シロクロモノクローム
第二十二話:変化のない世界なんて……
地震がこの世界にもあるのかとか、そんなどうでもいい事にぼくは驚いた。
揺れはそんなに長く続かず、しばらくしてまた、元の、何もない静寂が世界に戻った。
「あの時と同じだ」
横でクオリアさんがつぶやく。
「あの時って、どの時です?」
クオリアさんは神妙な面持ちでこう答える。
「ナナ、お前がこの世界に来た時も、こんな感じに世界が揺れたんだ」
ぼくはすこし考えた。ぼくがこっちに来た時も揺れた。という事は。
「ぼくみたいな人がここに来たかもしれない」
クオリアさんは頷く。
「人じゃなくても、なにかこの世界の謎を解く鍵があるかもしれない。この揺れは、この世界に何か変化があると起こるみたいだからな」
この世界の謎を解くカギ、そうだ、クオリアさんもこの世界の事、あまり理解していないって言っていた。
でも少し、ぼくは怖気づいた。何故か判らないけれど、なんとなく、変化がある事という事が少し怖かった。本当に今さらな気がするけれど。
「よし、それじゃあ何が起こったか探しに行くか」
クオリアさんは伸びを一つして言った。
ぼくはなんでかわからないけれど、クオリアさんにこう尋ねていた。
「クオリアさんは、怖くないんですか?」
「ん? なにがなんで怖いんだ?」
クオリアさんは頭をひねり、何を言っているんだという表情で言った。
「だって、変化がいい事とは限りませんよ? もしかしたら悪い事かも」
ぼくがそう言うと、クオリアさんはアハハと笑い、ぼくの背中をポンポンと叩いた。
「世界ってのは、俺たちが何を言っても変わって行くもんだ。確かに変化はいいことばかりじゃない。昔は良かったとか、古き良き時代って言葉があるしな。けれどな、ナナ。変化がない人生なんて、変化のない世界なんて、生きるに値するか? 生きてても死んでても同じ世界なんて、俺はごめんだね」
それに、とクオリアさんは付け足してこう言った。
「俺自身がなんなのか、なぜここにいるか解るかもしれないしな」
作品名:シロクロモノクローム 作家名:伊織千景