シロクロモノクローム
第十四話:逃走
なにあれ? 犬? 椅子? そもそも試験って、ぼくなにも教えてもらってないのに?
混乱しているぼくを、クオリアさんはどやしつける。
「ボーっと突っ立ってんじゃねえ! "バグ"に喰われるぞ!」
ハッとぼくは我にかえる。椅子だった一匹の獣が、鋭い牙をむき出して、こちらに向かって走ってきている。敵意むき出し、殺意むき出しの眼が、ぼくを震え上がらせる。
ぼくはあわてて、反対方向に走り出した。このまま立っていたら、自分の命が刈り取られる。本能的に察知した上での行動だった。
「なんだいなんだい。逃げても無駄だぜ。"バグ"は狙った獲物を決してあきらめない」
クオリアさんはいつ出したのか、スケートボードに乗って、悠々とぼくの横を並走している。
「そ、それじゃあどうすればいいんですか!」
混乱と恐怖と、クオリアさんの余裕ぶりへの苛立ちで、頭の中はごちゃごちゃだった。
背後からは、獣が鋭い爪で地面を蹴る音が徐々に迫ってきている。このままでは追いつかれてしまう。追いつかれたらどうなるか。考えたくもなかった。
「デバイスを見てみろ。間違っても立ち止まるなよ」
クオリアさんに言われるまま、ぼくは走りながらデバイスを見た。透明なデバイスの中に、ひとつの文字列が浮かび上がっている。ところどころ文字化けしているのがわかった。
続けてクオリアさんは言う。
「これがあの"バグ"の正体だ。これを今から"タギング"で修正する」
作品名:シロクロモノクローム 作家名:伊織千景