小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

ナギとイザナギ

INDEX|4ページ/5ページ|

次のページ前のページ
 

「他の剣では、神の本体を斬ることができないんだ。なぜかわかるか」
「神の、本体」
 僕は考えた。神は肉体を持たないはずだ。魂だけの存在。すなわちそれは。
「わかった。レプリカの神器だと、効果がないんだね」
 イザナギさんはそのとおりだと頷いた。
 じいちゃんに聞いたことがあったんだ。全国にある神社の神器は、ほとんどがレプリカ、模造品であると。 
 まあね。本物の神器なんて、あるわけないと、思ってたんだけどさ。
「だが、大地の家宝の剣は本物の神殺しの剣なのだ。よし、これでイザナミを倒すことが、できる」
 言い方が激しいので、吹っ切れたのだろうか。それとも、勢いをつけたかっただけとか。どちらでもいいけど。
「よっしゃ。それじゃあ、さぎりを助けに行こうぜぇ」
 もっと突っ走りそうなのがいた。僕は先が思いやられそうで、気が重たいんだが。

 それにしてもイザナミはなぜ、さぎりをさらったりしたのだろう。
 たしか、さぎりを消すといっていた。消すということはつまり、殺すということだろう。
 そして、さぎりを目障りだとも言っていた。神とは、恨みつらみを抱いたまま、神社という箱庭に封印されているようなもの、とも、一部では言われるらしいから、イザナミももしかしたら、そういった存在なのかもね。
「ナギのその説は正しいようでもあるが、そうでもない」
 イザナギさんが教えてくれた。
「怨念を持ったまま封印された魂もあるにはあるが、すべてがそうではないよ。出雲の大国主が祟るなどといわれてるが、アレは納得して鎮座しているだけだからな。大和は無理やり平定させたのかもしれないが、それでも出雲は、存在している。大国主、やっこさんは心の正しい神なのだよ」
 僕は感心していた、出雲嫌いのはずのイザナギさんが、そこまで大国主を褒めるなんて、意外だったからだ。
「大国主のことは、嫌いではないんだよ。彼の妻の須勢理比売(スセリヒメ)はスサノヲの娘ではあるけれど、大国主はスサノヲの子孫のひとりだ。直属ではない可能性があるからな」
 いや。そういう細かいところは、興味ないんだよね。
「とにかく先を急ぐとしよう。さあ、ここを越えれば根の国、すなわち、黄泉だぞ。本来は生きたまま入ることはできないが、こいつを持っていろ」
 イザナギさんは皮の袋から細身の美しい剣と、しなやかな弓矢を僕と大地に与えてくれた。
「まずその剣は『生太刀(いくたち)』という。弓矢は『生弓矢(いくゆみや)』といって、生命力を込めた祭祀用の道具なのだが、お守り代わりになる」
「あ、ありがとう。これがあれば、黄泉を越えることができるんだね」
「イザナミに勝つには、これらの武器を集める必要があるからな。つまり、賢いナギならわかってるだろうが、イザナミはとっくに死んでいる。現代で言うならば、ゾンビ、というところか。死人は生命の持つ光り輝く力が、苦手なんだよ」
「なるほど」
 僕と大地はイザナギさんのわかりやすい説明に、頷いていた。
「イザナミって、死んでも美人なんだろう」
 大地の空気読めない発言を聞き、イザナギさんは不機嫌そうだった。
「ばか。イザナミは魔物と一緒だよ。あんなの二度と見たくないね」
「見たのか、ナギ。なあ、どんなだった、美人だろ、美人。女神さまだろ、女神はきれいって相場きまってんだからさぁ」
 そんな決まった相場、聞いた覚えすらない。これでまた、イザナギさんの大地への株が下がったんだなぁ。不憫な。
    
   
 
  深い闇を越えると、例の東屋までやってきた。
「イザナミ、来たぞ。今日こそ決着をつけようじゃないか」
 僕がいつか覗き込んだ障子窓が開き、イザナミが顔を出す。
「あたくしの攻撃受けて、難なくやられたくせに、よくいうわね、元だんな様。いいえ、吾がいろせ。あたくしの愛するお兄様」
「お兄さん、それじゃイザナミは」
 イザナギさんは否定するように頭を左右へ振った。
「いや、ちがう。もうあんなのは、妹でも妻でもない。ただのゾンビ化したミイラにすぎぬ」
「まああ、ひどいわね」
 高らかに大笑いを始めるイザナミ。つんざくほど、耳障りだった。 
「いいわ。せっかくこの黄泉の国まで来てくれたのだもの、ご要望にはこたえなくちゃね」
 奥の座敷には、さぎりが横たわっていた。なんとか助けられないものか、と思案する僕。
 イザナミの隙をうかがっていた。
 だが、大地の馬鹿が早まって、障子窓から飛び込もうとしたから、作戦が狂ってしまった。
「さぎりっ」
「ふん。なめたまねを」
 イザナミは猛烈な勢いで大地を殴り飛ばす。だが次の瞬間、大地をつかみあげると、驚いたように叫んだ。
「スサノヲのにおい。まさか、あの子の」
「そうだ、出雲の神を祖先にもつ少年だ」
「ああ、なんてこと。痛かったでしょう、ごめんなさいねぇ。でも」
 なんと、イザナミは、大地までもを奥座敷へ幽閉してしまった。
「大地」
「おいたしたら、お仕置きが必要なの。理解しなさい」
「そ、そんなの、非常識だろ、ふたりを返してよ、おばさんっ」
 僕はうっかり、おばさん呼ばわりしてしまった。するとイザナミの表情が豹変して、こめかみにシワがはいった。
「おっ、おば、おば、おばばばばばば」
「いまだ、ナギ。生太刀を振るえ。ふたりを助けろ」
 イザナギさんに言われたとおり、僕は太刀をイザナミに斬りつけた。
 イザナミは斬りつけられた痛みに悶え、悲鳴を上げ、のたうちまわる。
「ぎゃあああっ、いたい、いたいいたいっ。おのれぇ、小僧。容赦はせぬぞぇ」
 僕は、以前見た不気味な口裂け女のイザナミを思い出し、背筋を凍らせた。剣を持つ手が震えてくる。
「い、イザナギさん」
「ナギッ」
 イザナミの鋭く伸びた爪は最強の武器だった、その爪の餌食にされたイザナギさんは、背中を切り裂かれ、地面に転がった。
「イザナギさんッ」  
「そんなガキをかばって死に急ぐなんて、愚かよねえ。お兄様。では、これで今生の別れ。さようなら、迷わず成仏なさってね」
「イザナギさんっ、起きて、イザナギさんっ」
 僕はとめどなく溢れる恐怖心と、イザナギさんを助けたい一心で抱きつき、イザナミから守りたかったんだ。
 でもそのとき、僕たちの前に立ちふさがる人物の姿があった。
「さ、さぎり」
 そう、それは、さぎりだった。
 本人の意思はなかったようで、無意識のうちにフラリと現れた、そんな感じだった。
「さぎり、危ない」
「小娘、あんたも死にたいようだね。覚悟しなっ」
 イザナミが、しゃあっ、と奇妙な音を出し、さぎりに襲い掛かろうとした刹那だった。
「おやめなさい、イザナミさま。イザナギ様は、深くあなたを愛していたではありませんか。その愛をお忘れですか。あなたを失ってからも、ずっと、あなたを愛していらしたではありませんか」
 さぎりの言葉に、イザナミは動きを止めた。
「お願いです、どうか、争わず、穏便にことをお鎮めくださいますよう。この菊理媛尊(くくりひめのみこと)は、切に、切に願いまする」
「く、菊理媛、だって」
 イザナミはその名前を耳にして、半狂乱しはじめた。どうなってんだろう。僕はゆっくり立ち上がると、まだ意識の戻りそうにない、さぎりの様子をうかがっていた。
作品名:ナギとイザナギ 作家名:earl gray