
「そもそも、この事件の調査を依頼してきたのは、エリナ様ご本人なのですから」と、言葉を結ぶ。
 そうなのだ。この事件は放っておけば自動的に犯人がツンデレとして裁かれる。それにわざわざ異を唱え、実際にサーシャたちに依頼するという行動を起こしているのは、紛れもなく彼女なのだ。
 もしエリナさんが犯人なのだとしたら、そんなことをする必要なんてない。
「……依頼主が犯人っていうのも、よくあることよ」
 とは言うものの、彼女に限ってそれはないと思えた。その最たる例が、あの広場での一件だ。ツンデレを癒やしたあのマジックアイテムはとても高価なもので、村長の娘だからと言って、そう易々と手に入る類のものではない。聞くところによると、あのアイテムを手に入れるために、彼女は暇を見つけては都市に出向いて働いているそうだ。自分がハメた人間に対して、そんな殊勝なことをする人はいないだろう。それすらも計算に入れている可能性もないとは言い切れないが、それにしては手が込みすぎている。
作品名:デンジャラス×プリンセス 作家名:Mahiro