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ORIGIN180E ハルカイリ島 中央刑務所編 11

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 一方、コンピューター室の隣部屋にいる技師イには、刑務所のコメットから通信が来ていた。
コ「大学は何をして遊んでる?これは行事の一つか」
 音声回線を政府ネットに変えて、イが答えた。
イ「レイクとユースが新チップをかけて対戦してます。私はその審判役なんです」
コ「ルーまで借り出されて…おまけにLが動いてるな。レイクは手術したばかりで大丈夫なのか」
イ「大丈夫とは思えません。医師がしきりにドクターストップをかけてますが、何せ双方が‥」
コ「両方の回線を少し聞かせろ。───うるさいな。やはりふざけてるとしか思えん。…少年以外も部屋にいるな、彼らは誰だ?」
イ「看護部の職員達です。画面も見ますか」
コ「新チップと言ったな。データは読んだが、本当にあの少年が作ったのか。どうやってあの小さいサイズにした?」
イ「どうやらナノ線の複製機能を製作段階から使ったようです。コンピューターに指示を与えておいて、人工知能主導で自由に細部を作らせたとか。彼自身は言われた通りの材料を揃えただけだと言っていました」
コ「その言葉の通りだとしても…たぶん始めの指示の内容だろうな、驚嘆すべき点は。彼は政府の重用リストに登録しておこう。将来きっといい科学技術者になる」
イ「ところで、私は正当に審判すべきでしょうかね。何か指示をしたければ今の内にどうぞ。レイクが勝てばチップは出され、ユースが勝てば彼が全てを支配する事になります」
コ「君はどちらが得策だと思う?まあどちらに転んでも、何とかする事は出来るがね」
イ「判断がつきません。だから運のままにした方がいいかと」
コ「じゃあそうしたまえ。一緒にその祭りを楽しめばいい。…何だ、一つはもう終わっているのか。驚いたな、レイクが勝ったのか」
イ「これにはちょっとした経緯がありましてね。“勝たされた”と言ってもいい」
 そこでイは声のトーンを少し落とし、相談でもするように話を続けた。
イ「主任、あの少年は大学へ帰ってもボロボロにされ続けています。私としては、あなたに何とかしてやってもらいたい。あまりに哀れなので、見ている方が居たたまれなくなってくるんです。あの少年はドラマに出てくる悲劇のヒロインのようなものです。いじめ抜かれる不幸な身の上が、視聴者の共感を誘うって所ですか」
コ「今の所、ヒロインを助けに行かせる適当な俳優がいなくてね。ここからは誰も貸し出せんよ、残念ながら」
イ「ユースとチョースを何とかすべきです。あの二人がもはや実質的にコンピューター部屋を動かしてる。信じられない話だが、老住教授までがそれに翻弄されている感があります」
コ「さすが21世紀生まれのハイパー人間たちだ、噂に違わずだな。彼らの年代は次世代の旗手だと言われているが…。天才的な頭脳を持ちながら、一方では社会に対して破壊願望も併せ持っているアンバランスな生き物だ」
イ「主任、あなたが一言言えばレイクは従うんです。あの少年をしかるべき場所に保護して、当初の予定通りカンム医師に面倒をみさせるべきです。それが一番いい。あの年の子供にカンム先生との性交渉を勧める訳ではありませんが、ここにいてもただ信奉者を増やすだけで何の解決にもなりません」
コ「そんなにモテるのか、羨ましいじゃないか。同性にだってモテないよりはいい。この世の中、何であれ人望がものを言うからな。その子は上手く大学が育てて、未来の政治家にでもすればいい」
イ「それはつまり、どういう意味です?」
コ「この会話は盗聴されてる。不用意に私からレイクに指示は出せないよ。逆に彼を苦境に追い込む事にもなりかねない。だが君の提案はよく分かった。こちらも運を天に任せてみる事にしよう」


 確かに医学部コンピューター室の片隅では、チョースがその話を聞いていた。
 彼は隣室にいるイ技師を見張る役を、ユースから仰せつかっていた。技師と政府分室との接触がないか常に監視しているのだった。
 レイクが人工知能Lに繋がっている間に、コメットが何らかの指示を出すに違いないとチョースはにらんだ。それでレイクの作ったネットの防護壁に潜んで、政府の情報介入を待っていたのだ。先ほど彼が作った防護壁の穴を、コメットが利用してくる可能性があったからだった。