思いこみ
「リニア新幹線の運行管理は疲れそうね」
隣のロングヘアの女性はそう云って天本の腕に手をのせた。意味ありげな視線を向けている彼女と眼があい、天本はたじろぐ。そして、云われたことは冗談なのだろうけれど、なぜそんな冗談を口にしたのかが、天本には理解できなかった。
「所要時間が今までの三分の一だってね。恐ろしい速さだ」
正面から男がそう云った。
「ねえ、アラン。どうしたのよ。ことばを忘れたの?」
ショートヘアの女性からの問いかけだった。
「ア、 アラン?それって、誰のこと?」
「あなたよ。自分の名前もわからない?」
ロングヘアの女性は慌てて天本の腕から手を放した。
「俺はガッシュ。お前の隣はメイア。俺の隣がアリラ」
彼は真面目な顔でそう云った。
「私たちは十年前にタトゥーン星からこの星に移植されて来たの」
アリラが補足した。
「……何杯飲んだのかな。飲み過ぎたみたいだよ」
天本はそう云ってごまかしたつもりだが、
「わかるよ、その気持ち。みんな自分の過去を忘れようとしているんだ。こんな小さな星に連れ込まれて、これから何を目標に生きて行けばいいのか、わからなくなっているんだ」
「ねえ、アラン。わたしと婚約したこと、忘れてないよね?」
メイアはそう云って天本の顔を心配そうに覗き込んだ。天本はメイアの小さな手を握った。
「わたしと婚約したことも、忘れてないでしょ?」
アリラもそう云って心配顔になった。