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シナリオ『CUBE』第1幕「アウトサイド」

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シーン2



   部屋は紙の束が散乱しあちこちに、数式の落書きがある。そこに、孝二の奥さんである佳が入ってくる。佳、入った瞬間に部屋の散乱した様子を見て、顔をしかめる。そして、部屋の紙を拾い集めていく。そこに孝二が入ってくる。

孝二 やっぱり、何にもなかった。
佳  冷蔵庫?そっか。じゃあ、あとで買いに行きましょう。車出してくれる?
孝二 うん。
佳  この様子だとしばらく部屋から出てないっぽいね。しょうちゃん。
孝二 反応ないし、寝てるのかもしれない。
佳  ・・・大丈夫かな。
孝二 ・・・たぶん、ちょっと疲れてるだけだよ。いろいろと重なっちゃって。またすぐにノート片手に「腹が減った」とか言いながら出てくるよ。
佳  ・・・うん、そうだね。ま、気長に待つとしますか。にしても、本当に汚い部屋だよね。まあ、しょうちゃんらしいけどさ。
孝二 書斎の方も紙束で埋まってるだろうしね。
佳  昔っからそうだよね。(机をさして)こういうところに数式とか書いちゃうの。
孝二 実家の部屋もそんな感じだもんな。
佳  そうそう。小学校の時とか、家行ったとき、驚いたよ。あっちこっちになんか呪文みたいに数式かいてあるんだもん。最初しょうちゃんのこと悪魔の使いかなにかだと思ってたよ
孝二 そうだった。そうだった。佳、最初やたら警戒してたもんね。
佳  うん。それでしょうちゃんおろおろしちゃって、お菓子出したりとかして、なんとかご機嫌とろうとして。
孝二 あった。あった。でも、「私はそんなんじゃつられないもん!」とか佳が言って、またおろおろしちゃって。
佳  懐かしいな。昔家庭教師してもらってたときも、私は問題が分からなくてイライラしているのに、しょうちゃんおろおろしちゃって。しょうちゃんホント、変わってないな。
孝二 はは、ホントに。
佳  ・・・なんかさ今度もそんな感じだよね。
孝二 え?
佳  たぶんさ、気づいたらさ。でっかい賞とっちゃって、それでおろおろしてるだけだよね・・・?
孝二 ・・・うん。たぶんそうだよ。きっと。
佳  ・・・だよね。うん。・・・あ。
孝二 どうしたの?
佳  車の中におみやげ忘れてきちゃった。ちょっと取ってくる。
孝二 一緒に行こうか
佳  いいの、いいの。孝二は座ってて!
孝二 (少し笑って)はい。

   佳、はける。孝二座って、机の上にあるりんご見る。照明と音響変化し、回想シーンへ。雨音イン
   そこに箱から兄の正路が出てくる。ノートに眼を落とし何事か「しかし、そうするとこの形だと・・・。」などと呟いている。
   そして、そのまま足に椅子を引っ掛けすっころぶ。

孝二 (助け起こしながら)だから、ノートを見ながら歩くのやめなよって何回もいってんじゃん。
正路 いやあ、やめようやめようとは思ってるんだけどね。つい癖でね。
孝二 いつか、それで大怪我しそうで怖いよ。
正路 すまん。
孝二 もう、俺に謝ってもしょうがないから。気をつけてね。
正路 ああ。
孝二 (りんごを投げて)あとほら。

   正路、それを受け取って。

孝二 いつもいつもそうやって物食わないで考え込んで、そのうち、体壊すよ。母さんも心配してたし佳も心配するだろう。
正路 ・・・佳は関係ないだろう、佳は。
孝二 関係あるから。ほら、もういいから座って。少しは落ち着いて食べなよ。
正路 うん・・・。(りんごをかじる)

   正路、椅子に座り、またノートに向かう。

孝二 ったく、今度はいつになくご執心じゃないか。いったいどんな問題なんだよ。
正路 ポアンカレ予想だよ。
孝二 ・・・また偉いのに手をつけたね。それって百年間誰も解いてないってやつだろ。
正路 だからこそ、とても魅力的じゃないか。それこそ、誰の手にも染まってない絶世の美女か女神みたいなものさ。
孝二 でも、それこそ誰にも靡かないんだ。傾国の美女みたいなもんだろう?
正路 だからこそ、解くに値する。それこそ彼女を落とせば宇宙の形すら手に取るように分かるのだからね。
孝二 ・・・ま、数学の女神を口説くのに専念するのもいいけど、そんなことしてると、現実の女を見逃すぜ。
正路 ・・・ん?
孝二 あのな、もう見てるほうが歯がゆいんだけど。
正路 何が。
孝二 もう、いい頃だろ?いい加減ガキの頃から一緒にいるんだからさ、告白するなりなんなりさ。
正路 ・・・さてね。誰のことやら。
孝二 下手くそ、嘘つくならもう少しまともな嘘つけ。さっさとコクればいいじゃん。
正路 馬鹿、コクるとかいうな。恥ずかしいだろう。
孝二 あのな・・・ま、兄貴の好きにすればいいけどさ、あんま待たせんの、かわいそうだよ。
正路 ・・・ああ。(席を立ち、りんごをかかげて)これ、ありがとな
孝二 ん?ああ、うん。

   正路、そのまま部屋の中に入っていく。
   場面切り替わり、現在へ。携帯電話が鳴り響く。孝二は、しばらく待ったあと、電話を取る。

孝二 はい、もしもし、桜井です。・・・すいません、兄は、まだ。・・・こちらからも何度か呼びかけてはいるのですが、・・・十分理解しております。ですが、こちらからは何とも・・・はい。では、一端そちらの方へ戻ります。・・・はい、失礼いたしました。(電話を切る)

   孝二のせりふの合間で佳が入ってくる。電話が切れるとお土産を持って近づいてくる。

佳  教授から?
孝二 ああ、まだ出てこないのか、だって。
佳  そんなこと言ってもね。本人に聞けって思っちゃうけど・・・。
孝二 本人が出てこないからね。仕方ないよ
佳  ま、そうよねえ・・・。ねえ、孝二
孝二 なに?
佳  しょうちゃんさ、私のせいなのかな。
孝二 え?
佳  ・・・なんかさ、私が孝二と結婚してからさ、今まで通りなんだけど、違うっていうかさ、家も出ていっちゃったし、ちょっと、しょうちゃんが遠慮してる感じがあったからさ。だから、
孝二 そんなことないよ。
佳  ・・・。
孝二 兄貴、もともと人付き合いが苦手だったからさ、急に注目浴びて疲れちまっただけだよ。心配ない。また、しばらくして落ち着いたら出てくるよ。
佳  ・・・そうだね。
孝二 うん。・・・それでなんだけど、ちょっと大学に行かなきゃならなくなったから。また帰ってくるけど。今日は買い物いけないと思うから出前でも取っておいて。
佳  ・・・うん、わかった。いってらっしゃい。

   孝二、慌ててはける。
   佳、それを見送り、扉に目を向ける。すこし迷いながら、その扉の前に立つ。そして、控えめにノックをする。しかし、応答はない。

佳  しょうちゃん、起きてる?夕ご飯出前取るけど、どうする?・・・もうマスコミの人もいなくなったしさ、もうそろそろ出てきても大丈夫だよ?
しかし、ドアはなにも答えず、佳、しばらく迷ってドアノブをひねる。すると、ドアが開く
佳  しょうちゃん・・・?

   佳そのまま部屋に入りドアを閉じる。暗転。