シロクロモノクローム
第十五話:闘争
「しゅ、修正ってどうやって?」
「まずは相手の動きを止めないとな。デバイスを持って、何か武器をイメージしろ」
「戦うの?! ムリムリ!」
「じゃあ喰われるしかないな」
背後からは、犬の様な化物、クオリアさんいわく"バグ"の凶暴な息遣いが聞こえる。
選択肢はもうないみたいだ。僕は息を切らしながら、デバイスを持ちながら、武器をイメージする。武器、武器、どんな武器? 剣っぽいの? とにかくなんか強そうなやつ!
すると、手に持っていたデバイスが突然、まるで最適化した時の様に、ぼこぼこと動き出した。そして、デバイスの一部がポンと分裂する。分裂したデバイスの一部は、引き延ばされたかの様に縦長になり、随分と適当な形の棒きれになった。
「想像力低っ! いわゆるひとつのヒノキの棒だな」
クオリアさんが腹を抱えて笑っている。コンチクショウ! 事実だから否定できない。
「あのバグは鼻が弱い。思いっきりその棒切れで叩いてみろ」
ぼくは意を決して棒切れを手に取り、振り返った。"バグ"との距離はもう、目と鼻の先だった。
今まで生きていくうえでほとんど役に立たないだろうと思っていた、体育の剣道の授業で習った知識を総動員する。だけれど、殆ど思い出せない。サボってばっかりだった自分の不真面目さを、このときは本気で呪った。
でもやるしかない。脇を締めて、半身を取り、手と手の間隔を拳一つ半ほど開ける。そして、思いっきり振りかぶり、飛び掛ってきた"バグ"の鼻先めがけて打ち下ろした。
作品名:シロクロモノクローム 作家名:伊織千景