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ORIGIN180E ハルカイリ島 中央刑務所編 11

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ユネ「今その大学ネット内の誰かと話をしているようだ。外部をシャットアウトしてるから入り込めない」
Q「では終わるまで待ちましょう。向こうのイ技師が変な事に借り出されてるようですよ」
ユネ「変な事?」
Q「何かやってるらしいです。催し物でしょうかね‥何かのパーティかもしれない」
ユネ「ルーはどうしてる?」
Q「今はレイクと一緒にいますよ。彼がルーを呼んだようです」
ユネ「回復に助力を頼んだのかな。…少年は死んではいないようだね、良かったじゃないか」

 その時、Qのアクセスコードを受けてコメットが返答した。彼らはコンピューター回線をマイクにして話を始めた。
コ「どうしたんだ。ユネストか」
ユネ「ルーはどうしたか気になってね。カンムがいない内に知りたい。でないと、あいつが不機嫌になるんだ」
コ「明日中にはイが全ての作業を終えて戻ってくる。その後、政府用コードに慣れさせたり、学習させるのに5日かける。君にすぐつなぐような事はせず、まずは機械に彼女を入力して、君と並行して活動させる。EUとルーが問題なく合体するのを確かめて、なおかつその融合率が80%以上をキープすれば許可しよう。まあ、いずれにしても明日から君の娘は君と話が出来るようになるよ」
ユネ「早く本当の娘とも再会したいものだ」
コ「どうやって会うのかね?奥さんも子供も今では別姓で、違う人生を送っている。それを予測できなかった君でもあるまい」
ユネ「そんな事はどうでもいい、ただ会いに行けばいいんだ。生きてる限り‥体がある限り、会って触って話をする事が出来る。肩書きなど何だっていいじゃないか。その為だったら俺はセールスマンだろうが、配管工だろうが、学校の教師や主治医だろうが…とにかく何にだってなってみせる」
コ「ユネスト君、それでは奥さんが困るだろ。再婚できないのに会っていても、問題が起こるばかりだよ。子供の成長にも良くないんじゃないか?」
ユネ「まさか政府は邪魔をしないだろうな。俺はこの九年間というもの、それだけを頼りに生きてきたんだ。リハビリもそれが無かったらここまでの成果は得られなかったし、実験の成功だって無かった」
コ「それは分かるがね…忠告しておきたいんだ。問題が起きて傷つくのは君だけじゃなくて、家族の方々もだという事を。それを充分注意して事に当たってくれよ」
ユネ「そのつもりだ。心配するな、ルーも帰ってくる。それでずいぶん精神が安定するだろう。きっと俺が駄目でも、人工知能が何とかしてくれるよ」

 そこで少し会話が途切れたが、再びユネストが話を始めた。
ユネ「今、大学で何をしてるんだ。もうルーは切り離されて、政府の方のネットに浮かんでるんだろ?少しだけでいいからアクセスさせてくれ」
コ「向こうの監視と探索が厳しくてね。君や検査室の機器をあまり向こうに繋げたくはないんだ。何なら、記録した音声でよければ聞かせてやろう。ただしこれはルーではなくて、ルーが命令してLが動いている所だ」

 コメットは技師イから送られたゲーム対戦の内容を、ユネストに情報として送ってやった。
 しばらくユネストは黙ってそれを聞いていた。そしてその後、実に医者らしい感想を述べた。
ユネ「手術はやや成功といった所だな。レイクは大脳皮質の左28番から35番の部分‥体の運動機能が麻痺しがちなはずだ。第四種細胞の活動も弱い。それが充分に活動できないと、後々精神障害を引き起こす原因になる。眠りと目覚めの切り替えが上手くいかなくなるしな」
コ「ルーに回復指示を与えて、直接脳に伝令として送ればどうだ?」
ユネ「もう一度ちゃんとした手術をするか、ナノ線も含めた人体内のチップに、徹底した指令組織を作って管理させる事だな。ルーがいなくても新しいチップで出来るだろ。ユースが作った物なら、EUに近い働きが出来るに違いない」
コ「ユースが対戦に負ければチップは除去される。そうなっても君はルーを返して欲しいか?」
ユネ「もちろんだ。大学の近くに置いておくと、盗られそうで心配だ。俺に戻す事をちゃんと約束しただろう?」
コ「君の精神的安定がかかってるのだとしたら、やむをえんかな。それではイにユース寄りの判決を頼むとするか。あまりあからさまな工作は出来んだろうが」
ユネ「今はどっちが優勢なんだ」
コ「ユースだ。2ゲームを終えて‥60問ずつのゲームだから76対44で彼が勝ってる。しかし前のは負けてるからな。これに勝ったら、さらに決勝戦でもするのかもしれん」
ユネ「一体何だってゲームなんぞ始めた?」
コ「15歳同士の決着のつけ方なんだろう。レイクから仕掛けたんだそうだ。すでに新チップは彼に埋め込まれてるというのに」
ユネ「ユースがやったんだろうか…早業だな」
コ「ユースという少年は確かに天才児らしい。政府の人体計画のいい標本になってるよ」
 その時、大学側から再びイの打診があったのでコメットは単独で受けた。


 しばらく向こうと話をした後、イとの通信を切り上げてから、再び彼はユネストとの回線を開いた。
コ「参ったな…レイク側が勝ってしまったらしい。ユースは手を抜いたに違いない。またチップを埋める楽しみがあると言っていた」
ユネ「イに待てと伝えてくれ。俺が説明していいか?あの体は遊んでる場合じゃない事を教えてやる。さっさと治療を再開させるべきだ」
コ「ユースら大学のコンピューター室の思惑が絡んでて、簡単にレイクの治療が出来ない状況なんだ。あの少年が死ぬような事があると、君は悲しいか」
ユネ「そりゃ俺の半分はEUだから、悲しいには違いないだろう…だが俺にはルーが一番だ。その為ならレイクが死んでも仕方がないと割り切れる。君が実験用の人体を失っても構わないのなら好きにしろ。大学は大学のいいようにするだろうし。さっさとゲームを終えてルーを戻してくれさえすれば、俺に不服はないんだ」
コ「フム…それでは警告を与えるだけにしよう。君の主張をまとめてくれ、その通りに私が向こうに送信するから。イの判定の前にね」




 付属病院の本部室では、助手たちの歓声が沸きあがっていた。今では控え室の看護師たちも何事かと顔を見せて、彼らのやる事を見物していた。
 そうやって興奮しきって大騒ぎしている彼らをアモーが叱り飛ばしていたが、もはやあまり効果はなさそうだった。
 その騒ぎの中心には椅子に座ったベンがいて、ニコニコと笑いながら仲間を見上げていた。レイクは再び枕に頭を落ち着けて全身の力を抜き、目を閉じながらルーに礼を言っている所だった。

 そこへ別室の通信機を通じて、突然中央刑務所からの声が届いた。
コ「大学病院内、救護科の医学関係者に告げる。この通信は限定送信されているもので、送信主は政府分室主任・コメットだ。返信をどうぞ」
ミ「責任者のミットンだ。どうかしたかね?」
 別室でミットンがすぐにそう対応した。
コ「技師イの判定の前に、私がユネスト医師の診断を述べる事を許されたい。そこの…レイク少年の
手術経過についての一所見と受け取ってもらいたいが」
ミ「喜んで聞こう。無茶をさせてるのは承知している。手術は完全には終えていないのが事実だ」
 ユネストが先ほど指摘した事柄について、コメットはその通りを述べていった。