シロクロモノクローム
第十六話:キーボード
鈍い手ごたえと共に、バグが「キャイン!」と短く、甲高い鳴き声を発して倒れた。
「や、やった?」
ぼくはクオリアさんに尋ねているのか、それとも独り言なのか解らない言葉を発した。
「気を抜くな、修正しないとまた立ちあがるぞ。デバイスを持て」
ぼくは言われるままに、ふわふわと、ぼくのそばで宙に浮いていたデバイスを持つ。先ほど見たときと変らず、デバイスには一部が文字化けした、一つの文字列が書かれていた。
「一部文字化けしているだろ? これに<修正>と打ち込んでみろ」
「打ち込むって、どうやってやるんですか?」
手に持ったデバイスはただの透明な球体だ。携帯キーやキーボードのような形をしていたらまだわかるけれど、これでどうやって<修正>と打ち込めばいいのだろうか。
そう考えていると、デバイスはまるで、麺棒で伸ばしたパン生地のように平らになり、やや斜めになってぼくのひじあたりの高さで停止した。そこには透明だが、見慣れたボタン配列が表示されていた。パソコンのキーボードと同じ配列だ。
「やり方はパソコンの文字入力と同じにしておいた。もたもたしているとバグが起き上がるから気をつけろよ」
倒れているバグをみると、かすかに身体が動き始めている。確かにもたもたしてはいられなさそうだ。ぼくはキーボードで<修正>と打ち込み、エンターキーを押した。
作品名:シロクロモノクローム 作家名:伊織千景