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デンジャラス×プリンセス

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 先ほど情報収集に村を回った際に、実際に宝物庫を見せてもらったが、もちろんそんなものは影も形もなかった。
 つまりその事実こそが、犯人が『ジョーカー』を語る模倣犯である何よりの証拠。
 では、なぜ犯人は紋様を残していかなかったのか。それは『ジョーカー』の紋様が、世間一般には公表されていない情報だからだ。
 世界的大犯罪者である『ジョーカー』についての情報は、各国共通して特Aレベルの機密事項扱いとされており、徹底した情報管理のもと、管理・統制されている。それには市民に無用な混乱と動揺を与えないためや、今回のような模倣犯と区別する狙いもあるらしい。犯人においては、無論その事実を知るよしもなかったようだ。
『ジョーカー』と対峙し、唯一生き残ったサーシャだからこそ見抜けた真実である。
「あいつらしくない、ですか。相変わらず、姫様は彼のことは何でもお見通しのようで」
「そーよー。だってアタシ、あいつのこと、と〜っても愛してるんだものー。……もう殺しちゃいたいくらいにぃ(はあと)」
「ぐふふふ」と、不敵な笑みを浮かべてやる。そんなサーシャを間近に「おー。怖い怖い」と、フェイルがおどけるように首をすくめると、くいっとメガネを押し上げ、続けた。
「それで、姫様はどなたが犯人なのか、すでに検討はついておられるのですか?」
 言葉こそ丁寧だが、その口調にはどこか試してくるような響きがある。プリンセス時代はサーシャの教育係も兼ねていたからか、この男はいまだにティーチャー気取りで物を言ってくることがままあるのだ。
「……そんなのアタシだって、わかんないわよー」
 ニコニコと微笑むエロティーチャーに、じろっと一瞥を浴びせる。ただ、まったくお手上げというわけでもない。事件解決に繋がりそうな材料は、断片的だが確かに存在しているのだ。
 どうせこの男もそこらへんは承知だろうが、あえて言葉に出して言ってやる。
「みんなはツンデレが犯人だって口を揃えて言うけど、それは単なる状況証拠や人間性から推測しただけであって、あいつが盗んだっていう決定的な証拠は何もないのよね。てか、そもそも疑われると分かってるのに、わざわざ村長さんたちが不在の日を選んで、ティアラを盗もうとするかしら」
 犯行当日、ツンデレ以外の容疑者は村にはいなかった。それはすなわち、魔導キーを使用できる人間が彼一人しかいなかったということであり、そんな状況で犯行を強行すれば自分を疑ってくれと言っているようなものだ。
「近所の家からお米を盗むとか、そんな可愛いらしいものじゃないのよ。狙ったお宝はLOP。それにしては、あまりにも計画性がなさすぎるわ」
「そうですね。それに、事前に犯行予告をしたというのも気になります。犯人にとって、それはデメリット以外の何ものでもないはず。実際、そのせいで宝物庫には外部から雇われた警備兵が配置されているわけですし」
 フェイルの言う通り、なぜ犯人はわざわざ村全体の警備レベルを上げるような真似をしたのだろう。そもそも、どうして犯人は『ジョーカー』を装う必要があったのだろうか。そんなことをしなければ、もっと楽にティアラを盗めたかもしれないのに。
「不用意な犯行予告など、いたずらに相手を警戒させてしまうだけです。その行動の背景には、何かしらの意味やメッセージがあると考えるのが妥当でしょう」
 上着の襟元を正し、フェイルが冷静に分析する。
「ん。それに、気になることはまだあるわ。犯行の手口なんだけど、魔導キーを使用するとして、例の警備兵の目を誤魔化して宝物庫のカギを開けるってのは、ぶっちゃけ無理だと思うのよね」
 宝物庫の目と鼻の先には馬二頭が収まるほどの小さな掘っ立て小屋がある。LOPに関する各種書類や関係者との打ち合わせなどに使用するために建てたられたものらしく、当時、警備担当の人間はそこを拠点に勤務、監視する体制を取っていたようだ。
 今回は犯行予告があったため、外部から特別に警備の専門家を依頼しており、サーシャの目から見ても警備は万全。よほどのことがない限り、彼にバレずに犯行を成立させることは不可能と思えた。
「警備担当の方と犯人が共謀している可能性はないのでしょうか」
「当然の疑問ね。でも、それについてもないと断言できるわ」
 なぜなら、雇われた警備兵はこの仕事に就く際、ある重大な誓約を村長さんと結んでいるからだ。
 すなわち『万が一、ティアラを消失、またはそれに準ずる問題を生じさせた場合、死をもって、これを処す』。自分が死刑になると分かっているのに、犯人に協力するお間抜けさんなんているはずがない。
「とにかく、この事件には、まだまだ不可解な点がたくさんあるわ。それらを一つ一つクリアしていけば、もしかしたら他の容疑者のアリバイも崩れるかもしれない」
 ツンデレが犯人だとすれば、この計画はあまりにもお粗末すぎると言わざるを得ない。真犯人がツンデレを犯人に仕立て上げようとしていると考える方が、よほどしっくりくる。もっとも、そういった諸々を計算し、あえてツンデレ自身に容疑がかかるように狙った可能性も現段階では否定しきれないのだが。
「とにかく、今は情報収集が最優先ね。関係者全員に話を聞いてみましょ。ちょうど、いいタイミングで向こうから現れてくれたみたいだし」
 サーシャの視線の先に、金色の長い髪を揺らして歩み寄ってくる一人の女性が映り込む。サーシャと視線が合うと、彼女は丁寧に頭を下げた。
 この村で魔導キーを使用できる最後の人物。村長さんの奥さんだ。
 想像していたより、ずっと若い。こんな田舎の村にそぐわない、高貴で清楚な雰囲気を漂わせた、エリナさんに負けずとも劣らない、とてつもない美女である。
 熱帯地方に生息する凶暴なモンスター『ジオナイト・イノシシ』のごとく鼻息を豪快に荒げるフェイルを魔導で強制睡眠へと誘い、サーシャは彼女に話を聞いてみることにした。

「私もエリナさんと同じ考えです。あの子が犯人だなんて、そんなはずがありません」
 彼女の第一声は、深い悲しみに暮れていた。
「確かに、あの子は幼い頃には悪事をたくさん働き、人様に多大なご迷惑をおかけしていました。でも、今は違います。村の方々は知らないでしょうが、数か月前からあの子は暇を見つけると都市部のギルドへ出向き、一生懸命働いていたんです」
 その光景を想起しているのか、奥さんが切れ長の二重まぶたを柔らかく細める。
 ふむ。これは、予想外の事実だ。過去の悪行と、あのチャラい外見から、夏でも優雅に暮らすキリギリスくんを想像していたが、意外なことにツンデレは真面目に労働に勤しんでいたらしい。しかも聞くところによれば、どうやら過酷な肉体労働らしい。
 サーシャもつい先日まで畑仕事に精を出していたから、その過酷さは身にしみて分かる。基本的に同じことの繰り返しなうえ、さらにこの時期は炎天下での作業で、涙が出るほど辛いんだよなー(泣)。周囲に対して反抗的な態度を見せながらも、その実、人知れず頑張っていたのか。さすがにツンデレ属性は伊達じゃない。
 その後、村長とは対照的に嫌な顔一つ見せることなく、奥さんはサーシャの質問に丁寧に答えてくれた。
作品名:デンジャラス×プリンセス 作家名:Mahiro