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デンジャラス×プリンセス

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 その間、村人たちからツンデレを罵倒する言葉こそあれ、奴をかばう発言は一切ナッシング。あのツンデレ、どうやら村人たちに相当嫌われているようだ。
 仕方なく、まずはその辺りの事情から探ってみることにすることにする。
 村にある小さな野菜売りの店を営んでいる、いかにも話好きそうな恰幅のいいオバサンを捕まえ、それとなく探ってみたところ、まあ出てくるわ出てくるわ……。どこの世界も、オバサンが噂話好きなのは共通設定のようだ。こっちが尋ねてないことまで、包み隠さずしゃべってくれた。

 それによると、ツンデレ──シャナン──は、元々都市部に存在する貧困地区出身の孤児だったらしい。周囲の大人たちが手を焼くほどの有名な悪ガキだったらしく、当時『スラムのシャナン』と言えば知らないものはいなかったそうな。両親はおろか、兄弟や親族など頼れる人間は誰ひとりおらず、盗みや略奪を働くことで日々の飢えをしのいでいたらしい。
 そんな、ある日のこと。治安維持の一環として、街で悪さを働く貧困住民や孤児たちの一斉取り締まりが議会で可決、承認された。国を挙げての大規模な掃討作戦が執行されるなか、悪童で名高いツンデレも大勢の騎士たちによって、ついに捕縛されてしまうことに。で、その現場にたまたま居合わせたのが村長のオジサマだった。このたびの一斉取り締まりにより、村から加勢に訪れていたらしい。
 捕らえられこそしたものの、持ち前の暴れっぷりで騎士を次々とダウンさせるツンデレを、そこで初めて目の当たりにしたオジサマ。そして何を血迷ったのか、村長はその場で彼を保護することを決めてしまったのだ。ああ見えて村長は結構な高齢のようで、当時からもう子供を作るのはほとんど諦めていたらしい。それでもどうしても男の子の跡取りが欲しかったようで、人間性に難がありながらも活きのいい少年を見て、一目で気に入ってしまったらしい。魔が差したとは、まさにこのことだな。
 それにしても、孤児から一気に村長の息子へクラスチェンジとは。まったく運のいいガキだな。
 それが、ツンデレ八歳の頃。一つ年齢が上で、村長の実の娘であるエリナさんとは、実の姉弟のようにして育ったそうな。
 村に来て、初めて人々の温かさに触れたツンデレ。ささくれた心が優しく解きほぐれ、それからは今までの彼が嘘のように立派な大人になりましたとさ。めでたし、めでたし……とは、どうやらいかなかったようだな、これが。
 それどころか、あのツンデレ。村に来た当初から、とにかく悪さばかりしていたらしい。世を拗ねたガキは、そう簡単には改心しないんだな。実際、話をしてくれたオバちゃまも、詳細は省くが奴から相当痛い目に遭わされたそうだ。個人ではなく、それが村レベルとなると、もはや子供のイタズラの領域を超えてるな。
 で、当時からツンデレが悪さをするたびに真っ先に謝りに回っていたのが、エリナさんだった。村長の実の娘である彼女に頭を下げられては、村人は笑顔で引き下がるしかない。形式上は家族とはいえ、村一番の美人であるエリナさんと一つ屋根を共にし、あろうことか大事に守ってもらえる。それをいいことに当の本人は、やりたい放題、好き放題。
 ツンデレを殺したいほど憎んでいた村人も大勢いたらしい。実際、何人かの血気盛んな若者たちがツンデレを成敗しようと立ち上がったこともあるそうな。しかし、結果は惨敗。幼いころから修羅場を潜り抜けているツンデレは、ケンカもメチャメチャ強いのだった。
 そうして、現在へ至る。さすがに全盛期よりは大人しくなったらしいが、長い間、村人たちを大いに苦しめてきた男だ。忌み嫌われるのは、当然の結果だろう。まさに因果応報ってやつだ。
 そんな嫌われ者の男である。今回のような事態になって非難こそすれ、かばおうとする村人がいるはずがないのだった。
 つまるところ、ツンデレが捕まったという事実だけに焦点を当てれば、この状況は村人たちにとってむしろ願ったり叶ったりな状況なわけだ。村を悩ませる厄介者の男が、このまま消えてくれるかもしれない。一方で、エリナさんが願うようにツンデレが犯人じゃないとするならば、被害状況や察するに真犯人にハメられた可能性が高い。そうなると、動機だけの面で考えても村人全員が怪しくなる。しかし、そうはならない決定的な理由がそこにはあった。
「例の魔導キーですね」
 フェイルが形のいい顎に手をやり、遠くを見通すように目を細めた。この男はこういう仕草が、やけに似合うから腹が立つ。
「あの宝物庫には、あらゆる物理的衝撃・魔導干渉を拒絶する超結界が展開されてる。あれを破るのは、普通の人間には到底不可能だわ。このアタシが言うんだから間違いない」
 結界は、各大陸でも最高峰の結界師たちを集めた合体魔導(ユニゾンスペル)によって形成されている。これを解界するには、これまで何度も話題に出ている専用の魔導キーを使うか、当該結界師たちに一つ一つ術式を解いていってもらうか、もしくは結界をさらに上回る熱量で無理やりぶっ壊すか、の方法しかない。
 いずれにしても、一般市民、それもこんなドのつくような田舎の村人たちが、どうこうできるような問題ではない。
「以上のことから、必然的に犯人は魔導キーを使用できる、あの四人に限定されます。仮にツンデレさんが犯人ではないとしたら、残る御三方のうちのどなたかが『ジョーカー』を名乗る真犯人だということになりますね」
「『ジョーカー』、ね」
 トコトコとブーツの靴裏を鳴らしながら、気の抜けた声で呟く。
「おや、ご不満そうですね」
 ひょこっと頭上から顔を覗きこんでくるフェイルに、サーシャは悪意を込めた半眼を、じろりと返す。 
「白々しいのよ、エロメガネ。アンタも、とっくに気づいてんでしょ。この事件に『ジョーカー』は関係してないって」
「え? えええー? そそ、そうなんですかあ?」
 わざとらしいオーバーリアクションが心底ムカつくが、構ってやると逆に喜んでしまので無視して続ける。
「……あの四人の誰かが『ジョーカー』なんて、アタシには到底思えない。全然ピンとこないのよ。そもそもの話、この事件の手口やら何やら、全然あいつらしくないじゃない」
 事前に犯行を予告し、当日を迎え、宣言通りにティアラを盗む。
 一連の流れが、いかにも普通すぎるのだ。この事件の犯人が本当に『ジョーカー』なのだとしたら、もっと相手の自尊心や被害感情を煽るような、陰険で狡猾なやり口で犯行を成立させるはず。例えば、今回の場合だったら、実際にティアラを盗む前に、宝物庫の中から別のお宝を、さらりと盗んでしまう、といった具合に。 
『ふははは! 私には、いつでも犯行が可能なのだよ!』 
 そんな感じ。そして恐怖におののく村人たちの様子を陰から観察して悦に浸る。世を震撼させる稀代の犯罪者は、そういうヘドが出るような種類の人間なのだ。ああ、趣味悪い。
「ま、んなことよりも、この事件には本物の『ジョーカー』とは決定的に違う、もっと重大で根本的な違いがあるんだけどね」
 そう。真の『ジョーカー』ならば、その存在の証として、くすんだ蒼で描かかれた不気味な紋様を、必ず現場に残していくのだ。
作品名:デンジャラス×プリンセス 作家名:Mahiro