思いこみ
そこは寿司屋だった。その入り口の暖簾の切れ目から顔を出した小太りの男が天本を手招きしている。
「えっ?私ですか?」
「そうそう……今夜の主役がやっと現れたぞ!」
呼んだ男は店内の方に身体の向きを反転して叫ぶように云った。
天本が歩いて行くと腕を掴まれ、中に引き込まれた。座敷で向き合うふたりの女性も、まだ天本の腕を掴んだままの男も、天本に笑顔を向けている。つまり、天本が加わると二対二ということになる。
「もう来る頃だと思ってたの。早く座って。今から乾杯なんだから」
ショートカットの女性がそう云うと、
「五分遅刻ね。いつものことだけどね」
と、ロングヘアの女性が続けて云った。
無理やり、という感じで座敷に上がらされた天本の目の前に生ビールが置かれると、そのジョッキを男が天本の胸元の辺りに持ちあげるので、よく冷えたそれの取手の部分を掴んだ。かんぱーい、と口ぐちに云い、三人は呑み始める。やや遅れて天本もビールを飲んだ。お誕生日おめでとう。そんなことばが耳に入った。
「どう?二十二歳になった感想は」
向かいの席の男に問われた。
そうだったかな?今日が誕生日?
「就職も決まって、良かったね」
云ったのは斜め向かいのショートヘアの女性だ。