シロクロモノクローム
第三十五話:本気にとるぞ
まるで猛獣がうなるようなエンジン音を響かせながら、ぼくらが乗るダンプカーは爆走する。開いている窓から心地よい風が流れ込んきて気持ちいい。運転しているクオリアさんを見る。身長がちょっと足りないので、まるで高下駄のような靴を履いて、アクセルを踏んでいる。でも、手馴れた手つきで運転しているのをみて、なんだか悔しいけれど少しカッコいいなあと思ってしまった。人形なのに。しかも身長足りなくて高下駄はいて運転しているのに。
「クオリアさん」
「ん? どうしたナナ?」
「嫁にもらって下さい」
ダンプカーがクオリアさんの動揺をダイレクトに表現したかのように、左右に大きく蛇行運転した。後ろでカジ君が「うひゃあ」と面白い悲鳴を上げた。
「だ か ら お前は冗談がラジカル過ぎるんだよ!」
「あはは! クオリアさん可愛い!」
ぼくは助手席でお腹を抱えて笑っているのを見て、クオリアさんは舌打ちをした。
「あっ、怒りました?」
「怒ってねえよ」
「じゃあスネたんだ」
「スネてもねえ」
あまりに反応が良かったので、ぼくはもっとクオリアさんの反応を見たくなった。
「じゃあぼくの可愛さに惚れちゃったとか?」
軽い沈黙の中、ダンプカーのエンジン音が響く。てっきりぼくは、クオリアさんがいつものように「んなわねえよ」と笑ってその場が流れると思っていた。本当にクオリアさんが怒ってしまったのだろうかと、ちょっとやりすぎたかなと思い、謝ろうとしたところ、ぼくの頭の上にクオリアさんの手が乗っかった。
「あまりそんな冗談ばっかり言うと、本気にとるぞ」
予想外過ぎるクオリアさんの発言に、どういう意味だろう、とぼくが悩んでいると、後ろのカジ君から、
「安全運転でお願いしますッスー! 死んじゃうっスー!」
と懇願の声が聞こえてきた。
作品名:シロクロモノクローム 作家名:伊織千景