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ORIGIN180E ハルカイリ島 中央刑務所編 11

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レ「あなたに頼もう。医学部のコンピューター室と回線をつないで、ユースとコンタクトを取って下さい」
ベ「しかし…一体何ですか。僕に何をしろと」
 助手は顔を赤らめて、レイクやミットンを眺めた。
ミ「レイクがつい先程‥君らがいない間に、再び体にチップを埋め込まれてしまった。それを取り外す手伝いをしてやってくれ。コンピューター室の面々に、その機器を使って通信するんだ。指示はレイクが出す」
ベ「そんな事…」
レ「お願いだ。俺は今、手が思うように使えない。言う通りに打ち込んでくれればいいんだ。君のできる範囲の速度でやってくれていい。向こうへのアクセス番号は───」
 さっそく番号を言い出してしまうレイクに、助手はキーを打つしかない状態に追い込まれた。彼は耳まで赤面しながらも、手は見事な速さで言われた番号を打っていった。
 彼は打ち終えた後、少年の方をおずおずと見た。
レ「あなた名前は?」
ベ「ベン・タイラー」
ミ「20歳だったな?うちで一番若いインターンだ」
レ「俺はレイク・カジマだ。よろしく」
 レイクは契約の意味でベンに握手を求めた。
 これからやろうとしているのはかなり大仕事で、実際に手の代わりとなるこの助手にはお世話になりそうだと判断したからだった。
 一方、ベンは少年の普通の人らしい言動に、ホッとした様子を見せていた。それと共にこれまで緊張してソワソワしていた態度もだんだんと落ち着いてきた。
 ミットンたち医者は、そんな彼が落ち着かない理由をこう考えた。
 ───自分達が目を離したすきにチップを取り付けられてしまったので、その事で怒られるかもしれないとビクついているのだろう…

 ベンによって作業は進められ、やがてコンピューター室からの応答が画面に現れ始めた。
 そんな時、レイクが突然、片手で頭を押さえた。向こうからネット操作で痛みを送られているらしく、少年は辛そうな表情をしていた。
 アモーはそれに気づくと、頭が動かないよう体を支えに行った。
レ「パソコンを…ルーに直接、接続して下さい。ベンは攻撃からの防御を作れ。セキュリティの手動システムに入って…暗号を使えば早い。RNAJW…」
 アモーとミットンはレイクの言う通りに動き、素早く布団をはぎ取ると、はいているズボンを下ろしていった。
 ベンは命令された文字を打たねばならず、気にしている暇もなかったが、つとめてそちらを見ないようにした。
レ「…4739。 先生、早く!皮膚の上からそのまま、回線に接続した針を突き刺してくれればいいんだ。腰の傷が目印に‥。ウ───ッ」
 レイクはベッドに突っ伏して、手で下のシーツを固く握りしめた。助手はその震える背中を見ながら、「暗号の続きは?」と聞きたくても聞けないでいた。
 技師がベッドの脇で、レイクの言うような回線針を器用に作り始めた。その間、医者二人がレイクを押さえながら議論していた。
 以前レイクのチップに付いていた接続線は、すでに刑務所で取り外されて使えなかった。ただ元のチップはナノ線が伸びて侵入者を探索する習性があったので、ある程度まで近づけばルーにも接触できるとレイクは言っているようだった。
ミ「下手に刺してどこかの器官を痛めたらどうする。それをするには透視スコープを用意しないと」
ア「機材が来るまで待ってられない。向こうの攻撃を止めるのが先だ」
ミ「とにかく、無難に直腸から通そう。その針の先はゴムで覆ってくれ。内視鏡を持ってこさせる」
 ミットンに指示されて、他の助手が機材を取りに出て行った。
 
 やがてレイクの肛門から回線が挿入され始めた。
 少年が苦しんでいるのは挿入のせいなのか、それともコンピューター室からの攻撃が原因かは分からなかった。ただベンはもはやそういうものを、看護生としての目だけで見る事が出来なくなっていた。
 彼はポケットの中に手を入れて、その中から自分の股の中心を押さえていた。しかしますます興奮は高まって抑えがきかず、彼はたまらず腰を椅子から浮かした。そして言い訳めいた口調で、うわ言のようにつぶやいた。
ベ「僕はちょっと‥やっぱり無理みたいです」
 ベンは立ち働く人々を残し、そこから離れようとした。しかしうつ伏せになっているレイクに腕をつかまれ、止められてしまった。
レ「なぜ逃げるんだ。すぐおさまるから」
 レイクはそれからしばらくハーハーと息を吐いていた。医者が少年の中にコンピューター用のケーブルを容赦なく入れていくのを見ながら、助手は泣きそうな顔になった。
 少年は荒い息を少し抑えて片目で彼を見ると、やっとの事でまた言葉を発した。
レ「何か‥急用?───駄目か。トイレ?」
 目線の先にある助手の腰が、落ちつかなげに動いているのを見てレイクはそう聞いた。
 ベンは脂汗を流しながら、何度もうなずいてみせた。レイクはバッタリと下に伏せながら助手の腕を離した。
 開放されたベンの方はどうしていいか分からず、しばらくその場で躊躇していた。
ア「何だ?」
 アモーがそれに気づいて彼を見た。
ベ「すみません、ちょっと…」
 青年は後ずさると、そこから急いで走り去っていった。他の者があっけに取られて彼を見送った。
レ「トイレだって。誰か、代わりに‥番号を」


 技師が代わりを務めようとしている所へ、再びベンが他の助手らに捕まって引っ張られてきた。
 助手らは先程から後輩の様子を見ていたようで、アモーにこう言って説明した。
助「私らの責任問題になりかねないとあっては、こいつに今リタイアさせる訳にはいきませんよ。待って下さい、言って聞かせますから」
 彼らはベンをドスンと元の位置に座り直らせた。
助「いいか、ここは恥ずかしいとか、そんな悠長な事を言ってる場合じゃないんだ。自分の首が…いや、お前だけでなく、俺達の首がかかっていると思え。将来をこんな事でフイにしたいのか。え?」
ベ「だけど…誰か大丈夫な人がやって下さい。僕は駄目なんです、意識しちゃって。もう分かっちゃったらどうしようもないでしょう?」
ア「何の話をしてるんだ」
 アモーとミットンは助手のその奇妙な態度を見て、お互い顔を見合わせた。レイクは依然として神経攻撃を受けていて、その苦痛に全身をさいなまれながら体を震わせていた。
助「お前が一番速いんだから仕方ない。助手一同の意地をかけて、お前を役に立たせるぞ。さあ、続きを」
ミ「ルーにちゃんと接続されているのか、確かめる術がない。内視鏡は?」
 取りに行っていた者が、やがて機器と道具を引っ張って帰ってきた。レイクは回線ケーブルの脇から、さらに内視鏡のカメラを体内に入れられる事になった。


 医者がその作業をしている間、ベンは隣で寝ているレイクと同じぐらい息を荒くしながら、椅子に無理やり座らされていた。青年はかたくなにうつむいて自分の横から目をそらし、辛そうに唇をかみ締めていた。
レ「ベン…大丈夫か?」
 そんな声がかすかにしたので、彼は視線を少し右に向けた。
 するとレイクが目から涙を流しながら彼を見ていた。シーツを握り締めているこぶしが白く血の気を失って震えていて、彼はそんな少年を見ながら不覚にもうなずいてしまった。