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ORIGIN180E ハルカイリ島 中央刑務所編 11

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助「女にアノ時のような声を出させて、対戦してる奴らがいるってのはよく聞く話だ。不思議と誰かが一人勝ちしたりしてね。女ばかりの対戦に限るってゲーム場もあるらしい」
ア「向こうはこちらをからかってるか、侮辱してるんじゃないか?…きっと老住が考えたんだぞ。あいつの腐った発想でなきゃ出てこないような選択だろ」
助「だけどあの教授が町のゲームセンターの機種を知ってるとは思えませんよ。まあ、坊主が必死にやってる声を聞けば嬉しがるでしょうがね。…ああ、なるほど、確かに嫌らしい選択ではあるかな」
 助手はそう認めてしまって、思わずレイクの方を見た。
 少年はゲームに勝利するコツをつかもうと、熱心に他の助手にやり方を聞いて練習している所だった。
レ「騎手の掛け声でしょ、ハイヤハイヤっていう。たぶんトロットとか早足とかも、掛け声一つで変えられるんだな。障害物競走だったら、そうやって声音を使い分けなきゃならない」
ベ「どうやら普通のトラックを走る形式みたいだ。向こうはこれを先にやろうと言ってきてます、どうしますか?」
レ「ちょっと待って。音声の接続に少しかかるって言え」
ア「向こうと音声が繋がったら、皆は下手に声を出すなよ。特にベン、君は一々操作法をレイクに聞くな」


 ユースに審判を頼まれた技師イが、ベンのコンピューターに送信してきた。彼は公正を期すために、自分が別の部屋へ移されたという事を画面上で報告した。
助「医学部は何か企んでるんじゃないだろうか…」
ア「入り口をちゃんと見張れよ」
レ「画面をよく見せてくれ。VOICE・RACINGのお手本操作が映ってるな。一周だけして、先にゴールした方が勝ちか」


 その時、別室の救護科技師が合図をしてきた。コンピューター室と音声を繋ぐために、そこで操作をしていたのだ。
 本部室の各所に設置されたスピーカーから、やがてユースの声がした。
ユ「レイク、君は今ごろ眠ってるものと思ってたよ」
老「早くやってみろよ。声を高く張り上げないと進まないそうだぞ。何なら私が行って手伝ってやる、レイク」
ア「やはりいたな、老住。何を企んでるんだ?これは普通に遊ぶのを目的とした競馬ゲームなんだぞ。お前の願うような嫌らしい展開になると思ったら、大間違いだ」
老「お前こそ何を考えてる。一体お前らは、そこで何を始めたんだ。ユースの司令系統を断ち切ったという事は、すでに回線接続はやったんだろ?レイクはお前らに尻を差し出して、内部を探らせたんだな」
レ「…あんたは黙ってろ。そちらの誰も、馬に小細工はするなよ。したらすぐに分かるからな」
ユ「それより何故MELT・DOWNなんか選んだ?君の手がちゃんと動いてるとは思えないよ。ゲームなんて持ち出してくるから、君からのアクセスに違いないとは思ったけど」
レ「お前こそ…。ユース、何故だ。何故あんな真似をしたんだ?」
 レイクはユースが刑務所にルーを送った事を問いただそうとしたのだが、相手はわざと外した受け答えをした。
ユ「君のよがり声が聞きたい。聞かせてくれよ。僕は今、君が欲しくてたまらないんだ」
 それを聞いていた本部室の人々は、みな一様に困って視線をあちこち移し変えた。こうストレートに回線を使って個人的な会話をされると、周りの者はどう反応していいか分からなくなってしまうのだ。
レ「ユース、俺を消したいというのは本気なのか。いつからそんなふうに思い始めた?お前が本島で言った、あの時の告白は嘘だったのか。ただ仕事で必要だったから、迎えに来たに過ぎないんだな。お前は老住が好きだから…結局の所は俺が邪魔なんだろ」
ア「もうやめろ、レイク。発声は結構、体にさわるんだ」
ミ「ユース、この争いをやめる気はないか。私の助手が交渉しに行ったろう?頼むから聞いてくれないか。レイクを落ち着かせてやれ。この子の気の済むようにしてやってくれ」
老「甘い奴だな。そんなもの聞いてたら本人の為にだってならんぞ。そいつを不用意に甘やかすな」
レ「これ以上、話してても無駄だ。さっさと始めよう。何か他に決めておく事はないか」
ユ「これはN堂の機種だ。通常の競馬と同じタイプのゲームで、騎手は掛け声をかけ続ければいい。君の声や体力は持つか?」
レ「お前に途中で脳を操作されなければね」
チ「壁を“お蔵”並みにしたな。だがお前一人で機器を動かしてるわけじゃあるまい?これからのゲームでお前が他の者の手を借りた時には、俺もすぐに参入させてもらうからな。楽しみにしてるぜ」
 そのチョースの言葉を聞いた助手達は、目を見合わせて不安そうな顔をした。しかしレイクは動じない様子で、出されたマイクの発声テストをしていた。


 やがてスタートの合図が、本部室とコンピューター室へ同時に発せられた。
レ「ヤア!ハイヤッ、ハッハッハイッ」
ユ「ハイハイハイヤッ、ソレッ。ムチがあるんだな…右下のボタン。君が先に取れよ」
レ「場がぬかるんでる。この天候表示がそうか、風向きと‥うっ、何で嵐が」
 ゲーム内の競技場では今まさに突風と横殴りの雨が二騎の馬を襲っていた。泥が目茶苦茶に跳ね飛んで、馬は走りにくそうだった。コーナーを回って向かい風になると、その悪条件がいっそうひどくなった。
老「芸が細かいな。本場イギリスが作った物に違いない」
助「いや、N堂だったら日本だろう」
助「なるべく声を出し続けろ。低くてもいいから」
チ「アドバイザーが大勢いるな。良かったな、レイク」
 アモーににらまれて助手らは縮こまった。

 トラックを半分行った所で、最初から飛ばしていたレイクの馬が弱ってきた。本人があまり声を出せずに、呼吸を乱し気味になっていたのだ。彼はハアハアとあえぎながら、それでもあきらめる事なくムチを使って馬を走らせようとした。
ユ「あまりムチに頼ると、馬が転倒して即負けるからな。気をつけろよ」
レ「こんな時まで人の面倒を見ようとするのが、お前の悪いくせだ」
ユ「僕は負けたってちっとも構わないよ。また隙を見つけて埋め込めばいいんだから。楽しみが増えるだけさ」
レ「ハァ‥ハァ‥くそっ、進めよ。ハアッ、ハイヤッ。イケイケイケイケ───ッ!お前はいい子だ、まだ走れる、ブチ馬っ!」
チ「ハハハッ、あし毛って言うんだ。競馬を見た事ないのか。こんなのの戦い方まで目茶苦茶な奴だな。学校の短距離じゃ遅いだろ。右足と左足を同時に出してるようなもんだ」
ユ「よく分かるな…僕も人の事は言えないが。レイクは少なくとも500メートルの花形にはなれないね。どうして頭脳と運動能力ってのは両立しないんだろう」
ア「神様はそのへん上手く振り分けてるのさ。お互いをちゃんと尊敬しあえるように個人差ってのはある」
ユ「いい事言うな。それじゃ、そろそろラストスパートにかかるか。君は‥君の馬はまだスタミナは残ってるか、レイク?馬にもちゃんとエネルギー消費量が加算されてるんだぞ」
レ「ハイッ、ハイヤアッ。分かってるよ、そんな事はっ。コーナーを上体倒して行けないか、お前、アシ毛?馬を柔らかく作ってないな…手落ちだ。一番の押さえ所がクリアされてないから、このゲームはマイナーなんだ。馬鹿だな」